探偵大学SP 3農村殺人事件無料お試しページ

 

                              山本昌輝

 

 おやじが哀れな者を見るような目で俺を見ている。

「勇次、お前は農業を継がなくてもいい。お前の好きにしろ」

おやじが背中を向けて歩いて行く。肩幅の狭い背を丸めて、失望の泥沼を進むような重い

足取りで遠ざかって行く。

「待てよ、何だよ、それ!」

俺はおやじを追いかけた。いつもなら、農業を継げ、と説教をするくせに、何だ、今の言

い草は。俺を見限ったのか? それなら、それでもいいが、何か釈然としない。

「どういう意味だ?」

おやじが半開きのとろんとした目で振り返った。

「だから、お前の思い通りにやれ。わしは遠くへ行く」

「遠くって、どこだよ?」

おやじは何も答えず、沈むように進んで行く。いや、実際に沈んでいる。もうおやじの体

の半分が底なし沼に消えている。慌てて俺は手を差し出した。

「おやじ、つかまれ!」

おやじは手を出すどころか、少し肩を揺らして笑っているようだ。こんな時に何笑ってい

るんだよ。小さな背中がさらに小さくなって行く。

「早くつかまれ。死ぬな、おやじ!」

おやじが底なし沼に消えて行った。冷たい風が吹いてきた。

 

 俺は目を覚ました。朝日がカーテンの隙間から漏れている。夢で良かった、と思った。

最近はおやじの悪夢をよく見る。すべて俺を罵倒する夢だったが、今朝のは違う。あんな

気弱で、投げ遣りなおやじの夢は見たことがない。本当に夢だったのか。生霊か何かじゃ

なかったのか。だとしたら、何かを伝えたかったんじゃないのか。わしは遠くへ行くって

どういう意味だ。まさか他界するという意味じゃないだろうな。

 不安に駆られて、布団を出た。久し振りに実家に電話をかけた。

「勇次だ」

いきなりおふくろの甲高い声が飛び込んできた。

「大変だよ。お父さんが警察に連れて行かれた。どうしよう、どうしよう」

俺は仰天した。

「落ち着けよ、おふくろ。詳しく話してくれ」

「大野さんがスパナで殺されたんだ。それがお父さんの物だった。二人の刑事が家にきて、

お父さんを連行したんだ。勇次、こっちにきておくれ」

「分かった。すぐ行く」

俺は急いで着替えをしてから、アパートを出た。やっぱりさっきのはおやじの生霊だった

んじゃないのか。自殺しようとしているんじゃないだろうな。死ぬなよ、おやじ。ムカツ

クけど、また説教してくれ。