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No.185 ★★★ 2003/07/08 Tue  [新装版]企業参謀  大前研一 プレジデント社 1999/11/09

[新装版]企業参謀  大前研一 プレジデント社 戦略的思考とはなにか

本書は『企業参謀』『続企業参謀』の2冊を1冊にまとめたものですが、著者がことわっているように「修正をしてい」ません。その理由として、著者は「新装版へのまえがき」の中で次のように述べています。
<今回の新装版に際しては修正をしていない。むしろ石油危機(1973年)後の日本経営の苦難の時代をそのまま反映している実態を残しておいたほうが、今日につながる教訓が多い、と思うからである>



なお、『企業参謀』は1975年、『続企業参謀』は1977年に出版されました。今から四半世紀前に出版されたことを憶えておいてください。

この本は大前研一のコンサルタント業の原点にあたるものです。

現在でもそのまま通用することを指摘しています。
<変革しなくてはいけないのは、個人であり企業である。国や地方自治体にいくら変われ、と言ってみても変われるものではない。彼らは個の集合体にすぎない。個人や企業が変わるには、実は、こうすれば変われるのだ、という「気概」がカギとなる>

私たちは時として「戦略的」という言葉を安易に使うことがあります。「戦略的」という語彙を定義せずに使用することによる誤解が、かなりあると思われます。

大前研一は「戦略的」という言葉を次のように定義しています。サブタイトルは「戦略的思考とはなにか」ですから、「戦略的」の意味をきちんと定義しておかないと、話の趣旨が十分に伝わらないと考えたからでしょう。
<「戦略的」と私が考えている思考の根底にあるのは、一見漠然一体となっていたり、常識というパッケージに包まれてしまっていたりする事象を分析し、ものの本質に基づいてバラバラにしたうえでそれぞれの持つ意味あいを自分にとって最も有利となるように組み立てたうえで、攻勢に転じるやり方である>

大前研一はロジックだけですべての問題が解決できるとは考えていません。
ロジックは「世界共通語」ですが、それだけでは不十分です。経験や勘なども同様に重要な要素です。
右脳・左脳の働きを分類しますと、右脳は経験や勘などを司り、左脳はロジックを司るといえましょう。言い換えますと、アナログ思考は右脳で、デジタル思考は左脳が司るということになります。
大切なことは、左右のバランスをとることです。しかし、これは「言うは易く、行なうは難し」で、ほとんどの人はどちらかに偏っているものです。

この点に対して、大前研一は明解に述べています。
<冷徹な分析と人間の経験や勘、思考力を、最も有効に組み合わせた思考形態こそ、どのような新しい困難な事態に面しても、人間の力で可能なベストの解答を出して突破してゆく方法であると思う>

サブタイトルは「戦略的思考とはなにか」ですから、「戦略的思考」について述べている箇所を抜書きしていきます。
<戦略的思考の第一段階が、ものの本質を考えるということにある、と述べた。誰でも物事の本質をつきとめようと考えているに違いないので、出てきた結果が核心をついているか否かは、運、不運ではないかと思われる方がいるかもしれない。私は、運、不運ではなく、問題に取り組むときの姿勢と方法に大いに関係があると思う。スタート時点で大切なことは次の一点であろう。「設問のしかたを解決策志向的に行うこと」

<会社において、戦略的思考が必要なところは必ずしも企画室だけではない。今日の日本の大きな企業は、ほとんど分権化しているので、各事業部が十分なブレーンを持たない限り、中央がいくらがんばっても、事業部から入ってくる情報や提案の質が悪ければ、誤りは増幅されるばかりである>

