最近よく目が合うね。なーんて、そんなのウソウソ。
作り出した偶然よ!必然よ!
僕は豪快なスイング一つして、君の注意を引いている。
それだけのこと。(ガーン)
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「どうしよう」 と田島が言うのは何も珍しいことではない。 だから、気軽にどうかしたのかと聞き返したことを、花井はすぐに後悔することとなった。 「あのね、俺、ひょっとしたらって思ってたんだけどさ」 「うん」 「俺、三橋のこと好きになっちゃってたみたい」 「うん」 あっけらかんと言われて、花井は思わず普段と変わらない調子で頷いてしまっていた。 一瞬慌てて、いや田島のことだからどうせ深い意味はないんだろうな。そう、考え直して自分を落ち着かせる。 「好きって、野球が好きとかそういう?」 「うんまぁ、野球は大好きだけど。でも、三橋はヒトなんだから、別だよー」 バカだな花井。 そう返されて、チクショウと心で花井は毒づいた。 ニコニコ満面の笑みを浮かべて、田島は花井を見上げてきている。 何かを、花井が言うのを待っているのだろう。 期待に満ちた目に、しかし花井は一体田島がどんな答えを望んでいるのかまるで分からないでいた。というのも、まず田島の言う「三橋が好き」というものが、どの部類に値するのかということが分からないでいるからだ。 もう一度、花井は聞く。 「それじゃぁ、ヒトとして、友達として好きってことだろ?」 問いかけの語尾が断定めいたものになってしまったのは、花井の希望が入っていたからだ。田島は、大きく顎を上下させて頷く。 それに、花井が安心して息を漏らしたのもつかの間、 「友達として好きなのは、まずダイゼンテイだよな」 明瞭な声で言うと、でもと続ける。 「でも、好きなのは好きってことだよ」 「えぇと。つまりあれだ具体的に言ってもらうといや聞きたくはないけど、でも具体的に言ってもらうと」 「言ったら、オレ、三橋の彼氏になってみたい」 うーん、そっちに行くか。 花井は項垂れた。 例えば、そう言った性癖を持った人間を差別するとか、煙たがるとかそういった気持ちは花井にはちっともなかった。それも、一つの在り方だろうと思う。 ただ、田島の場合はそれとは違うように花井には思えた。 元来、そういう性癖ということはないだろう。 それは、短い付き合いの中でも明らかすぎる程に田島自身が証明してくれている。 しつこい程に見せつけてくるグラビアや雑誌は、みな豊満な胸を持つ女タレントのものばかりだったし、そういった話題での対象はいつだって女だった。 (あ、でも。最近ちょーっと、三橋の話題が多かったかもしれない) だけれど、それは今のような状況にならなければ意識しない程度のこと。 というか、誰の話題が多いとしても、それは同じ部内のメンバーなのだからと自然に思ってしまう。 三橋の話題と同じぐらいに、やっぱりグラビアの話をしていたし、野球の話もしていた。 ならば、田島の感情というのはちょっとした勘違いなのではないだろうか。 花井は、思考回路を必死に動かして考えた。 血気盛んなお年頃。 お付き合いをしてみたいと思っても、それはごく普通のことだ。言い方は悪いけれども、そういった欲求が強そうな田島のこと、本人に自覚があるかどうかは別として、手近な相手で間に合わせてしまえば簡単だと思っているかもしれない。 花井は、決して田島のことを見損なったわけではない。その方が、いっそ彼らしいと思ったのだ。 しかし、考えた傍から花井はいやいやと声には出さず否定した。 (ううん。でも、田島はそんな節操なしな奴じゃないよな) 無邪気に強引で子供っぽくてだけど時々すごく男らしい。 それが、花井の思うところの田島像である。 (そう、男らしい) 対する三橋像といえば、あり得ない程に卑屈で気弱で口下手。でも根は優しい、良い奴。 じゃぁ、あまりにも頼りない三橋とクラスも同じ田島が、花井がそうであるように三橋に保護者のような気持ちを抱いているのだとしたら? 