Messages toward the 21st century from Akio Morita
この本はソニーの創業者(ファウンダー)であり、ソニーを日本を代表する企業に育て上げた故盛田昭夫氏(1999年10月3日逝去)による、私たち21世紀を生きるものへの強烈なメッセージです。「必読の1冊」です。
盛田氏はソニーの経営者でしたが、それだけではありません。故井深大氏とともに日本を代表する名経営者でした。
この本にはソニーに関連した事柄だけではなく、「世界の中の日本」という視点から捉えた直言が多く掲載されています。
私たちには、盛田氏の強烈なメッセージに気おされずに真摯に受け止める心構えが必要です。盛田氏のメッセージには「自ら行動し、他人をも動かした」ひとかどの人物だけが発しうる言葉が詰まっています。どうか盛田氏の心意気を感じ取っていただきたいと思います。
『はじめに』の冒頭には、次のように書かれています。
<本書は、井深大と並ぶソニー株式会社のファウンダー(創業者)盛田昭夫によって、1960年代から90年代にかけて執筆された論文の集大成である>(ワック編集部)
さらに、
<日本が経済面をはじめとしていくべき方向を見失っているいまこそ、すべての経営者およびビジネスマンはもちろん、その他、日本のリーダーを志す人々への力強い助言となるだろう>
ここで述べられていることは時を経ても、いまでもあてはまることです。
この本の中で一貫して述べられていることは、「基本原則を認識することが大切である」ということです。基本原則をはずしていては経営は成り立たないということを繰り返し述べています。
まず、ビジネスとは何かという点について明確にしています。
<名より実をあげることがビジネスだ。実業という文字の通り、とにかく実らなければならない>(針路なき日本の経営 1964年)
あるいは、
<日本の判断では、売上高の大きいのが偉いが、アメリカでは利益の大きいのが尊重される。いくら仕事の間口を広げ、それによって売上を伸ばしても、利益が増えなければ経営者の評価は上がらない。アーニング・パー・シェア(1株当たり利益)が最大の注目だ点>(針路なき日本の経営 1964年)
最近の『米ビジネス・ウィーク(BusinessWeek)』の記事の中で、出井伸之会長兼CEOが莫大な赤字を出した責任者として「ワースト・マネジャー」に選出されたことが掲載されていました。以前には「ベスト・マネジャー」に選ばれたことのある出井氏にしてみれば不名誉きわまりないことでしょう。しかし、上記の盛田氏の言葉を考慮すればこうした評価を真摯に受け止めることが必要でしょう。
出井氏は「2006年にソニーは復活する」と宣言しました。余談になりますが、個人投資家の1人として、ソニーにはぜひもう一度復活してもらいたいと願っています。そして、さらに成長してもらいたいものです。
「経営者」についても何度も言及してます。
<いうまでもなく、経営者というものは、日本、外国を問わず、自分の会社を率いて競争していくものだといっていい。まして自由経済は、競争を前提とした社会機構である。競争が前提となる以上、やはり勝たなければならない。勝たなければ敗残者になるだけである。とすれば、経営者たるものは、自分の経営体を率いて競争に勝つということが使命であり、それ以外のなにものでもない>(競争に勝つことがすべて 1967年)
では、勝つためにはどうしたらよいのでしょうか? 盛田氏はその答えを用意していました。
<勝つためにはどうしなければならないか。それには、敵を知り、おのれを知ることがまず第一である>(競争に勝つことがすべて 1967年)
「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」という孫子の兵法で有名な一節を取り上げています。時代が変わっても「基本(根本)原則」は変わらないということでしょう。
ソニーの経営理念を述べている個所があります。意外感を持ったのは私だけではないはずです。しかし、これこそが「企業は人なり」という理念を具現化したものではないかと考え直しました。
<私の経営理念は「ソニーと関係のあるすべての人を幸福にすること」である。これは理念というよりも、経営者としての私の使命というべきかもしれない。そして、その使命を果たすためには、さまざまな経営技術を駆使して利益をあげていかなければならない。つまり、理念を実践するために、いろいろな戦術が必要になる>(繁栄のための経営理念 1982年)
さらに、「ソニーと関係のあるすべての人を幸福にすること」を推し進めて一企業の経営者としてこのように率直に述べています。
<ソニーと関係のあるすべての人に幸福になってもらうことが私の念願であるが、とりわけ、社員の幸福は、私の最大関心事である。なんといっても社員は、一度しかない人生のいちばん輝かしい時期をソニーに委ねる人たちであるから、絶対に幸福になってもらいたい。もし、その人が死ぬときに「おれは大事な人生を、あんなところでムダに過ごしてしまったな」と思ったとしたら、これほど不幸なことはない。やはり、「おれはソニーで働けて幸せだった」と思って死ねるようにしてあげることが、社員に対する最大のつとめだと思う>(繁栄のための経営理念 1982年)
その意味で、ソニーが最近発表したリストラ計画(全世界で2万人削減)は、盛田氏が考えていた「経営理念」とは大きくかけ離れたことであり、一抹の淋しさを感じました。
これからは、先に述べたように「基本(根本)原則」について書かれた個所を中心に取り上げることにします。
<私は大学で物理を専攻した。物理学は、非常に難しい学問のように思われているが、その本質は案外単純なものである。要するに、なるべくたくさんの事象を集めて、それらの事象に共通する、なるべく簡単な説明文を発見する学問が物理学である。
