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No.173 ★★★ 2003/03/16 Sun  巨象も踊る  ルイス・ガースナー
 日本経済新聞社 2002/12/02

巨象も踊る  ルイス・ガースナー 日本経済新聞社 IBM奇跡の復活

IBM前会長兼CEOルイス・ガースナーは2003年1月、ヘッジファンドで有名なカーライル・グループの会長兼CEOに就任しました。

すでにご存知かもしれませんが、ルイス・ガースナーについて簡単にご紹介します。ガースナーはハーバード大学大学院でMBAを取得し卒業後、すぐにマッキンゼーのコンサルタントになりました。その後は、アメリカン・エキスプレスに旅行関連サービスグループの責任者として入社し、退社後は経営者としての道を歩むことになります。

RJR・ナビスコのCEOに就任後、崩壊寸前のIBM再建を要請され、IBM会長兼CEOとなり、数年のうちにIBMを再生させ、名経営者として賞賛されました。

マッキンゼーで学んだことについては次のように述べています。

<マッキンゼーで学んだことのなかでもっとも大切な点は、企業の基礎を理解するための詳細な手法だ。マッキンゼーは顧客企業の市場、競争上の地位、戦略的な方向の深い分析に徹底してこだわった>
経営者として実感したこととしては「フリー・キャッシュフロー」の大切さを強調しています。
<「フリー・キャッシュフロー」こそが企業の健全性と業績を知るうえで、もっとも重要な財務指標なのだ>

経営の基本を分かりやすく説明している個所があります。ごく当たり前のことですが、多くの企業でできていないことでもあります。ガースナーがIBM会長兼CEOに就任した当時のIBMもまたそうでした。

<もったいぶった入門書のようだと思われかねないが、営利事業の基本は比較的単純だ。まず売り上げをあげなければならない。それは、市場に受け入れられる価格で製品やサービスを販売することによって生まれる。販売の際には、十分な粗利益を確保しなければならない。つぎに経費を管理する必要がある。経費には、販売や研究開発、工場・設備建設、財務管理、広告・宣伝などの項目がある。売り上げ、粗利益、経費のすべてが適切な関係で推移すれば、利益は拡大し、キャッシュフローは増加する。残念ながらIBMの場合、これらの関係がどれもおかしくなっていた>

日本では、企業業績を悪化させたり、倒産に追い込まれるケースが増加し、失業率も急速に悪化しています。

ガースナーはいくつもの企業を再建してきた経験からどのようなことを学んだのでしょうか。ガースナーは次のように書いています。

<経営難に陥った企業の再建をいくつも経験してきたが、最初に学んだ点のひとつはこうだ。むずかしいこと、痛みの伴うことをやらなければならないのであれば、それがどんなことであれ、迅速に実行すべきであり、具体的に何をするのか、そしてそれはなぜなのかを全員に周知徹底すべきだ。(中略)ぐずぐずと先送りを続けていると、問題は深刻化する。(下線は藤巻)わたしは問題を素早く解決して、新たな目標に向けて前進するのがいいと考えている>

下線の部分<ぐずぐずと先送りを続けていると、問題は深刻化する>は、日本の行政のあり方や企業経営あるいは世界中が取扱に苦慮しているイラク問題や北朝鮮問題にもそのまま当てはまることです。

話を本書に戻しますと、IBMの再建に必要なものは何だったのでしょうか。これが私が最も注目していたことでした。

<IBMの再建はすべて、実行にかかっていた>
本書には『実行』という章があります(第24章)。
この中で「実行」を次のように定義しています。
<実行とは、戦略を行動計画に翻訳し、その結果を評価することである>

この言葉から思い出したことは、まだ購読していませんがラリー・ボシディの『経営は「実行」』というタイトルでした。近いうちにぜひ読んでみたい本の中の1冊ですので、読み終わり次第書評を掲載します。

