地獄裁判
無料お試しページ                         
                                                      
                                              山本昌輝

 

「主文、被告人は無罪」

北川口がほっとした瞬間、床が抜け落ちた。ワー! 北川口は真っ逆様に落下した。暗黒

の世界に吸い込まれて行く。いつの間にか気を失った。

 誰かが頬を叩いている。目を開けると、黒の帽子を被り、黒の制服を着た警護官のよう

な屈強な男が両側にいる。彼らは自分の両脇に手を差し入れて持ち上げた。どうやらここ

は法廷らしい。しかし、さっきまでいた所とは全然違う。床、壁、天井、テーブル、イス、

傍聴席がすべて赤である。正面の二段目の壇上には、黒の制服を着た裁判官らしい人が、

少し間を置いて三人並んで着席している。一段目には黒の背広を着た書記官や速記官らし

い人が、左右に着席している。右横のテーブルの前のイスには、黒の背広を着た弁護人ら

しい人が座っている。左横のには、黒の背広を着た検察官らしい人が座っている。傍聴席

には誰もいない。自分は裁判官らしい人達の前方にあるテーブルの前に立っている。やは

り落ちたのは錯覚ではなく、現実だったのだ。

 二段目の壇上の真ん中に座っている白髪の初老の裁判長らしい人が、木槌をトン、トン、

トンと叩いた。

「これより地獄裁判を開廷します」

「ちょっと待って下さい。地獄裁判って何ですか。どうして私はここに連れてこられたん

ですか?」

北川口は怒りを堪えながら、裁判長に向かって聞いた。裁判長が重みのある低い声で答え

た。

「刺殺された被害者の霊が、あなたを殺人者として、地獄裁判に訴えました」

「嘘だ。私は誰も殺しちゃいない。早くここから出してくれ!」

北川口は大声を張り上げた。

「被告人を静かにさせなさい」

裁判長が言うと、二人の警護官が両側から、北川口のこめかみに銃口を突き付けた。

「マジかよ」

北川口は鉄の冷たい感触が全身に伝わり、体が震えた。