21世紀のコーポレートガバナンスはどうあるべきか
この本はどのような読者を対象にしているか、「まえがき」には次のように書かれています。
<本書は、企業社会にかかわるあらゆる方々を読者に想定しているが、まずは、社長・会長といった経営トップに読んでいただきたい>
本書を執筆しているのは、宮内義彦氏(オリックス株式会社 代表取締役会長兼グループCEO)<序章担当>、北城恪太郎氏(IBMアジア・パシフィックプレジデント兼日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役会長)<第3章担当>、出井伸之氏(ソニー株式会社 代表取締役会長兼CEO)<第5章担当>他計8名です。
この3人の執筆した内容を中心に話を進めていきたいと思います。宮内義彦氏は、序章(コーポレート・ガバナンスと取締役〜日本企業の目指すもの)で問題提起をしています。日本の企業には取締役は存在しなかったというものです。
<日本企業の中に存在しなかったのは、執行役員ではなく、取締役のほうであった。「取締役」という役職はあったが、経営の監督責任を負う、すなわちコーポレート・ガバナンスを実行する『取締役』は日本企業の中にはほとんど存在しなかったのである>
企業統治と訳されるコーポレート・ガバナンスについて、的確な定義がされていますのでご紹介します。
<「企業統治」と訳されるコーポレート・ガバナンスであるが、その意味を最も単純に説明すると、株主の利益を上げるために経営者がきちんと経営を行っているか、株主の立場に立って監視する制度、ということになろう>
では、なぜ経営者を監視する必要があるのでしょうか? その理由は、経営者も人間ですから能力が低下したり、過ちを犯すこともあるからだと指摘しています。
<どれほど優秀な経営者でも人間であり、必ず能力が落ちてきたり過ちを犯すことがあるはずである。当然、一企業の業績が永遠に好調であることもあり得ない>
エンロンやワールドコム、アーサー・アンダーセンの不正会計事件を例にとって解説しています。不正会計などは悪であり、関係者は罰せられることは当然ですが、アメリカではほころびを直す力が働くと述べています。
<企業にとって、肝心なことは、ほころびがあればそれを常に直し続けようという意思であり、努力であり、具体的な改善である。それがシステムの進化を生む。コーポレート・ガバナンスと企業会計に関するシステム上の曲がり角に差し掛かった米国企業は、いままさにほころびを直そうと舵取りを始めている。その意味では、米国においては今もマーケティングの自浄作用が機能している、と考えられよう>
日本ではコーポレート・ガバナンスが十分に機能していないとして、「日本にコーポレート・ガバナンスを普及させるためには」と題して以下の提言をしています。
<まず最初にやるべきは、経営トップに対する有効な監視機能を取締役会の中につくりあげることである。そのためにやるべきは、企業が複数の社外取締役を導入することである>
問題は企業の内情に通じていない社外取締役に監督能力があるのかという点に関しては、むしろその方がよいと次のように指摘しています。
<監督能力についていえば、社外取締役がその企業の業務について精通している必要はそもそもない。むしろ、その企業の内情を深く知っているひとは社外取締役には向いていない。深く知らない人間だからこそ、その企業やその企業の属する業界の常識や慣習にとらわれず、マーケットに近い目で企業の実態を見ることができる>
次に、北城恪太郎氏は第3章(CEOの役割)で、氏の経験をもとにCEOに求められるものを詳細に述べています。冒頭で以下のように「リーダーシップとガバナンス改革の必要性」を訴えています。
<変革が求められる時代には、どのような組織においてもトップのリーダーシップが必須であり、それを有効に機能させるには、ガバナンスの改革が必要である>
米国企業における社外取締役の実情についてはこのように述べています。
<米国の公開企業において、経営トップの任命権は、名実ともに社外取締役が中心となった取締役会が持っている。社内から登用することもあれば、社外から探してくることもある。選んだ人間が結果的に会社をうまく経営できるかどうかは、個人の資質や能力にもよる。しかし、もし選定した経営トップの経営がうまくいかなかったとき、取締役会は、この経営トップに後退を要求し、新しい経営トップを選任する―こうしたまさしくコーポレート・ガバナンスの仕組みが、10年前のIBMではすでに明確に機能していたのである>
取締役会の権限と責任について―。
<CEOに対するチェック&バランスの仕組みがコーポレート・ガバナンスの本質であり、取締役会はその責任を負うことになる。社外取締役が過半数を占める場合には、この仕組みが有効に機能するといえる>
日本でCEOに対するチェック&バランスが十分に機能していない理由として次の点を挙げています。
<日本では、取締役が自分の任命権や解任権など強い人事権を持つ社長や会長に対して、その経営執行の中身を監視し、評価し、必要に応じて軌道修正を求め、場合によっては交代を要求するなど、ほとんどの場合は不可能に近い。しかも、取締役自身、業務執行の責任者を兼務しており、“取り締まる役”が“取り締まられる役”の仕事をしている。これではチェック&バランスが機能するはずがない>
