明日から結果を出すための鉄則
著者の一人、ラリー・ボシディの略歴を簡単にご紹介します。「GEに34年間勤務の後、アライド・シグナルの会長兼CEOに就任し、ハネウェルとの合併後、同社の会長に就任し一度引退したが、会長兼CEOに復帰し、アライド・シグナルを尊敬される企業に変貌させた手腕は高く評価されている」(著者紹介から)ということです。また、共著者のラム・チャランは「ベンチャー企業からフォーチュン500社にいたるまで企業のCEOや経営幹部のアドバイザーとして高い人気を誇る」(著者紹介から)そうで、「現在はハーバード大学、ノースウェスタン大学の経営大学院で教鞭をと」(著者紹介から)っているということです。
この本のタイトルになっている「実行(execution)」の定義から始めることにしましょう。著者は8つの定義を掲載していますが、どれもが辞書的意味の「実行」とは異なります。8つの定義の内、主要なものをご紹介します。
<A企業が約束を果たせない主因。B企業リーダーが望む目標と、組織の能力のギャップ。C単なる戦術ではなく、質問し、分析し、絶えずフォローすることによって物事を遂行するシステム。D企業の戦略や戦略上の目標の柱であり、あらゆるリーダーにとっての最大の仕事。E事業、人材、環境についての包括的な理解を必要とする必修科目。Fあらゆる事業で三つのコア・プロセス―人材プロセス、戦略プロセス、業務計画プロセスを連動させ、物事を遂行する方法>
実行あるいは実行力とはどのようなものか述べている個所をご紹介しましょう。それらを読むと「実行」の定義だけではもうひとつ理解できなかったことがわかるようになってきます。著者は冒頭から実行について、具体的にまた繰り返し、繰り返し述べています。読者の理解を助けるための配慮と、私は解釈しました。
<いまや実行力が企業の勝敗を分ける時代になった。実行力が競争相手より劣っていれば、すぐに負かされる。(中略)実行力のないリーダーにもはや猶予はないのだ。実行は、現代のビジネス社会で語られていない問題、しかも最大の問題だ。実行力の欠如は、成功を妨げる最大の障害である。期待どおりの結果を出せないのはたいていの場合実行力の不足が原因だが、ほかの原因によるものだと誤解されている>
<実行は単なる戦術ではない。ひとつは必修科目であり体系だ。企業の戦略や目標、文化に根づかせなければならない。そして、組織のリーダーは、深く関与しなければならない。その中身を誰かに任せることはできない。企業リーダーの多くは、最新の経営手法を学び、社内に広めることに膨大な時間を費やしている。しかし、。実行を理解せず、実践しなければ、学び、主張してきたことの価値がなくなる。土台をつくらず、家を建てているようなものだ>
<実行が伴わなければ、ブレークスルー思考は分解し、学習しても何の足しにもならず、大胆な目標に到達できず、変革は行き詰まる>
<どんな企業も、あらゆる段階のリーダーが実行のプロセスを実践しないかぎり、目標を達成することはできないし、変化に対応することもできない。実行は、企業戦略の一環であり、目標とすべきものだ。実行は、目標と結果のあいだの失われた環である。だからこそ実行
は、真の意味でリーダーにとって大きな、ほんとうに大事な仕事になる。実行の方法を知らなければ、リーダーがさまざまな取り組みをしても、それに見合った成果は上がらない>
<計算によって細部を証明すること―これこそ実行だ>
<企業が実行力を発揮するには、適切な人材が個人でそしてグループで、適切な時期に適切な事柄に注力しなければならない>
<実行力のない企業の経営者は、実務に疎いものだ>
読み進んでいくうちに、この本は実践的経営書であると同時にリーダーの役割を述べた本でもあることに気づきました。実行とともにリーダーあるいはリーダーシップという言葉が頻出することから分かります。
<リーダーが組織にどっぷり浸かってこそ、その組織は実行力を発揮できる。(中略)リーダーだけが、実行の中身に、時には細部にまで深く関与することによって、実行力を発揮させることができるのである>
<実行力のあるリーダーは、経営の観点から許容範囲を逸脱しているものを探す。利益率から昇進させる人材の選抜まで、目標と結果のギャップに注目する>
<適切な人材を適切な仕事につけるのも、リーダーの能力のひとつだ>
<リーダーが現場に行けば、従業員と個人的な繋がりができ、個人的な繋がりができれば、事業とそれに携わる従業員がどのような状態にあるのかは直感的にわかる>
<個人的な繋がりがなければ、リーダーは名前だけの存在でしかない>
<昔ながらの駆け引きや責任逃れに慣れている人たちに、活発な対話をさせるにはどうしたらいいのか。まずは上から、組織のリーダーから始めることだ。リーダーが活発な対話を実践すれば、周りはそれに倣う>
<人を動かして何かをやり遂げるのは、リーダーシップの基礎的なスキルだ。それができなければ、リーダーとはいえない。とはいえ、そうできていないリーダーが少なくない>
<最後までフォローすることは、実行の試金石であり、実行力のあるリーダーはみな徹底して絶えずフォローしている>
<適材を適所に配置するには、個人に関する情報を絶えず集め、部下が周囲と協力できるか、結果を出せるか、あるいは失敗するかをリーダーが知っていなければならない>
意外に思ったのは次の個所です。アメリカ企業社会の裏面を見た思いがしました。まるで日本の話を聞かされているような不思議な感覚に囚われました。
<われわれの経験では、弁舌のうまさと実行力はほとんど関係ない。一般に、実行力のある人間は、あまり重視されていない。だが、実行の体系が根づいた企業にしたいのなら、実行力のある人材を選抜しなければならない>
多くの戦略が失敗する理由は、リーダーに責任があると断言しています。
<驚くほど多くの戦略が失敗しているのは、組織としてその戦略を実行するだけの能力があるかどうか、リーダーが現実的な評価をしていないからだ>
最後に、次の言葉をご紹介しましょう。本書の内容を集約したものとなっています。
<ビジネスの仕組みの本質は、人材、戦略、業務という三つのプロセスがいかに結びついているかにある。リーダーは個々のプロセスと、それが全体としてどう関連し合っているかを学ばなければならない。それが実行という体系の基礎であり、戦略を策定、実行するうえでの柱になる。それらが、競争相手に差をつける手段になる>
今回は、延々と引用文を掲載しましたが、それはどこを読んでも重要な言葉が溢れているからです。余計な注釈を読んでいただくよりも、原文にあたっていただいた方がよいと考えたからです。
本書は、著者が経営者として日々「実行」してきたことの集大成ともいえる本です。そして、時に応じて何度でも読み返してみる価値のある本です。
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