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覆面探偵] 1塾経営者殺人事件

                              山本昌輝

 

 松本東馬は飛び下り自殺をするため、学校の屋上へ行った。

「十八歳で終わりか。ハハハハ。起立、礼、さようなら」

東馬が飛び下りようとした瞬間、後ろから誰かが取り押さえて、二人とも屋上の上に転ん

だ。

「邪魔するな」

東馬は手を振り切り、前に突き進もうとした。

「お前が死んだら、わしも死ぬんだよ」

「何っ!」

東馬は足を止め、振り返った。背広を着た白髪の小柄な老人がいた。

「誰だ、あんたは?」

「お前の曾孫じゃ。お前の自殺を食い止めるため、二十三世紀からやってきた」

「へっ。誰がそんなでたらめ信じるかよ」

「だったら、信じさせてやろう。お前の名前はまつもととうま。身長百七十五センチ、体

重六十八キロ、光栄高校三年一組。同じクラスの三人組から、暴力、かつ上げなどのイジ

メを受けている。彼らはお前のことをとうまではなく、トンマと呼んでいる」

「ふん。そんなことぐらい調べたらすぐ分かることだ。あんたが曾孫だったら、曾孫にし

か分からないことを言え」

「お前の家には源頼朝を先祖に持つ家系図がある。お前の父親は、そんな物はインチキだ

から、燃やしてしまえ、といつもお前の祖父に言っていた。祖父は、燃やした、と嘘を付

いて、こっそりとお前にそれを渡した。お前はそれを本棚の裏に隠している」

「どうしてそれを?」

東馬はびっくりして老人を見た。

「どうだ。信じる気になっただろ。わしはお前の曾孫じゃ。お前は次の世代に家系図を渡

すためにも死んではいけないんだ。お前には明るい未来があるんだ。計り知れない可能性

があるんだ。お前はこれから振りかかる難事件を解決して行かなければならない。探偵と

してな」

「探偵だと。何で俺がそんなことしなきゃならないんだ?」

「それがお前の宿命なんだ。人のために働くことが、お前の成長にもつながるんだ。しか

し、お前はまだ自分の実力を発揮するすべを知らない。そこで、何か事件に遭遇したら、

これを身に付けろ。これがお前の眠っている才能を引き出してくれる」

老人は背負っていた黒いリュックを降ろして、その中から、十センチ程のハイヒールの革靴、グレーの背広、ワイシャツ、紺のネクタイ、ライオンの覆面を取り出した。

「何だ、それ?」

「お前はこれらを身に付け、覆面探偵Xに変身して、難事件を解決して行くんだ」

「ダセー。こんな恰好悪い物、被ってられるかよ」

「今のお前の方がもっとダセーんじゃないのか」

「・・・・・・。あんた、未来からきたんだよな。だったら、アニメみたいにもっと恰好

良く変身できる物、出してくれよ」

「そんな都合のいい物はない。これらは飽くまでもお前の潜在能力を引き出してくれる道

具にしか過ぎない。解決して行くのは、お前自信なんだ。お前が全身全霊を打ち込めて、

人のために尽くすんだ。覆面はお前の自信のない弱気な面を隠し、才能に溢れた本来の自

分を出す手段なんだ。いつの日にかお前は成長し、一人前になる。その時こそ覆面を脱ぐ

時だ。覆面探偵Xから、名探偵東馬に進化する時だ。その日まで、お前は覆面探偵Xで活

躍しろ」

「できねえよ、そんなこと」

「とにかく事件に遭遇したら、覆面探偵Xに変身しろ。不思議な力が沸いてきて、使命感

に燃えるはずだ」

「やりたくねー」

「しっかりしろ。お前はわしたちの先祖なんだぞ。お前がしっかりしなくて、どうするん

だ」

「ちょっと待ってよ。俺が先祖で、あんたが曾孫ということは、俺の方がずっと年上とい

うことだよな。それなのに、何でさっきからため口利いているんだ。お前だなんて言いや

がって」

「あれっ」

老人は首をひねってから、荷物を残したまま、後ろへ向かって歩き出した。

「何があれっだ。こら、待て。ちゃんと謝れ。おじいちゃんに乱暴な言葉を使って、済みませんでしたって言え」

東馬を老人を追いかけた。

「覆面探偵X、未来から、お前の活躍を見ているからな。期待しているぞ」

老人はそう言い残して、貯水槽の裏に行った。東馬もすぐ行ったが、老人の姿はどこにもなかった。

「消えやがった。あいつ、本当に未来からきやがったのかなー。マジで曾孫かなー。また

ため口利きやがって、許せねえな。どっちにしろ、このままじゃ、死んでも死に切れねえ。

自殺は取り止めだ。あいつを謝らせるまではな」

東馬は元の場所に戻った。

「何が覆面探偵Xだ。誰がやるか」

東馬は老人が残した荷物を残して、二、三歩歩いたが、すぐに戻り、リュックにそれを詰

めて背負った。足にかかるリュックの重みが、新たな自分を予感させた。