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| No.193 | ★★★ | 2003/10/12 Sun | 権力必腐 高杉 良 光文社 1998/11/25 |
日本経済混迷の元凶を糺す権力必腐 ― 権力を手に入れると必ず腐敗する。これは歴史が証明することです。驕りが自らを滅ぼすということでしょう。「自己満足は死に等しい」(サン・マイクロシステムズ会長スコット・マクネリ)という言葉にも通じます。 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。奢れる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。「『平家物語』岩波文庫」 『平家物語』の有名な書き出しです。栄枯盛衰を活写したものとして、永遠に読み次がれていくことでしょう。 ちなみに、『カリスマ 中内功とダイエーの「戦後」』でも、この『平家物語』の書き出しを掲載しています。 著者、高杉 良は経済小説の第一人者です。 昔、『小説日本興業銀行』を読んで、よくここまで詳細に調べ上げたものだと感心したことを今でも憶えています。そこでは、登場人物の会話が実際に交わされたのではと錯覚するくらいにリアルに描かれていました。 <日本興業銀行(注:現みずほ銀行 藤巻)の頭取、会長、特別顧問、そして経済同友会代表幹事などを歴任した中山素平>氏が次のように述べていることからもお分かりいただけると思います。 <馬齢を重ね、よわい九十ともなるとずいぶん多くの人々との出会いがあり、その中にはマスコミ関係の方も少なくないが、高杉良さんのしつこい取材ぶりには私も辟易した覚えがある。本全集(注:『高杉良経済小説全集=十五巻』 藤巻)に収められる『小説日本興業銀行』にしても小説とはなっているが、九〇パーセントは事実である。登場人物の口調もまったくそっくりなのには舌を巻いたものだ。私の知らない事実も多く、卓越した取材力には敬服する>ただし、本著は小説ではありません。 辛口のエッセーあるいは小説の背景を明らかにしたノンフィクションと言ったらよいでしょう。だれにも気兼ねせず、一刀両断に批評しています。俎上に上るのは、政界、財界、官界の著名人であったり、金融機関や大企業であるわけです。しかも実名で批評していますから、ここまで書いて大丈夫なのだろうかと思う個所がいくつもありました。 しかし、その内容を逐一ご紹介することは本意ではありません。そこで、代わりに敬意に値する人物を述べているケースをご紹介します。 <今日のトヨタ自動車隆盛の礎が石田(注:退三 藤巻)によって築かれたことは言を俟たない。石田は、昭和三十六年、十一年間に及んだトヨタ自動車の社長を辞任し、会長に就任、昭和四十六年に相談役に退いた。鬼籍に入ったのは昭和五十四年九月十八日である。享年九十一。石田の最大の功績は、社員を大切にしたことではあるまいか>「社員を大切にした」という社風は、現在のトヨタ自動車にも脈々と引き継がれているのではないでしょうか。リストラをしなくても日本一の利益を上げている会社であることがその証左です。外国人株式アナリストから「リストラを実施すれば、もっと利益を生み出すことができる」と批判されながら、奥田碩(おくだひろし)会長は頑としてその批判をはね除けたそうです。 話は変わりますが、次の指摘は上に立つ人に注意してもらいたい個所です。 <会長なり頭取なり社長などの権力者の側近に心してもらいたい、といつもながら思うのですが、自分までが偉くなってしまうことが往々にしてあるのです。しかも、そういう人に限って、上に弱く、下に強いサラリーマンの一つの典型を見る思いにさせられます。上に強く下に優しい人がサラリーマンの理想像ですが、少ないながらも、そうした人はどんな企業にも必ず存在します。部下に優しく、能力を引き出してくれる素晴らしい上司に恵まれたサラリーマンは幸せです>高杉 良が最も力を入れて描くのは金融界です。そこには、外部からは容易に知りえない暗部があります。精力的な取材によって、著者はそうした暗部を白日の下に晒します。 都銀の内情(当時)を述べた、以下の描写は信じがたいことです。 <都銀トップのモラル(倫理観)の低下ぶりは目を覆わんばかりです。暴力団とつながっている総会屋などに不正融資を行っている都銀が存在することは筆者も一年間の取材を通じて承知していました> <先進国で日本の金融ほどヤクザ社会の浸食をゆるしている国はないでしょう。法治国家の名において、闇の社会と絶縁することが焦眉の急であることは言を俟たないと思われます>ここでは、ヤクザ(暴力団)との関連を述べていますが、「政・官・業・ヤクザの“鉄の四角形”」という表現で、外国人記者が癒着構造を描いた本がありました。米経済誌「フォーブス」の日本支社長ベンジャミン・フルフォードの『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日』です。 次にその一部を掲載します。これを読むと事実と認めざるをえないでしょう。 <日本のメディアは、「日本には政治家・官僚・財界という癒着構造がある」とよく言うが、それもウソである。日本にあるのは、たったひとつの権力であり、その癒着構造は「政・官・業の“鉄の三角形”iron triangle」ではなく、「政・官・業・ヤクザの“鉄の四角形”iron square」なのである>高杉 良の執筆スタンスはどのようなものなのでしょうか? <経済小説、企業小説、ビジネスノベルの分野は、リアリティが生命線で、あり得ないことは書くべきではない、というのが筆者の基本的なスタンスです。だからこそ取材に膨大なエネルギーを投じざるを得ないわけです>企業に関連したことがらとしては年俸制について述べている個所があります。年俸制の真のねらいは何かが分かると思います。 <たとえば、今、各企業が盛んに導入している年俸制なんて、明らかに給料を下げるための手段ですからね。まず、高い目標を掲げさせる。それから、その目標が超えられるほど仕事をしていない、あるいは、仕事ができないといって、次の年には年俸を下げる。つまり、実質は賃金のベースダウンです。今のサラリーマン、特にミドルの人たちの閉塞感は、ひどいと思いますよ>この本が1998年に出版されていたことに意義があると思います。バブル崩壊の直前であったからです。この本の中で、すでに多くの問題点が指摘されていました。 |
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