なるべく広く当てはまる共通の理論とは、つまりベーシック・プリンシプル――基本原則(太線は藤巻、以下同様)のことである>(繁栄のための経営理念 1982年)
しかも、この基本原則を理解していただけではなく、基本原則もとづいて決定を行なってきたと述べています。
<私は、経営においても、基本原則というものをはっきり認識することが非常に重要だと考えている。(中略)私はいままでに、ずいぶん多くの重要な意思決定を行ってきたが、いつの場合でも、基本原則にもとづいてデシジョン(決定)を行ってきた>(繁栄のための経営理念 1982年)
前身の「東京通信工業」を「ソニー」に社名変更した際にも、「基本原則」が貫かれたのだそうです。
<東京通信工業からソニーへ社名を変えるときも、単なる思いつきや好みでデシジョンを下したわけではない。まず、東京通信工業という社名は、日本でこそもっともらしい名前だが、外人から見ればきわめて発音しにくい。世界を相手に商売するためには、まずこの社名を変えなければならん、と考えた。変えるなら、世界的に通用する名前にしようということで、井深(大・ソニー創業のパートナー)さんと2人で必死に考えたわけだが、最初に原則づくりをやった。その結果、できるだけ短くて、ローマ字で書いて世界中どこへ行っても同じ音で読まれ、しかも日本人にも読める名前という基本原則ができた。この原則に則っていろいろと検討を重ねた結果、SONYという名前を探し当てたのである>(繁栄のための経営理念 1982年)
<「ビジネスは賭けではない。突飛なことはやるな」というのが、ソニーにおける基本原則の一つになっている>(繁栄のための経営理念 1982年)
<まず、販売力をつけてから、現地生産に踏み切るというのが、ソニーの海外戦略における基本原則になっている>(繁栄のための経営理念 1982年)
<経営の基本原則は、世界中どこへ行っても通用するものだと思う。それが証拠には、海外に進出しているソニーの工場はすべてうまくいっている>(繁栄のための経営理念 1982年)
<物理は「真理を探究する学問」である、というのは大きな間違いで、物理とは「たくさんの現象を、なるべく簡素化した法則で説明する学問」なのである。リンゴが木から落ちる、重いものを重いと感ずる、それは重力によるものだというように、共通の説明できる法則を発見するのが物理学なのだ。私たち物理屋の頭はそうトレーニングされているので、何事をやるにも、その本質は何か、根本原則は何か、をまず考える。そして、根本原則を発見すると、必ずそれが通用すると信じ込むことができる>(あくまでSONYを貫く 1976年)
<私は常に、ショートサイトで判断し今年だけ儲かればよい、というような商売はしない。誰からも評価される正当な経営を続け、信用を高めることが、ソニーの最大の社会的責任であり、またソニーの経営の根本原則であると確信している>(あくまでSONYを貫く 1976年)
<繰り返し強調しますが、商法とか証券取引制度の改善は、個々の企業の目先の利害によって動かされるべきものではなく、自由経済の基本原則、すなわち、それぞれの自己責任と自由と権利に忠実であるべきです>
(アメリカの資本主義から学ぶ 1976年)
<ここで考えねばならぬことは、民主主義の根本原則である。それは、いかに正しくよい意見であっても、民主主義のもとでは、「数」が絶対であるということだ。われわれ産業人の代表として、以下に優秀な人が出ていっても、一人や二人では何の意味もなさない。その代表は、どんなに意気盛んであっても、数の前には、あえなく討死するのがオチである。それが民主主義の根本原則なのである>(全産業人は日本国の大株主 1969年)
第2章人材の条件には「企業にとってもっとも大事なこと」として『適材適所』について踏み込んだ意見を述べています。
<日本の企業にとってもっとも大事なことは、企業全体に雇用の流動性をつけることによって、働く人々が、適材適所で持てる能力を十分に発揮できるようにすることである>(学歴無用、実力勝負 1966年)
「世界の中の日本」という視点から指摘されている個所をご紹介しましょう。
<顧客を怒らせたり、その不興を買うようでは、商売は続けられません。日本には、どこまでも自由で開かれた世界市場が不可欠です。日本にとっては、一貫して“日本あっての世界”ではなく、“世界あっての日本”なのです>(新・自由経済への提言 1993年)
「税金の使われ方」について大胆な提言を行なっています。国民は自分たちが納めている税金の使われ方に対して、もっと厳しく監視するべきであるという正論を展開しています。
<会社における株主は、出資金の使途について、経営者に責任を要求し、経営者は株主の期待にこたえる義務を持つ。それと同じように、われわれ税金を納める国民は、納めた税金が、有効適切に、すなわち、われわれ国民の生活の平和と幸福の維持向上のため、正しく使われることを要求し、政府はそれにこたえる義務があるのだ>(全産業人は日本国の大株主 1969年)
『21世紀へ』は、斬れば血が出るような、生きた言葉が溢れた盛田昭夫氏の「21世紀へのメッセージ」であると同時に、21世紀の幕開けを遂に見ることができずにこの世を去った盛田昭夫氏の「遺書」と見ることもできるかもしれません。
私たちは、盛田氏の遺志を継いで日本の発展のために尽力することが必要であり、また可能です。たとえ、一人ひとりは微力であっても1億2500万人の日本人のうちの多くが結集すれば、日本をそして世界秩序を変える原動力になると確信しています。
尚、『ソニー自叙伝』もご参照ください。
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