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No.197 ★★★ 2003/11/23 Sun  覇者の条件 増田 茂
 東洋経済新報社 2000/12/21

覇者の条件 増田 茂 東洋経済新報社  21世紀次世代eビジネスに向けて

  ニューヨーク在住のベンチャー・キャピタリストによる次世代eビジネスの行方を探った本です。

著者、増田 茂氏に簡単に触れておきましょう。慶応義塾大学経済学部、コロンビア大学ビジネス・スクールMBA修士卒業。三菱石油、ブーズ・アレン&ハミルトンを経て1978年ベンチャー・キャピタルZERONグループをニューヨークに設立。現在同社代表取締役社長。(巻末「著者紹介」から)

余談になりますが、巻頭に増田氏のサインがあります。次のように書かれています。

I dream for the 21st century. Shigeru Masuda New York

21世紀に対する期待感がこめられているように感じられます。

さて、本題に入りましょう。ネットバブルが弾けて数年になりますが、増田氏は2000年の時点で「eビジネス」をどのように捉えていたのでしょうか? その点から見ていくことにしましょう。

「まえがき」で次のように述べています。

<とりわけ、メディア・コンバージェンス(融合)が進行すると、パソコン・ベースのインターネット活用を前提とした現在のEビジネス・モデルは消滅するとさえ考えられる>

これは著者がこの本を通じて言いたかったことの1つです。

もう少し詳しく、著者の見解を見てみましょう。

<インターネットは、融合されたメディアのバック・エンドを支えるテクノロジーとなる。同じバック・エンド・テクノロジーを利用していても、人によって呼び方が異なる。おそらくは、ヒューマン・インターフェイス・ディバイス、すなわち、その人が操作している端末の名前で呼ぶことだろう。つまり、インターネットを利用していたとしても、人は「テレビ」「カーナビ」「携帯電話」「カラオケ」と呼ぶことになろう>

携帯電話でテレビが見られる機種の登場によって、さらにメディアの融合が加速しています。必ずしも、その方向性を多くの人たちが望んでいるかどうかは別の話ですが。

増田氏は、バック・エンド・テクノロジーであるインターネットには3つのフェイズがあると述べています。

<インターネットには3つのフェイズがある。これは、どのような企業がインターネット産業をリードしていくかという面から見たものだ。
 フェイズ1は、ベンチャー主導だ。誰でも参加できるホノルル・マラソンのようなものだ。(中略)フェイズ1のビジネスモデルというのは赤字でも上場できたが、最終的には儲けなければならないことに変わりはない>

日本の例を見れば、ドメインの企業名の後ろにドットコム(.com)を付ければ何でも株価が上昇するという狂乱の時代がありました。上場した企業も上場を引き受けた証券会社も投資家もドットコム(.com)という名前に踊らされたのです。

何を隠そう、かくいう私も、当時、インターネット・ビジネスを中心に投資する株式投資信託を購入し、痛い目に遭ったことがありました。実体を伴わないものには手を出してはならないという教訓を得ました。

雨後の筍のように増殖した似非えせドットコム企業は、その後、泡沫のごとく消滅しました。ですから、現在生き残っているドットコム企業(その名称が正しいかどうかは定かではありませんが)はしぶといと言えるでしょう。その中から実体を伴った真の企業(ドットコム企業という名称ではない)が現れることでしょう。

本著に戻りましょう。

<フェイズ1が参加自由のホノルル・マラソンなら、フェイズ2はオリンピックにたとえることができよう。ネットでの収益を考えなくてもいいというのが、このオリンピックでの参加資格になっている。(中略)大企業に仲間入りができるほど短期間のうちに成長したベンチャー企業は数少ない。そのほとんどは、将来大企業の下に統合されていくか、駆逐されるかしかない>
<フェイズ3は、インターネットと伝統的な従来型のメディア、ラジオ、テレビ、雑誌、新聞、映画、エンターテインメントが融合する時代だ。真の意味でのメディアのコンバージェンスである。2000年初頭に発表されたアメリカ・オンライン(AOL)とタイム・ワーナーの合併はそれを象徴する。
 コンバージェンスがある程度完了した頃には、インターネットは現在のWEBやそのコンテンツとはかなり異なるものとなる。誤解を恐れずに言うならば、インターネットという存在感そのものが将来消えてしまうであろう>

ニュー・エコノミーのAOLとオールド・エコノミーのタイムワーナー(AOL・タイムワーナー)は合併後3年で失敗に帰し、社名を元のタイム・ワーナーに戻したことは記憶に新しいことです。

B2BあるいはB2Cという表現を見聞きしたことがあると思います。ビジネス・ツー・ビジネス(企業対企業取引)、ビジネス・ツー・コンシューマー(企業対消費者取引)を表したものですが、一体どちらが規模が大きいのでしょうか?

