アンケート至上主義
ジャンプの一番の特徴ともいえる「アンケート至上主義」。一口に説明するのは難しいが、ジャンプという雑誌の本質的部分であるともいえるものである。
一番簡単に言うならば、読者の意見を忠実に誌面に反映する主義である。ジャンプに綴じ込みされているアンケートハガキにより読者の意見、感想を募るシステム。基本となるのはその号全ての連載作品の中から面白かったものや面白くなかったものを選ぶ選択式アンケートである。そしてその結果によって連載順位や打ち切り、新連載、作品の方向性、誌面構成や特集などジャンプ全体が動いていく仕組みとなっている。以下、詳しく説明していく。
アンケート至上主義は創刊号の編集長長野規の強い要望で始まり、ジャンプの固い編集方針となっていったものである。長野規はデータを重視するタイプであったため、特にアンケートの数字にも厳しかったという。当時、連載は10回を目標に開始され、5回目ぐらいまで読者の支持率が上昇カーブを描いていれば、10回以降の続行を考えはじめたそうである。もし下降カーブを描いていれば、10回の完結に向けてストーリーをまとめていくことになる。また逆に漫画家が、テーマを描き尽くして作品自体に飽きて、終了を希望しても人気のある間は、強引に連載を続行しなければならなかったという厳しいものであった。
アンケートは読者プレゼントと連動しており、読者は回答し、切手を貼って投函すると同時にプレゼントにも応募することとなる。現在のプレゼントの内容は、ゲーム機や玩具、スポーツ用品、電化製品など様々で、主に時期にあったプレゼント企画が毎号たてられている。プレゼントは高額なものから割合安価なものまで約10種類から任意に選択でき、総300人程度が当選するようになっている。また抽選でなく、ハガキを出すだけでもれなく当るプレゼントを用意している場合もある。これは通称全プレと呼ばれていて、この時はハガキの回収率が抜群に良いようである。
もちろんハガキは毎号付いていて、アンケートの内容もそのときどきによって変る。例えば新連載がスタートした号であれば、その連載の印象や今後の展開についての質問となることになる。(下記参照)又、その時々のトレンドや価値観を汲み取るためのアンケートも毎号実施されている。(下の例でいえば「☆挌闘技についてお聞きします」以降に記載)アンケートの質問項目は編集者全員が考え、設問の一項目ごとに深い考察がなされている。集計だけでなくクロス集計も行われ、数字から色々なものが読み取られる。
この集計されたアンケートの結果は、誌面に反映されることになる。(集計は約2週間後に発表。約2ヶ月後に誌面に反映される。誌面構成から逆算)
その端的な例として掲載順位が挙げられるだろう。人気の高かった上位5作品位は常に誌面の早い段階に掲載される。またカラーページも必然的に多くなる。カラーページ、特に巻頭カラーはその号の表紙ともなる目玉なので、当然ある程度人気が無いと掲載されない、いわば人気のバロメーター的役割もあるといえる。また掲載順位を高めることで、より多くの読者にアピールでき、読者が興味を持っている作品を編集部がまたプッシュするかたちとなっているわけである。
逆に人気が低いと巻末やその近くに載せられることとなる。新連載でも人気がでない場合はみるみる内に順位が下がっていく。(最近では新連載は必ず50ページ以上の巻頭カラーでスタートする)そしてそのまま人気が盛り返さないときはちょうど単行本一冊に収まるよう、約10週で打ち切られる。実績のある漫画家の連載など、すこし様子を見る場合は約17週、単行本2冊分の連載が続行する。殊、新連載に限っては非常にシビアで、たとえ大御所と呼ばれる作家でも人気が出そうもなければ容赦なく連載は中止となる。一般的に、カラーページを3回以上執筆すると、連載が安定するとされている。出だしの巻頭カラー、その2週あとくらいにあるセンターカラー、そしてその次にセンターカラーと3回のカラーを取れれば、およそ生き残りが決定する。
