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No.210 ★★★ 2004/05/23 Sun  商売の創造 鈴木敏文 講談社 2003/10/22

商売の創造 鈴木敏文 講談社 売れる秘訣

最近の新聞報道で、アイワイバンク銀行が黒字になったことが伝えられました。アイワイバンク銀行はイトーヨーカ堂グループの金融部門です。

アイワイバンク銀行が他の銀行と異なる点は、アイワイバンク銀行は決済だけに特化していることでしょう。融資はしていません。決済だけで黒字になった銀行はアイワイバンク銀行が初めてで、快挙だそうです。



イトーヨーカ堂グループには、他にセブン−イレブンやファミリーレストランのデニーズ・ジャパンがあり、目下業績好調ということです。

8月にはイトーヨーカ堂の株式の最低取引株数(単位株式)は1000株から100株に変更になり、個人投資家にとって身近な存在となることでしょう。

イトーヨーカ堂の直近の株価は4380円(2004年05月21日終値)でしたから、今までなら440万円程度が必要でしたが44万円程度ですむことになります。ミニ株なら、さらにその十分の一の金額で購入できますから、「投資」する価値があります。

さて、このように目下業績好調なイトーヨーカ堂グループですが、鈴木敏文イトーヨーカ堂会長兼セブン−イレブン会長は危機感を抱いています。

「まえがき」の冒頭で次のように述べています。
<われわれにとっての最大の競争相手は、同業の他社・他店ではありません。世の中の変化、お客様のニーズの変化こそが最大の競争相手なのです。この変化への対応力を失ったとき、いかなる過去の強者、覇者はしゃといえども破綻はたんは免れません>
イトーヨーカ堂グループがこれまで成長してこられた理由を語っています。鈴木氏のキーワードともなった感のある「仮説と検証」とシュンペーターの「創造的破壊」という言葉が出てきます。
<なんとか今日までこられたのは、つねに過去の経験を捨て、他人のまねをいっさいせず、仮説・検証にもとづいた自己革新、イノベーションを図りながら、創造的破壊に取り組み続けてきたからだと私は考えています>
この個所がこの本のテーマを物語っています。

商売をする者がしっかりと認識していなくてはならないことは次のことです。
<これからの商売では、質のいい商品を、フェアプライス、つまり適正な価格で売っていくことがもっとも重要になります>

<フェアプライスにするにしても、いままで売ってきた商品をそのまま売り続けるだけでは、拡大均衡を維持することはできません。同時に、お客様が買いたいと思うような商品を、つぎつぎに開発・導入して売っていくことが必要となります>
企業業績を述べる場合には、売上高と利益(営業利益<粗利益>、経常利益あるいは純利益を指すこともあります)が前期と比較してどうなのか、あるいは来期はどうなるのかが重要になります。売上高と利益ではどちらがより重視されるかといえば、利益です。

この点で、鈴木氏はどのように述べているでしょうか。
<まず最初に、経営を維持するのに必要な利益を計算するところからはじめる必要があります。そのためには粗利益はこうだから、経費はこの範囲におさめなければならないというように、逆に考えていかなければならなくなったのです。売り上げを上げようとしても、そう簡単には上げることができない時代になっているからです>
モノが売れない、売れないと嘆いていないで、次のように考え直さなくてはならないでしょう。
<不景気だから、お客様がものを買わないのではない。お客様に買ってもらえるような体制になっていないから、買ってもらえないのです>

私がいつも関心を持っている「情報」については、次のように述べています。まったく同感です。
<情報というのは必ず外部にあるものです。自分にとって役立つ情報は、自分から出かけていかなければ得られるものではありません。そこで、イトーヨーカ堂のバイヤーにも、もう一度全員、外に出るように指示を出しました>
<情報を通じて、時代の変化を先取りしておかないと、それに対応していくことはできません。過去の経験は、もはや役に立たなくなっています。その意味で、今後、商売にあまり関係ないと思われる情報も含め、情報収集には積極的に努めなければならないでしょう>
<いまの私たちにとって必要なのは、経済学ではなく、心理学です。お客様がどういう感覚で、どういうふうにものごとを受け取るかということが、商売には欠かせない情報となります>
経営学の神様、ピーター・F・ドラッカーが、かつて述べた「コンピュータシステムの中に存在する情報は自分たちがわかっている情報であって、わからない多くの情報は外部にある」という言葉に通ずるものがあります。