<1999年、通産省とアンダーセン・コンサルティングによる共同調査が発表されて以来、日本でもネット・ビジネスにおけるB2Bが注目を集めはじめた。
 その調査によれば、1998年度の米国のB2Cの電子商取引市場規模が約190億ドルであったのに対し、B2Bは約1600億ドルあったという。日本においては、B2Cは650億円にすぎなかったが、B2Bは8兆6200億円となっている。
 日米どちらにおいても、B2Cに比べB2Bのほうがはるかに規模が大きい。B2Bがインターネットでの取引の80%を占めているというのは、いわば常識であったから、それほど驚くには値しない>

結局、現在でも世界を牛耳っているのは実体のある企業であって、ベンチャー企業ではありません。ただし、実体のある企業の中にはマイクロソフトのように当初はベンチャー企業であったところもあります。

<株式市場で見る限り、ネット・ベンチャーは非常に多くの資金を獲得した。しかし、B2BやB2Cの市場で実際に優勢なのは実体のある従来型の企業に移っており、ネット・ベンチャーが垂れ流す多額の資金を吸い上げているのも従来型の企業だ。
 最近の米国の株式時価総額のランキングを見ると、マイクロソフト、ゼネラル・エレクトリック(GE)、シスコ・システムズ、インテルなどが上位を占めている。これらはネット志向ではあるが、実体のある企業だ。マイクロソフトを除けば、3社とも製造業である>

インターネット・ビジネスも行なうが実店舗での販売も行なうことを「クリック・アンド・モルタル」と表現しますが、世界最大の小売業、ウォルマートは「クリック・アンド・モルタル」企業の代表格です。

<ブリックス・アンド・モルタル(Bricks and Mortar)という言葉がある。本来は、レンガと漆喰という意味だが、店舗や倉庫を構える従来型の流通業を揶揄する言葉として使われる。
 この言葉をもじって使われるようになったのが、クリックス・アンド・モルタル(Clicks and Mortar)である。WEBと既存店舗を組み合わせた事業形態という意味だ。
 アマゾンが、倉庫や流通インフラに莫大な経費をかけることを余儀なくされていることからもわかるとおり、「クリックス」だけでは駄目だということがわかってきたわけである>

ベンチャー企業に生きる道は残されているのでしょうか? その疑問に答えている個所があります。

<ベンチャー企業が生き残る道は1つしかない。その道は大企業になることだけだ。ただし、これは言葉で言うほど簡単ではない。一口で言えば大衆化への道である。市場における競争力の源となっていた、自社の独自性やニッチ性を放棄せざるをえないことでもある>

企業を大きくしたければ、株式公開という手段を取ることが避けられません。株式公開のメリット、デメリットにはどのようなものがあるか述べています。これから株式公開を考えている方にも参考になると思います。

<株式を公開するということは、資金調達面で決定的なメリットがあるが、広く一般に経営情報を開示するというハンディキャップを負ったり、目先の利益を重視する多数の株主の意思を経営に反映させなければならないという困難を伴うことでもあり、必ずしも企業にとってプラスばかりとは限らない。
 ところが、株式を公開することが簡単にお金持ちになるための仕組みとしてとらえられるようになったことが、あらゆる弊害の根幹となってしまっている。株式を公開するという選択肢を選んだのであれば、公開企業としての義務を負わなければならない。しかし、どうやらキャピタル・ゲインという果実に義務という代償を払うつもりがないように見える>

米国企業との比較で、日本の企業についてかなり厳しい指摘をしている個所があります。

<日本には、オーナー経営者とその一族が全株式の過半数を保有している公開企業が少なくない。米国では、このような企業はプロの投資家の対象にはならない。創業者はせいぜい30%、従業員を含めても50%以下でなければならない。そうでなければ経営責任を追及できないし、経営者の更迭すらできない。こんな企業はまともな公開企業として扱われないのだ。
 日本では公開企業、未公開企業と呼び、所有形態については言葉を濁している観があるが、米国では、パブリック・カンパニー、プライベート・カンパニーとなる。つまり、「株式を公開すれば、もはや個人所有の会社ではない」ということが、言葉の上でも明確になるのだ>

