ホットマネーにあぶり出された国際機関の欠陥と限界
米英連合軍とイラクとの戦争は3週間で遂に終結しました。しかし、サダム・フセインとその側近たちの行方はようとしてわかりません。戦後処理をどうするかという重要な案件が山積しています。世界経済は大きな打撃を被りました。
さて、今回の書評は掲載日の予定を大幅に過ぎてしまいご迷惑をおかけしました。3月21日、22日の2日間にわたる引越し(東京都から神奈川県へ)の影響が尾を引き、なかなか書評を書く時間が取れませんでした。
ようやく落ち着いてきましたので、これからは徐々にもとのペースに戻していきたいと思っています。
日本経済はバブルが弾けてから13年以上にわたって低迷を続けています。デフレ経済からの脱却が叫ばれ続けながら何ら効果的な対策が打ち出されず、今日に至っています。日本国債の発行残高は600兆円を超え、隠れ借金を含めると1000兆円に達するとも言われています。
このような状況下、著者によれば<FSAP(金融セクター評価プログラム)調査団は2002年6月に調査を開始し、10月にも訪日した>ということです。著者は続けます。
<[その調査]報告書は2003年の8月頃(遅ければその翌年の8月頃)に一般に公表されると予想されるが、そこには日本の金融システム、これまで日本政府が実施した金融セクターの構造改革、証券規制、決済システム、金融政策の透明性、金融監督行政などのそれぞれの項目についての分析、評価、改善すべき点と政策提言、並びに政策提言に対する日本政府の反応と今後の対応についての協議結果が明記されることになる>と。
果たして、その報告書にはどのような結果が明記されることになるのでしょうか。非常に注目されるところです。
ところで、この本を知ることになったきっかけをご紹介しましょう。
ビジネスウィークが、この本について詳しく触れていたからです。その記事はこちらをご覧ください。
IMFは日本に対してどの程度の影響力を及ぼしうるのかという疑問が当然湧いてくると思います。
この点について著者は次のように答えています。
<IMFは再三にわたり日本の経済政策に注文をつけているが、IMFから融資を受けていない日本にとってそれはなんの強制力もない>
ここでIMFについて一緒に考えてみましょう。
著者の解説を参考にしながら、IMFの現在をみることにします。
まず、IMFとはどのような組織なのでしょうか。
<IMFは加盟国の出資割当額によって成り立つ一種の信用組合のような国際金融機関である。資産は2002年4月末現在で2890億ドル(約35兆円)である。負担額の90パーセント以上が加盟国が負担する出資割当額から成っている。(中略)加盟国のうち、最大の出資割当額を支払っているのが米国で、約487億ドル(約5.8兆円、全体の17.5パーセント)である>
では、現在何カ国が加盟しているのでしょうか。
<IMFの加盟国は設立当初は29カ国に過ぎなかったが、現在では184カ国(世界銀行と同数、WTOは144カ国)に達している>
IMFの意思決定はどのようなルールで行なわれているかは次の解説をご覧ください。
<IMFの意思決定は各加盟国に配分されている投票数で決まり、これは各国の出資割当額とほぼ比例している。<中略>出資割当額第1位の米国の投票数は約37万票で17.1パーセント、次いで日本の13万票で6.1パーセントとなっており、米国との隔たりは大きい。したがって、当然、米国の発言権は大きくなる>
IMFの金融支援とはどのようなことを指すのでしょうか。
<IMFによる金融支援とは、国際収支問題を抱える国の経済調整・経済改革を支援するための加盟国に供与する融資を指している>
IMFから金融支援を受けられる条件については次のように書かれています。
<加盟国がIMFから金融支援を得られるのは、国際収支が赤字に陥っている場合だけである>
次に私にも関連したことが書かれている個所がありましたので、ご紹介します。
<2001年の5月に、(現在ではコンゴ民主共和国に改名され、ジョゼフ・カビラ大統領が指揮をとる)ザイールのモブツ・セセ・セコ元大統領が現職時代に、国際社会が同国に実施した融資を着服し、最高時で40億ドルにのぼる私財を秘密口座に保有していたことをフィナンシャル・タイムズ紙が暴露した>
ここに書かれているモブツ・セセ・セコ元大統領未亡人からメールをもらったのです。その原文はこちらをご覧ください。なぜ、私宛にメールが送られてきたかは不明です。
話を戻しましょう。
IMFの管理下に置かれ、屈辱感を味わわされながら、みごとにV字回復したのは韓国でした。
著者の分析によれば、V字回復した理由は次の4つが考えられるそうです。
<第一に債務交渉が早期に妥結し、投資家のパニックを抑え、債務者の負担を和らげることができたことである。(中略)第二に、ウォンが下落したことで、韓国製品の国際価格競争力が高まり、しだいに輸出を伸ばすことができたことにある。第三に、米国で情報技術産業がブームとなり、半導体需要が高まって価格が上昇し、輸出の増加につながったことがあげられる。第四に、韓国企業は危機前には採算が合わない過剰設備投資をしていたが、資金繰りに困った企業が新たに設備投資を行なわなくとも既存の設備を利用できたことが、経済成長の回復に貢献した>
こうした理由に加え、韓国では金融機関の経営者と株主に対し、厳しい措置を講じました。
<経営ミスによる損失は株主と経営者によって負担させるとの原則で減資、全役員の退任、刑事責任の追及を実行し、新しい経営者は外部から抜擢して企業との馴れ合い関係を断つことに努めた>
こうした思い切った手段を実行した韓国への評価は国際的に高いと著者は指摘しています。
<明確な道筋を示し、中小規模の銀行を含む全ての金融機関について比較的短期間に改革を断行した韓国への評価は国際的に高い。この改革の推進の初期にはIMFの後押しがあったことは言うまでもない。しかし、同じ後押しがあっても改革のスピードが遅いインドネシアと比べると韓国政府そして国民による強い改革への意欲が命運を分けている>
日本は韓国を見習って改革すべきだという議論が出てくるのも当然のことでしょう。しかし、いまのところ実施する予定はなさそうです。
著者の次の指摘は的を射ていると思います。
<金融当局は問題が起こったあとの事後対策を練るのではなく、つねに新しい環境で発生するリスクとは何かという前向きの発想をもたなければならない>
「あとがき」で企業に対する資金の分配について述べています。
<経営回復の見込みもなく債務超過に陥っている企業については早急に整理を進め、将来性のある、あるいは新規産業の担い手となる企業により多くの資金を分配していく政策を同時に推し進めなければ、国際競争力を維持し、長期的に安定した経済成長を実現することはできない>
著者は慶応義塾大学総合政策学部助教授ですが、助教授に就任する前はIMF(国際通貨基金)のエコノミストとして、調査局、欧州第一局、アフリカ局に在籍し、担当国の政策立案、マクロ経済分析にかかわっていたそうです(著者紹介から)。
IMF調査団による報告書の内容が今年の8月あるいは来年8月に公表される予定になっています。注目されるところです。
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