なぜ、出せるはずの利益が出せないのか
同著者による『ザ・ゴール』を取り上げたことがあります。
TOC(Theory Of Constraints、制約条件の理論)についてわかりやすく説明するために、小説という形式を用いて活写した本でした。
今回取り上げる本は、在庫削減にERP(業務統合ソフト)を導入したにもかかわらず、在庫がむしろ増えている原因はどこにあるのか、そしてなぜ利益が出ないのかということをストーリーテラーのエリヤフ・ゴールドラット博士が描いた本です。前作同様、小説という形をとったビジネス書です。
テンポよくストーリーが展開し、また内容も面白いのでいっきに読み終えました。
この本のキーワードは「最適化」です。「最適化」には部分最適化と全体最適化の2種類があります。部分最適化というのは、会社組織を例にとりますと、それぞれの部署内での最適化を言います。全体最適化というのは、会社全体での最適化を意味します。
どちらが優れているかは明らかです。全体最適化です。なぜでしょう。部分最適化をいくら集めても全体最適化には結びつかないからです。むしろ弊害の方が多くなります。
ある部署が最適化したとしてもそれはその部署内だけに通用する話ですから、他の部署ではデメリットが生じることがあります。具体的な例を1つ挙げましょう。
販売部が商品を他社よりも少しでも早く大量販売したいという要望を持っていたため、仕入部に早急な入荷の要請をしたとします。
その要請を受け、仕入部は商品を少しでも早く大量に仕入れたいために、今までの船便の代わりに航空便を利用することにしました。そのため、今まで入荷までに2ヵ月かかっていた商品が2週間で自社倉庫に大量に入荷しました。
ところが、商品管理部では事前に充分な情報が与えられていなかったため、予想を遥かに超えた商品の山に収拾がつかなくなるという事態に陥りました。
さらに、経理部では船便から航空便への変更に伴うコスト増について事前に知らされておらず、事後報告で済まされたことに対して反感を抱くことになりました。部署には「壁」が存在し、互いに他部署には干渉しないという社風がありました。
部署間の力関係だけで物事が行われると、こうした事態が発生することがあります。確かにスピードは武器になります。しかし、その武器を生かすためには普段から部署間の「壁」を取り除き、コミュニケーションを密にしておくことが不可欠です。
しかし、現実にはコミュニケーション不足によるトラブルが頻発し、責任のなすりあいになるケースが多くあります。
こうした問題で思い出したのは、瀕死の日産をV字回復させたカルロス・ゴーン社長です。
ゴーン氏の成功要因として私は次の5つを考えました。
(1)強いリーダーシップを発揮し、自ら実践したこと(率先垂範)
(2)小さな成功体験を積み重ね、現場に自信を取り戻させたこと(意識改革)
(3)取引先を絞り込み、徹底的にコスト削減に取り組んだこと(コスト意識の徹底)
(4)デザイン重視へ方向転換したこと(デザイン戦略)
(5)クロスファンクショナルチーム(組織横断的なチーム)を設け、組織の壁に風穴をあけ、スピード感のある柔軟性のある組織に作り変えたこと(クロスファンクショナルチーム)
この中の(5)のクロスファンクショナルチームこそが、全体最適を目指す際に鍵を握っていると考えました。このチームがうまく機能しなければ全体最適は望めません。
(2003/03/04 大幅に加筆修正)
以前流行した『複雑系』という学問に「全体は部分の総和よりも大きい」という命題があります。これは、相乗効果について述べているのですが、全体最適化は部分最適化よりも大きな成果を上げることも意味しています。
著者はこの点について、登場人物に次のように言わせています。
<「解決策、つまりソリューションを見つけるには、もっと大きく全体に視野を向けなければいけない」>
部分最適化とはセクショナリズムを醸成し、全体を考慮しないことです。その結果、部署間での調整が行われないため重要な業務の漏れが生じたり、ダブリが生じていても気付かないということになります。
そうしたことが原因で実際には利益を圧迫していても、それぞれの部署は最適化を図っているのですから、全体でも最適化が行われていると思ってしまうわけです。ところが、全体を見ると思ったほどに利益が出ていないという現実に直面し、責任転嫁することになります。
こうしたモレやダブリを防ぐための方法にMECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive=ミッシー、モレなくダブリなし)があります。MECEについてはこちらをご参照ください。
どの会社でも規模の大小はあってもコンピューターシステムを導入しています。しかし、利益を出す会社が少ない一方で、赤字に苦しむ会社が多いのはなぜでしょうか(実は、利益よりも大事なのはキャッシュフローですが、ここではキャシュフローについては触れません。キャッシュフローの重要性についてはこちらをご参照ください)。
<バリューを実現する、つまり利益を増やすためには、“テクノロジーは必要だが、それだけでは不十分”(Necessary but not sufficient)ということ>
であり、
<ルールを変えなければ、新しいテクノロジーを導入してもそのメリットはフルに活かされない>
からです。
ここで言うそのルールとは、部分最適化を行ってきたことです。そのためにどうしたらよいかについて、著者が言いたいことは次のことです。
<「これまでERPを導入してきた経験から学んだことがあるとすれば、それは、1つの組織においてすべての機能が相互に強く関連し合っているということだ。異なる機能の間でどれだけの情報を交換しないといけないか考えてくれ」>
あるいは、
<重要なのは、利益を向上させるために、必要な時に必要とする人のところに、適切な情報を用意することだ>
ということです。
適正在庫を維持するために適切な評価尺度として、著者はインベントリーダラー・デイズ[inventory-dollar-days: 在庫($)×日数]を紹介しています。
<在庫を過剰に抱えているところがあれば(インベントリーダラー・デイズ)を見ればすぐにわかる>
出荷されずに商品が滞留すれば、このインベントリーダラー・デイズが大きな金額になっているわけですからすぐにわかります。
インベントリーダラー・デイズ[inventory-dollar-days: 在庫($)×日数]をインベントリーエン・デイズ[inventory-yen-days: 在庫(¥)×日数]に修正すれば、在庫管理に効果的でしょう。
在庫回転率(売上高÷期末在庫)と併用すると一層効果的です。
最後に、次の言葉は心に留めておきたいと思います。
<同じ会社の中でそれぞれの部署が自分たちだけのパフォーマンスの最適化だけを考えているのは愚かなことです>
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