ヒト、モノ、カネ、情報、時間は経営資源と言われますが、このうちでヒトが最も重要な経営資源と私は考えていますが、増田氏は次のように考えています。少し、意外な感じがします。

<経営には、ヒト、モノ、カネ、さらには情報が必要だとよく言われる。話としては面白いが、しょせん俗説にすぎない。この中で重要なのはお金である。お金があれば、ヒトやモノ、情報は調達できる。
 ミクロ的、例えば個々のベンチャー起業家にとっては、アイディアさえあれば資金はいかようにも調達できるように見える。しかし、その前提は、米国内に潤沢な資金があるということだ>

日本が最も必要としているのは、資金の供給であると断言しています。

<日本が最も必要としているのは、ビル・ゲイツのような天才児が現れることではなく、資金の供給にほかなるまい>

世界一のソフトウェア企業、マイクロソフトに注目が集まりがちですが、増田氏は異なった見解の持ち主です。

<ハードウェアよりもソフトウェアの時代と叫ぶのは、ある種の知的後退である。思想や知識が文明や社会を形作り、それを反映したハードウェアが作られると考えるのは、あまり現実的ではない。むしろ、現代社会では、ハードウェアが思想や知識、文化を生み出す源となっている。ハードウェアがソフトウェアに従属するというのは、社会学的にいえば、物質に対する思想や精神の優位性を信じた19世紀的発想といわざるをえない>

意外に知られていない日本人の能力について書かれている個所をご紹介します。再認識すると同時に日本人はもっと自信を持っていいと感じることでしょう。

<日本人が世界最高と認められる分野は設計能力である。設計には、機能設計、レイアウト設計、インターフェイス設計の3つの局面がある。日本人は驚くべきことに、そのすべてが得意だ。
 機能設計はコンセプトの具体化・具象化に現れる。いくら素晴らしいコンセプトであろうと、それを製造し、コンシューマーが満足できる形に図面化できなければ意味がない。当たり前のことだが、これはことのほか難しい。
(中略)
 レイアウト設計は、部品の形状を想起してもらえばよい。これらは通常、目に触れることはない。例えば、基盤に緻密で巧妙な配線が施されていると、基盤の大きさを非常に小さくできる。このレイアウト設計の巧みさが、日本製品のミニチュア化技術の基本である。
(中略)
 インターフェイス設計は、まさに人の目に触れる部分、人が手に触れる部分の設計だ。これは見た目の美しさや操作性などに大きな影響を及ぼし、消費者の購入動機を左右する>

携帯電話内部部品の写真を見たとき、狭いスペースに半導体をはじめ、ぎっしりと日本製部品が使用されていることを知り、感嘆した覚えがあります。

携帯電話の設計に関連して、日経ビジネスに「世界一の携帯電話製造会社、フィンランドのノキアに籍を置く日本人が、ゲーム機能に特化した携帯電話のデザイン担当者に任命された」という記事が掲載されていたことを思い出しました。

<10月7日に欧米向けに発売する「N−Gage(エン・ゲージ)」と名づけられた、ゲーム機としての機能を豊富に盛り込んだ電話機である。(中略)
 真ん中にディスプレイを置き、左右にボタンを配置。おのおののボタンに数字が入っていなければ、ゲーム機に見えてしまう。実はこのデザインは、フィンランドのデザイン部門で働く日本人、江口俊ニ郎シニアインダストリアルデザイナーの作品だ。(中略)ノキアグループ全体には日本人デザイナーもいるが、フィンランドで働いているのは江口氏だけだ>

江口氏にデザインを任せた経緯について上司が語っている部分があります。

<江口氏の上司であるデザイン部門責任者、エーロ・ミエッティネン・ディレクターは「ゲームでも日本は世界の最先端なので、その事情をよく知るデザイナーを使ったのは当然。シュンジ(江口氏)の作品は『素晴らしい』という水準では語れない」と評価する>
(上記記事2本とも『日経ビジネス』2003年9月8日号からの引用)

最後に、本当のEビジネスとは何なのかを増田氏に語ってもらいましょう。

<Eビジネスは、一般には、ITを利用したビジネス、インターネットを利用したビジネスと解釈されている。しかし、私は、EビジネスのEとはエレクトロニクスであり、Eビジネスとはエレクトロニクス産業にほかならないと思っている。WEBサイトでの通信販売などは、私にはEビジネスというよりも、Eビジネスの周辺事業であるとしか思えない>

地に足が着いた、ベンチャー・キャピタリストによる非常に面白い本です。Eビジネスに関心があってもなくても、ご一読をお薦めします。

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