<こうして言いたいこともいえずに、何となく不満を持ちながら生活し、身の安全を図るという環境は、ほかならぬ戦略的思考家にとっての最大の障害となるのである>

<私が戦略的思考という場合には、戦うときと退くとき、また妥協の限界を常に測定しながら、究極的には、自分にとって最も有利な条件を持ち込む、柔軟な思考方法を指している。状況の変化によって、最も現実的な解を導き出せる頭脳の柔軟性を指す。白か黒かでないと、考えられないというような硬直した頭ではなく、どのくらいの灰色までなら妥協してよいかを判断できる人物が戦略的思考家である>

ここで、大前研一が参謀五戒という考えを披露しているので、ご紹介しましょう。

戒1=参謀たるもの「イフ」という言葉に対する本能的恐れを捨てよ

 戒2=参謀たるもの完全主義を捨てよ

 戒3=KFS(Key Factors for Success=成功のカギ)については徹底的に挑戦せよ

 戒4=制約条件に制約されるな

 戒5=記憶に頼らず分析を


大前研一が描く「経営者像」は次のようなものです。
<これからの経営者は、拡大一本槍でない経営計画を、冷静にかつ説得力をもって社員に説明でき、かつ、その目標の貫徹に、静かな社員の闘志をかきたてられるような人でなくてはならない。ラッパや太鼓でしか社員を陶酔させることができない人は、一見勇壮ではあっても、危なくて見ていられない時代になっているのである>

私たちが誤解していることは戦略立案は手法であるということです。
大前研一は戦略立案について次のように述べています。
<戦略立案が手法ではなく、ものの考え方、思想であり思考である、ということが理解されたとき、プランナー(企画者)は真の参謀としての重きをなすようになるのではなかろうか>

販売部門では、より大きな市場シェアを確保することが至上命題のように捉えられがちです。しかし、それが必ずしもいつも正しいとは限りません。シェアは小さくても、むしろ希少価値によって顧客に支持されている商品があります。そうした商品は高価格であっても購入希望者があるため、高い収益を得ることができます。
上記のことに関連し、大前研一はこのように述べています。
<自社の「強さ」はシェアではなく、その業界で「かせげる能力」に対して大きいのか小さいのか、という評価をしなくてはならない。シェアは瞬間風速であって、ベクトルではない。「自社の強さ」というのは、当然業界における収益力増強に関して、ベクトルの方向と大きさがどうなっているかを判定するのでなくては意味がない>

企業の中でミドルは企業成長のカギを握っていると言われることがあります。大前研一はミドルの重要な役割はどの点にあるのか次のように指摘しています。
<ミドルの重要な役割の一つは、トップに対して現場の生々しい声を伝えることであり、この部分が情報のネックになるということは許されない>

次の指摘は正鵠を射ていると思います。
<私は、企業の生死を決めるのは、(たとえ薄給の雇われの身であろうと)事業計画を立案するミドルからトップにかけての人々であることを強調したい。自社の命運が、これらの人々の喜怒哀楽であるとすれば、戦場にいる参謀の役割と変わらないではないか、と私は開き直っているのである>

私たちは「ノウハウ」という言葉を日常的に口にする機会があります。
しかし、「ノウハウ」はあくまで「いかにやるか」(how)ということだけでしかないわけです。他にもあるわけです。大前研一は5W1Hならぬ6W1Hで説明しています。
<ノウハウというのは、いかにやるか(how)という手法だけである。その他になぜやるか(why)、何をやったらよいのか(what)、どちらがよいか(which)、いつやるべきか(when)、誰がやるのが適当か(who)、どこでやるのが適当か(where)といった、もろもろの疑問符には答えていない。実は、この命題的部分(why)、抽出的部分(what)、選択的部分(which where when)および人的部分(who)こそが、まさに石油危機以降の世界中の大企業で最も大切になってきたことなのではないだろうか、と私は思う>

この本は冒頭に書いたように四半世紀前に書かれたものですが、その中身はまったく古さを感じさせません。その理由わけ はものごとの本質を捉えているからです。

単に2冊分の量が1冊に収まっているということだけではなく、中身が凝縮されています。ぜひ、ご一読ください。非常に読んで価値のある本です。

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