ガースナーはこのようにも述べています。

<わたしが求めていたのは―そしてIBMに必要なのは、いまが危急存亡のときという自覚だった>

つまり、ガースナーがトップに就任した当時のIBMは「ゆでガエルの話」*の好例であったわけです。成功体験に酔いしれ、いつの間にか驕る体質が染み付いていたのです。
*【ゆでガエルの話】

<カエルにとっては生死にかかわる温度(40度くらいといわれる)のお湯のなかに、カエルをいきなり放り込むと、カエルはびっくりして必死に容器の外へ飛び出して助かる。しかし同じカエルを水をはった器に入れ、じょじょに熱していくと、カエルはぬるま湯に慣れて飛び出すタイミングを失い、やがてゆでられて死んでしまうというものである。
環境にどっぷりつかっていると、その変化に鈍感になり悪化しても気づかない。微温的な居心地のよい環境に馴れてしまうと、自分の情報感度の鈍さ、視野のせまさにも気づかないまま危機的な状況を招いてしまうという教訓である>
『やる気 やるチャンス やる力』 高原慶一朗 日経BP社

  ガースナーはCEO(最高経営責任者)としてするべき仕事を次のように書いています。

<変革を成功させるには、危機に直面している事実を公に認めることが不可欠である。社員は危機の只中にある事実を認識していなければ、変革に必要な犠牲を払おうとはしない。(中略)だからこそ危機が必要になるのであり、危機の大きさや深刻さ、影響を伝えるのはCEOの仕事だ。そして、いかにして危機を乗り切るか、新たな戦略、新たな企業モデル、新たな企業文化について伝えられることも、おなじくらい重要だ>
<CEOが、対話を進め、情報を提供し、情報の提供を求めていかなければならない。CEOがたえず社員の前に出て、わかりやすく簡潔でしかも納得できる言葉で話し、組織全体が考え、行動を起こすようにする努力を何年も続けなければ、企業は決して変わらないと思う>

企業は人の集まり―組織で構成されています。その組織の価値はどこにあるのかについて述べている個所があります。

<組織の価値は要するに、それを構成する人びとが全体として、どこまでの価値を生み出せるかで決まる。ビジョン、戦略、マーケティング、財務管理の側面が正しければ、そして、経営システムの他の側面が正しければ、正しい道を進むことができ、しばらくは成功を収めることができる。だが、どんな組織も、企業にかぎらず、政府、教育機関、医療機関など、どんな分野の組織であろうと、これらの正しさがDNAの一部になっていなければ、長期にわたって成功をつづけることはできない>

第25章 顔が見える指 導リーダーシップという章では偉大な経営者(一部は偉大な企業経営幹部)という言葉が何度も登場します。

偉大な経営者は腕まくりして、みずから問題に取り組む>

<わたしが知り合った偉大な経営者について考えてみると、ウォルマートのサム・ウォルトン、GEのジャック・ウェルチ、ダイムラー・クライスラーのユルゲン・シュレンプ、インテルのアンディ・グローブらの全員に、勝利への情熱が強いという共通点がある>
偉大な経営者は何を行うか、何のために行動するのか、どのように競争するのかにきわめて敏感である>

偉大な企業経営幹部は、最高経営責任者(CEO)にしろ、その部下にしろ、全員が情熱をもち、情熱を示し、情熱に生き、情熱を愛している>
<わたしが知り合った偉大な経営者は、全員が頑強タフだと言えるかもしれない(全員が冷 徹タフ・マインデッドだと言えるのは確かだ。頑強と冷徹は違う)。しかし、全員が同時に公正である。公正さと公平さは指導者が成功を収めるうえで決定的な要因である>

ガースナーによれば、世の中には四種類の人間がいるという。この中で「動き」を「変化」と言い換えるとよりいっそう理解しやすいかもしれません。

<世の中には四種類の人がいる。
  動きを起こす人
  動きに巻き込まれた人
  動きを見守る人
  動きが起こったことすら知らない人>
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