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No.213 ★★☆ 2004/07/18 Sun  「利益」が見えれば会社が見える 泉谷 裕
 日本経済新聞社 2001/12/03

「利益」が見えれば会社が見える 泉谷 裕編著 日本経済新聞社

ムラタ流「情報化マトリックス経営」のすべて

京都に優れた企業が多くあることはよく知られています。

例えば名経営者として名高い稲盛和夫氏が創業した『京セラ』、カスタムICなどのメーカーで高利益率を誇る『ローム』、被買収企業を短期間で好業績企業に変身させる『日本電産』、学生ベンチャーの草分けとして知られる堀場雅夫会長が創業した『堀場製作所』、体温計や血圧計など身近な製品で他社と一線を画する製品作りで定評のある『オムロン』、ランジェリーのトップメーカー『ワコール』、ノーベル化学賞受賞者田中耕一さんが在籍していることで一躍有名になった実力企業『島津製作所』、そしてムラテックとして知られる世界的な技術力を有する『村田製作所』などがあります。

京都企業の強さの秘密を「京様式」というキーワードで表現した末松千尋京都大学大学院経済学研究科助教授(当時)は『京都経済新聞』(掲載日:2002-09-02)で次のように語っています。

<一言で言えば、『ネットワーク外部性』を活用できているからです。
外部性というのは経済学の用語で『自らと関係ないところで起こることが自らに影響を及ぼす』ということ。つまりネットワーク外部性とは『ネットワークに参加するメンバーが増えれば増えるほど得をする構造』のことです。要するにITネットワークに様々な経営資源がどんどんぶら下がってくる。お客さんも。
そうした環境では、企業自身が『特化』した『モジュール』として、全体の中での自身の位置づけを考えることが重要です。京様式企業の経営者らは、独立経営を強いられる中で、必死になってそれを考えてきた。よく考え、合理的な答えを出そうとしてきた結果、モジュール化を実現してきていると思います。モジュール化には、分散型組織と自らを評価するための管理会計が必須なんですが、これもそれぞれ独自に編み出して使っている。>

さらに、同記事の中で優れた管理会計を実施している企業として『村田製作所』と『堀場製作所』を挙げています。

<現代は“管理会計イコールIT”といっても過言ではない状況で、ITを活用すればだれでも精度の高い管理会計ができる。ただし、その際に、ユニットごとに損益管理体制を割り振り、資産を割り振り、そしてBS(貸借対照表)を割り振る――という手続きが必要なんですが、京様式企業の一部はこれを我流でやっている可能性がある。変な風に割り振ってしまうと進歩が変な風に曲がってしまいかねない。
そういう観点から見ると、村田製作所や堀場製作所などの管理会計は素晴らしいと評価しています。>

記事の詳細は『京都経済新聞』の記事(掲載日:2002-09-02)をご覧ください。

今回取り上げる本は超優良企業『村田製作所』の強い経営の秘密を「管理手法」の観点から述べたものです。

編著者泉谷 裕(いずみたに・ひろし)氏は村田製作所 代表取締役副社長です。他に藤田能孝(ふじた・よしたか)氏(村田製作所 取締役執行役員)と石谷昌弘(いしたに・まさひろ)氏(村田製作所 企画部企画2課長)が執筆者として名を連ねています。

全体的にやや専門的な解説となっています。「原価企画」から「キャッシュフロー経営」に至るまでかなり詳細な記述があり、分かりにくい点もありますが、概要が理解できればよいと思います。

「はじめに」で経営についての考え方を次のように書いています。

<経営は、市場と企業を取り巻くすべての条件下で、その企業が持つ技術、資本、人、その他の資源を考慮して行う総合的価値判断であり、経営管理は経営を支援する手段である。>

村田製作所を一口で表現することは難しいので、代わりに編著者の解説をご覧ください。

<創業以来、「よい電子機器はよい部品から、よい部品はよい材料から」という理念を掲げ、これを実現するために電子材料開発から製品、製法・工法開発までの一貫した研究開発と生産体制を敷いている。>