また「アンケートでは人気は無いのだが、単行本の売れ行きが良い。」という連載も存在する。割合に歴史のある連載がそれにあたる。それらは一定のファン=固定客をつかんでいるとされているので、無茶な打ち切りということは無く、掲載順位は下ではあるが安定した連載となる。
その他掲載順位だけでなく、作品の方向性、ジャンプの軸、ベクトルなどもアンケートから割り出される。例えば読者がラブコメを望んでいるという結果が読み取れたならば、恋愛ものの漫画の連載を始めたり、従来の連載の方向性を変えていったりもする。スポーツものが足りないということであったら、特別企画としてサッカーや野球の誌面を作ることもある。
アンケートハガキの内容例 (2000年新年第2号 『無頼男』梅澤春人 連載開始号から引用)
表面 東京都千代田区一ツ橋2−5−10 週刊少年ジャンプ新年2号
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『無頼男−ブレーメン−』は、悪ガキ二人組がケンカと友情を軸にミュージシャンになるために上京するというストーリーである。(あくまで初期設定だが。)そこでアンケートは二人の主人公のキャラクター設定と、音楽に対する関心の度合いを質問している。そしてこの結果によってこの作品の掲載順位はもちろん、今後のストーリーにも大きな影響を与えることになる。例えば、読者は音楽をあまり好きではないという結果がでれば、当然ミュージシャンになるという話の展開は割愛されていくことになり、主にケンカをメインにした物語になっていくだろう。
もちろんこのアンケート一回だけで方向性が決まってしまうというわけではないが、ここから担当編集者が読み取ったデータは漫画家に強い影響を与えていることは確かだといえる。ジャンプで良く見られる唐突な話の展開はアンケートによって作り出されているのである。
その長所と短所
長所としては、非常に読者本位のシステムであるということが挙げられる。読者のニーズをいちはやく読み取り、誌面に反映させることで全体的にレベルの高い雑誌となる。またきちんとした数字をもとにしているので、編集部の偏向した誌面つくりの防止にも繋がる。又そこから派生する、掲載順位制度も作家や担当編集者の士気を高めるものともなる。人気作を前半に集中させることにより、散らばすより面白さが凝縮されて購買意欲にも繋がる。
打ち切り制度も、新連載を何週も連続で始めるためのスペースを開けるために必要不可欠なものであるといえる。そうすることによって誌面のマンネリ化も防げるし、新人作家を多く起用でき、新しい才能を発揮できる場所の確保もできる。
短所としては、あまりにデータを偏重しすぎ、数字に振り回されることによって本当に読者の意見をくみ上げられない恐れがあることが挙げられる。実際、打ち切られた漫画が後から大反響が来て急遽連載が再開したこともあった。(1999年『ライジング・インパクト』)幅広い読者層すべてをターゲットにするのはさすがに困難だろうが、データだけではなく、プロの編集者として面白い漫画というものを見つめ直していかなくてはいけないだろう。
また掲載順位制については作家や担当が人気取りのために安易なストーリーに走りがちな点が指摘できる。ジャンプにありがちな「急に物語が戦闘描写中心になる」など。しかもこの手法はもはや時代遅れの感が強い。
打ち切り制度の短所としては、長いスパンで作品を育てることができないことや、中途半端に完結するいわゆる駄作の量産に繋がることが挙げられる。前述の専属制度で作家を拘束するわりには、連載にはあまり整った環境であるとはお世辞にも言えないだろう。新人作家の中にはこのプレッシャーからジャンプ連載を敬遠する人も多いと聞く。
逆に人気が出始めると、漫画家が摩耗するまで連載を続けさせるという弊害も生まれる。一度擦り減った漫画家はなかなか前線に復帰できない。は80年台のジャンプではそういった作家が後を絶たなかった。
回収率も10代男子読者に極端に偏っていることも一応挙げておく。