仕方がないなと苦笑して、何かあったら手を差し伸べてやる。 自らが進んでそうすることは、どこか「恋心」に似ているかもしれない。 (どうよ、これ?これなら良い感じじゃねぇ?) 自分の考えに花丸をやりたいような気分で、花井は小さくガッツポーズを作った。 しかし、せっかく目立たぬように下の方で作ったのにもかかわらず、田島の視界に入ってしまったらしい。 「なに、気合い入っちゃってんの?おっかしな、テンションっ」 茶化す、というよりも不思議そうに。 田島は両腕を後頭部に回して、腰を左右に回しながら変なの変なの、と繰り返して言う。 「変なのはお前だろー」 「なんで?」 きょとんとした大きな目で、見上げてくる。 「だって」 花井は、その目の迫力にややたじろぎ言い淀む。 今から言うことで、田島が本気で怒ったら黙って殴られでも何でもしよう。 花井は思って、 「ごめん」 そう一言、前置いた。 「なにが?」 「お前のこと、否定するみたいに聞こえちゃうと思うから」 「へぇ?」 「だから、別に怒ってもいいよ」 「別に、おこんないよ」 腰を斜めにひねったまま止まって、見上げてくる顔は無表情に近い。 普段表情が多いだけに、不意にこんな顔を見せられてしまうと脅威を感じるというか、不気味にすら思えてしまう。 だから、田島がすぐに歯茎を見せて笑った時には安心した。 「花井は、こういうドーセーアイとかは否定はしないけど、受け入れもしないだろうなって思ってたし」 「受け入れられないってことじゃないけど・・」 視線を脇に逸らし、口元を手で覆う。 「でも、オレ、田島は気持ちを誤解してると思う。好きってさ、好きなんだけどもっとこう、保護者みたいなっていうか」 「放っておけないなとか、オレが助けてやんないとなとか?」 「そうそう」 「それって、花井もそういうふうに思ってる?」 そりゃぁ、まぁ。 頷くと、田島はさも愉快そうにいひひと笑って、花井らしいなぁとその背中を平手で思い切り叩いた。 衝撃で胃が詰まったようになり、うっと呻く花井。 なにするんだと、睨み付けたのにも田島は気にする様子はなくへらへらと笑っていた。 「実はさ、オレ別に三橋のことが好きでどうしようだなんて、ちっとも思っちゃいないんだ」 「は?」 「だって、勘違いじゃなくて本気だもん。三橋のこと」 「オレ、てっきり相談されたのかと思ってたよ」 「そう思わせてたからね」 けろりと言われて、花井はさらに困惑した。 「花井の気持ちが知りたかったんだよね。花井は、三橋のことよく構うからさ」 「お前に対しても、相当労力を使ってると思うよ、オレは」 「まね。でも、それはオレが三橋と一緒にいる時がほとんどだよ」 「そりゃ、誤解だ」 両手のひらを見せて顔のところにまで挙げて、お手上げポーズを取りながら花井はため息混じりに言う。 教科書を貸すこともあれば、宿題を教えることもある。 その時には、大抵田島だけで三橋の姿はない。 そう言うと、田島がそれはオレが進んで花井のところに行ってるからだよと返された。 「三橋を独り占めさせたくないから。すくなくとも、オレの相手してる時は、三橋には近づけないでしょうが」 「マジかよ」 「マジマジ。だから、花井さ。オレに協力してよね。お前は三橋のこと友達だって言うんだからさ。頼むぞ、ゲンミツに、さ!」 バンバン、とまたしても背中を叩かれる。 胃にくる衝撃の心地悪さは、身体的なものだけではなく。どこか、釈然としない気持ちからも来ているように花井には思えた。 「ゲンミツの使い方、間違ってるから」 けれど、その気持ちが何なのかは分からなくて、力の抜けた声でそう言うだけで精一杯だったのだ。 「いいから。ゲンミツに、だぞ」 畳みかけるような田島の声は、いつもとは違う硬質なものが入り交じっていた。 それが腹立たしい。 田島の声が、勘に触る。 (どうもいまいち、自分の怒りどころが分かんねぇなぁ) そのことが、また花井を苛つかせるのであった。 |