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No.134 ★★★ 2002/06/15 Sat  井深大とソニースピリッツ  立石泰則
 日本経済新聞社 1998/03/25

井深大とソニースピリッツ  立石泰則 日本経済新聞社  ソニーの創業者 

 今回取り上げますのは、盛田昭夫とともにソニーを創業した経営者井深大の人となりを、ノンフィクション作家立石泰則が綿密な取材に基づいて描いた本です。
 戦後に創業した日本企業で今や世界的な企業として、ソニーと並んでホンダが人口に膾炙しています。どちらの企業も創業時は、2人の人物による二人三脚の経営で有名でした。ホンダには本田宗一郎と藤沢武夫、ソニーには盛田と井深がいました。
 私が今までに読んだ本の中では、この2つの企業は、一方は技術担当(本田、井深)、他方は営業・経理担当(藤沢、盛田)という明確な役割分担がなされた「二人三脚の経営」という表現が、異口同音になされていました。

 しかし、この本の中では全く異なる考えが披露されています。
 元会長大賀典雄は著者とのインタビューで次のように述べています。
<ホンダの本田(宗一郎)さんと藤沢(武夫)さんの関係と、うちの井深さんと盛田さんの関係は、よく似ていると思われがちですが、全く違います。「技術」と「経営(マネジメント)」という両輪の立場にあったという見方をする人もいますが、私は全然違うと思います。私は、本田さんと藤沢さんのお二人とは、もともと非常に親しくしていました。井深さんが本田さんを知る以前から、私は本田さんも藤沢さんも存じ上げていたんです。(中略)井深さんと本田さんとを比べたら、本田さんというのは桁違いにセオリティカル(理論的)な人ではない。勘が頼りの人ですね。だから、藤沢さんがいなかったら、現在のホンダは絶対になかったと思います。それに対して、井深さんと盛田さんの関係は、井深さんが「技術」で、盛田さんが「マネジメント」と言った明確な区分はなかったですね。(中略)つまり、井深さんと盛田さんの2人は、技術についても話し合える関係にあったのです>
 ソニーは、昔は「モルモット企業」と揶揄されたことがありました。実験的な商品を市場に投入するが、その成功を見た他の企業、例えば松下電器が同様な商品を開発し全国のチェーン店に大量に卸し、大きなシェアを占めたことが幾度もありました。そのため、松下ではなく、マネシタ電器と侮蔑的な名称を与えられたことがありました。

 「モルモット企業」と呼ばれた井深はどのような感情を抱いたのでしょう。
<決まった仕事を、決まったようにやるということは、時代遅れと考えられなくてはならない。ゼロから出発して、産業と成りうるものが、いくらでも転がっているのだ。これはつまり商品化に対するモルモット精神を上手に生かしていけば、いくらでも新しい仕事ができてくるということだ>
<一つひとつ開拓して商品にしていくのがモルモット精神だとすれと、モルモット精神もまた良きかなと言わざるを得ないのではないか>
 はじめからそうではなかったにせよ、「ソニー・モルモット論」を歓迎する発言をするようになったそうです。逆手に取ったと言えるでしょう。

 ソニーにはソニーらしさという独自性のあるものに挑戦するというイメージが定着しています。そのため、ソニー製品は値引きしない、つまりブランド力のある製品なら高くても売れるという伝説がごく最近まで生きていました。
 しかし、そのソニーも低価格路線で一定の地位を得たアイワを完全子会社化して内部に取り込みました。また、ソニーというブランドとは別のブランド(「PSYC(サイク)」「Sports(スポーツ)」「Liv(リブ)」)を作り、米国では10〜30代の若年層を取り込むためにデザインを刷新し、成功しているそうです。(日経ビジネス 2002年4月22日号「時代超流」)

 新しいことに挑戦すれば失敗はつきものです。失敗を恐れていては、無難な製品しか作り出せなくなります。その結果、売れないということになります。

 ソニー製品で有名なのはウォークマン、プレステ2(PlayStation2)、バイオしかないではないかと指摘する人もいます。つまり、ソニーらしい挑戦的な商品が作り出せなくなくなっているのではないかと危惧しているわけです。
 この点について、著者は興味深いことを述べています。
<かって、井深は、「ソニーの経営者は失敗する権利がある」と語ったといわれるが、もちろんこれは“失敗してもいい”という意味ではなく、失敗を恐れないチャレンジ精神こそがソニーの経営トップに求められる資質であり、第一の条件であるという意味に他ならない。その意味では、井深氏の社長時代もまた、失敗を恐れず挑戦し続けた時代だったといえるだろう>
 何よりも、官僚化しチャレンジ精神をなくした「大企業病」を恐れ、小回りの利く中小企業のよさを失ってはならないと言っているように、私には感じられました。

 この本から「ソニー」という企業の原点を再考する機会が得られたことが、一番の収穫でした。


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