村田製作所は「マトリックス経営」を実践しています。「マトリックス経営」については、次の解説をご覧ください。

<マトリックス経営の狙いは、グループ内の製品別、工程別などの経営管理単位をできる限り細分して、その単位(原価部門、課、部門、会社、品種、事業所など)ごとに独立採算の収益管理を行うことである。>

財務会計と管理会計の違いを整理しておく必要があると思います。簡単に違いを言えば、財務会計は「納税や株主などに損益を開示するのため会計、つまり外部へ開示するための会計」であり、管理会計は「部門損益などを管理するための会計、つまり企業内部で活用される情報としての会計」であることです。

この本の中では次のよう書かれています。少し長いですがご紹介します。

<財務会計の目的は、企業の資産・負債の状況および収益状況を株主、債権者、取引先、従業員などの利害関係者に開示するための財務諸表を作成することにある。財務会計は制度会計とも呼ばれるように、商法、企業会計原則、財務諸表規則等に準拠して作成される。
 これに対して部門損益や連結品種別損益の管理会計は、社外への開示が目的ではなく、経営管理・内部管理のための道具として、経営の諸データを作成し、意思決定に役立てることが目的である。管理会計の諸基準は、企業の業種、規模、組織、人材、業務内容等の状況により設定される。また、企業の変化に応じて変わり、これに対応していくことが求められる。>

今や、あらゆる業務においてITを活用することは必須なこととなってきました。しかしながら、必ずしも経営のために効率的運用がされているとは限りません。大切なことは次のようなことではないでしょうか?

<仕事の仕組みを統合化して業務の改善を行い、これにより経営効率を上げるものにしなければならない。データを各業務で共有し、データベースを構築して経営管理の充実を図ることが大切である。>

ある意味で、販売価格の決定(値決め)が最も重要とも言えるかもしれません。

販売価格の決定には、一般的に「プロダクト・アウト(コスト+利益=価格)」と「マーケット・イン(価格−利益=コスト)」の2つがあります。プロダクト・アウトは積み上げ方式で売り手側に優先権があり、マーケット・インは「始めに価格あり」で買い手側に優先権があります。

どちらの方法を取るにしても重要なことは原価管理をきちんと行うことです。この点に関して、編著者は次のように指摘しています。

<実際の販売価格の設定には様々の考え方があるが、どのような価格設定をしようとも原価の管理は欠かせない。誤解のないように述べると、販売価格が原価以上でなければならないのではなく、原価が許容原価以上でなければならないということである。>

では、「なぜ原価管理は大切なのか」を述べた次の指摘は的を射たものと言えます。

<原価管理の目的は、原価の引き下げを実現することであり、必ず具体的に原価引き下げ策を実施するという行動が伴わなければならない。そのためには、その時々の予算、標準、実績の三者を有機的に結びつけて、「プロジェクトごとの原価管理」を中核に据えて展開させていくことが重要である。>

最後に取り上げるのは、経営における権限の委譲についてです。企業規模が拡大するにつれて「責任と権限」があいまいになってきます。責任と権限に整合性を保つためには権限の委譲が不可欠であると述べています。

<社長が自ら決定・決裁するということは、その責任がすべて社長に帰することにほかならない。その結果、各部門や責任者の責任があいまいになる。このような弊害の発生を防ぐためには意思決定の責任と経営成果との整合性が必要になる。そこで権限委譲を行い、その決定事項に対して決定者に責任を負わせることが不可欠になる。>

日商簿記検定2級の資格を取得し、原価計算を含む「工業簿記」を学びましたが、正直申し上げて、製造業での実務経験が皆無であるため、もう1つ理解しにくい点がありました。

しかしながら、本書を通じて村田製作所の強さの秘密の一端を垣間見ることができたのではと思っています。


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