この本の中で、始めて目にした言葉があります。それは「ゴンドラエンド(陳列棚のいちばん端)」です。この言葉が出てくる個所をご紹介します。
<ものが売れない時代には、ゴンドラエンド(陳列棚のいちばん端)の工夫も必要です。つまり、「この商品があります」ということをアピールする場所として、積極的にそこを活用していかなければならないのです>
<ゴンドラエンドに置くのは、お客様から見て魅力ある商品でなければなりません>
自宅近くにイトーヨーカ堂上永谷店があり、週末には家族でよく買い物にいきます。この本を読んでから店内の隅々をよく観察するようになりました。そこで気がついたことは、最近ゴンドラエンドを活用するケースが目立ってきたことです。トップの考え方が浸透してきている表れでしょう。

ところで、注意しなくてはならない点は、売り手側の都合で陳列を行なわないことであると鈴木氏は指摘しています。
<発注や商品管理をしやすくするために、商品の棚割りと陳列を固定化するというのは、本末転倒の考え方です。それは、仕事を簡単にするという売り手側の都合にしかすぎません。こうした売り手市場時代のイージーな考え方を、いまは全面的に否定しなければならないときなのです>
商売の原点について述べている個所をご紹介しましょう。言い古されているようですが、もう一度しっかり頭に入れておく必要がありそうです。
<絶対に忘れてはならないのは、商売の原点です。(中略)私たちのようなお客様あっての商売では、お客様の存在を忘れてはいけないというのがその原点です>
私たちがぜひ参考にしたいことが書かれていました。
<つねに新鮮な感覚をもち続ける秘訣ひけつは、必ず一つひとつの商品を確認し、その商品が本当にいま売れている商品なのかどうかを、バカの一つ覚えのようにチェックすることです。そのためには、つねに感覚をました状態にしておくことが必要です>
書籍(雑誌も含む)業界に身を置く者として、書籍販売が世の中で大きく遅れをとっていると痛感しています。鈴木氏は、書籍販売について苦言を呈しています。
<『商売の原点』で私は書籍販売の世界の遅れを指摘しましたが、なぜ遅れているかといえば、商売のあり方が昔から少しも変わっていないからです。たしかに、その場その場の技術的なことはコンピュータの導入などで効率化が図られているけれど、ニーズと商品の基本的な流れ方は、江戸時代とそれほど変わっていません。書店の陳列の仕方にしても、昔からほとんど変わっていません。売れるときにどう売って、売れないときにどうしようというような踏み込みもありません。相変わらず旧態依然としたやり方だから、進歩がないのです。そして、リサイクル本を扱う業者などが出てくると、それを力によってつぶそうとします。これでは発展がないのは当然でしょう>
鈴木氏は、イトーヨーカ堂に入社する前までは東京出版販売(現トーハン)という書籍取次大手に在籍していたことを付け加えておきましょう。

「機会損失」とそれに伴う「死に筋商品」という不良在庫の増加という突っ込んだ問題に鋭くメスを入れ、また「単品管理」の重要性にも言及しています。名経営者の一人と目されている所以(ゆえん)です。
<いまは、お客様は自分がほしい単品を目当てに買い物をするようになっています。お目当ての商品が品切れを起こしていれば、他のものはなにも買わずに帰ってしまいます。お客様のニーズに合わないものは代替品としても売れないから、当然、値下げロスや廃棄ロスが増えます>
<本当は、リスクは小さくするためにこそ、積極的な商売を心がけなければならないのです。積極的な商売によって機会損失をなくしていけば、必ず売り上げを伸ばし、利益を上げることができるのです>
<在庫が減っていないと言うことは、そのときなにが売れているかがわからないということです。当然、なにが売れないかもわかりません>
<単品というものの動きをきちんと押さえていれば、どんな変化にも対応できるのです。(中略)商品を完全なる単品としてとらえ、どんな商品がどんな売れ方をするか、そしてまた、それぞれの単品の内容や、あるいはその売れ方に対して、お客様はどんな反応をするのかという点に注意深く目を向けていくことが重要になってきているのです>
<単品管理とは、先行情報をもとに仮説・検証を行うことをいうのであって、過去の経験情報は、仮説を立てるための材料としては、むしろ排除していかなければならないのです>
「自動発注」を行なっているケースがあると思います。その点についての鈴木氏の見解はどうでしょうか?
<自動発注があたかもすぐれたシステムのように言われている向きがありますが、これは大きな間違いです。過去の売れすぎデータをベースにして数字をはじき出し、商品をアロケーションで店に押し込んでいくようなやり方は、今日の買い手市場の時代には通用するはずがありません>
この本は、特に、流通業界に携わっている方やこれから流通業界で活躍してみたいという方に読んでいただきたい本です。


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