では、コーポレート・ガバナンスどのような観点から見ていくべきなのでしょうか? その点については「透明性」「説明責任」といった適法性と会社の業績の2つの側面から見ていくべきであると指摘しています。
<透明性(トランスペアレンシー)、説明責任(アカウンタビリティー)といった適法性を担保する側面と、妥当性、すなわち会社の業績の側面という両面からみていくべきなのである>
次の言葉は注目されるべきでしょう。
<企業文化はCEOが自ら努力して創り出すものなのだ>
北城恪太郎氏はこの章の最後で、日本の将来に対する意見を述べています。
<将来的には社外取締役が過半数を占め、取締役会によるCEOの更迭、選任までを取締役会が行うようになることが望ましい、と私は考えている>
<報酬額は取締役会によって公表されることにより、透明性が確保される>
<CEOは社員一人ひとりに競争力向上を求める。であれば、CEO自らも評価を進んで受けるべきであろう。コーポレート・ガバナンス改革に向け、より多くのCEOの高い志と強いリーダーシップを期待したい、と私は思う>
出井伸之氏は第5章(グローバル・コーポレート・ガバナンス)でソニーのケーススタディを通じてグローバル・コーポレート・ガバナンスのあり方を論じています。
商法改正を待って、ソニーが委員会等設置会社に移行したことはご存知のとおりです。
<指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3委員会を設置し、業務執行を担当する執行役を置く代わりに監査役を置かないという新制度を選択できる>
ことになりました。
ソニーの場合、国際企業であり、外国人株主の比率が高いことと相まってソニーはソニー自らのルールをもつことが必然となった経緯を述べています。
<ソニーの場合、45%を外国人が占める。国籍も様々な株主たちに、ソニーはこういう基準で取締役会を運営し、このような形で企業統治を行っていくというルールをはっきり示し、理解を得られるように努力していかなければならない。これがグローバルカンパニーが必然的に直面する大きな課題である。同じ課題は、米国に本社を置くIBMも、スイスに本部があるネスレも多かれ少なかれ抱えていることだろう>
ソニーの場合、委員会等設置会社は固定化された存在ではなく、今後さらに進化していく存在と捉えています。
<企業経営に今求められているのは「統合」と「分極」のバランスをとることである。業務のオペレーションはできるだけ分極していくが、その一方で、ガバナンスは統合を目指さなければならない。まさに、遠心力と求心力のせめぎ合いだ。この求心力を強く持つためにも、ソニーとしてコーポレート・ガバナンスのルールを独自につくり上げていかなければならない。そのルールの中身は、環境の変化に応じて、常に進化していくだろう>
章末で、ソニーのあるべき姿を披露しています。
<コーポレート・ガバナンス―企業統治は、企業経営と一体のものだ。まずは、その会社の企業経営があり、それに合わせて企業統治の仕組みをオーダーメードでつくっていく。そのとき、ソニーは常に先進的でありたいと思っている>
おおいに期待しています。
ところで、今朝(2004/03/01 (月))の日本経済新聞(日経)は、「ソニーは4月1日付けで、中間金融持ち株会社を設立する」と伝えていました。金融持ち株会社の傘下にソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行を置くというものです。
『ソニー自叙伝』(ワック)の中で、ファウンダー(創業者)の一人である盛田昭夫氏が、「将来、ソニーは金融部門を所有したい」と述べている個所がありましたが、この流れを発展させたものといえるでしょう。
社外取締役がなぜ不可欠な存在なのかについて、生田正治氏(株式会社商船三井 取締役会長)は第2章(社外取締役がなぜ必要なのか)で次のように述べています。
<社外の第三者に評価をしてもらうためには、当然、経営の透明度を高めていかなければならなくなる。社外取締役は不可欠の条件であり、これなくして本当の意味のコーポレート・ガバナンスは実現できない>
重複になりますが、鈴木哲夫氏(HOYA株式会社 名誉会長)は、第4章(取締役会改革と取締役の育成)で、取締役が
<“取り締まり役”なのか、“取り締まられ役”なのかわからない>
ことを述べています。
取締役の役割を明確にするために実現すべきこととして「監督」と「執行」の分離を挙げています。
<会社が変わるためにはトップの意識を変える必要があり、トップの意識を変えるには、取締役会が変わらなければならない。ここで、取締役会改革がきわめて重要な課題として浮かび上がってくる。その際に、必ず実現しなければならないのは、監督と執行、ガバナンスとマネジメントの分離だ>
取締役の義務と責任について、原 良也氏(株式会社大和証券グループ本社 代表取締役社長兼CEO)の次の指摘は、的を射たものでしょう。
<これから先、もの言う株主の声がより強くなれば、取締役も業績悪化や株価低迷の責任を追及されるような場面も増えてくるだろう。であればこそ、経営トップに対し、取締役がきちんとものを言えるかどうかが問われる>
これから取締役を目指す方、現取締役の方、商法を学ぶ学生の方々、純粋に取締役とはどのような存在なのか知りたい方にはうってつけの本と言えるでしょう。
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