メインページに戻る

基本法表題

※この物語はフィクションであり、実在する団体、人物、商品名などとは一切関係ありません。
 第2条 
 第3条 
 第4条 
 第5条 
 第6条 
 第7条 
 第8条 
 第9条 
 第10条 
 第11条 
 第12条 
 第13条 
 第14条 
 第15条 
 第16条 
 第17条 
 第18条 
 第19条 
 第20条 
 あとがき 

第1章
(目的)

第1条

この法律は日本酒の製造、表示、販売に関する最低の基準を定めて、我が国固有の文化である日本酒の保護、育成を計り、子々孫々への技能の伝承を目的とする。
 


 

 200*年11月 1日 東京 国会議事堂

 参議院議長の声が議場に響きわたる。

 「静粛に願います。続いて、日本酒基本法、他関連法案の裁決を行います。賛成の方の起立を求めます」ほとんどの議員が、緩慢な動きで立ち上がった。
 「賛成多数。よって本法案は、委員長報告通り可決致します。本日はこれにて散会いたします。」議員達がやれやれと背伸びをしたり、あくびをしながら議場を後にして行く。
 傍聴席から身を乗り出して、この様子を見ていた菊川政二は、ため息をついて椅子に深々と座り直した。「よくここまで来たものだ」と一人感慨にふけっていたが、警備員から退場を促されて外に出た。すでに陽は落ちており、せわしなく走り回る自動車のヘッドライトが、少し眩しく感じられた。

 タクシーを拾って、東京駅へと向かう。
 腕時計をちらりと見て、「この時間帯だと通勤客が多いから、指定席は無理かもしれないな。」などと思いながら窓口へと急いだ。意外なことに切符売り場の窓口は、思ったほど混んではいなかった。
 「今日の仙台行きで指定席の空きはありますか。」と問いかける。「喫煙可能車であれば次の便にも空きがございますが、いかがいたしますか。」ディスプレイ内の女性がにこやかに、かつ機械的に聞いてくる。
 「それで結構です。お願いします。」「はい確認致します。18時00分発、やまびこ1901号、仙台迄、16号車、5番、A席になります。よろしければ確認ボタンを押して、所定の金額を現金投入口にお入れ下さい。」
 やれやれコストダウンのための人員削減か。そのうち自分の身にもふりかかってくることだろうな。そう思いながら投入口に紙幣を入れる。  「ありがとうございました。又の御利用をお待ちしております。」電子音と共にディスプレイの中の女性は深々と頭を下げた。
 「喫煙可能車なら、指定席が残っているなんて、世の中変わったものだ。」などとつぶやきながら、足早に自動改札を駆け抜けて行った。

 新幹線のホームから菊川は、仙台に電話を掛けた。
 「もしもし、江坂さんのお宅ですか。菊川と申しますが、先生はご在宅でしょうか」
 「はい。少々お待ち下さいませ」おっとりした家政婦さんの声が保留音のメロディに変わる。仙台の民謡『さんさ時雨』だ。江坂の趣味なのだろうか?だとしたら、センスが良いとはお世辞にも言い難い。
 「おう、菊川か。TVで見たよ。やっと可決されたな。早く帰ってこいよ、祝杯をあげようぜ」電話の向こうで、江坂が早口でまくしたてる。
 かなり興奮しているようすであった。まあ当然なのだろうと、菊川は思った。
 「今東京駅です。8時に仙台に着きますので。いつものところでどうでしょうか」
 「よしわかった。とにかくすっとんで来いよ。」
 早く帰りたいのはやまやまだが、時刻表の時間以上に早く帰れるものではない。

 『13番線に、東北新幹線仙台行き、やまびこ1901号が入ります。危険ですから白線の 内側まで、お下がり下さい』受話器を置くと、アナウンスがあり、2階建のやまびこ1901号が入線して来た。
 キオスクで買った土産品を網棚に置き、椅子に座る。リクライニングさせ、体をもたれかけると、それまでの緊張感が解けたのか、睡魔が襲ってきた。
 どれくらいたったのだろうか、そのまま心地好いまどろみの中に、居たかったのだが、改札の車掌におこされてしまった。改札をすませた後は、なぜか目がさえて眠ることができなかった。
 ぼんやりと外の夜景を見ていたら、隣の席の若者が声を掛けて来た。「すみません。タバコを吸ってもよろしいでしょうか」「ああ、構いませんよ。どうぞ」「ありがとうございます」若者は礼をいって、タバコに火を付けた。
 この車両内は喫煙可能となっている。しかし喫煙者がタバコを吸うときは、必ずまわりに確認しなけばならないことになっている。もしこれを怠り隣の乗客から告発されたら、公共喫煙法違反で、反則金を徴収されるのだから、大変なことなのだ。
 喫煙可能とは、周囲の承諾があって、初めて、吸ってもかまわないということであり、やみくもに喫煙をしても良いということではない。
 菊川自身は、タバコを吸うわけではないが、別に嫌煙主義者でもなかった。しかし世間では、嫌煙主義の風潮が強くなり、4年程前に、公共の場所における喫煙の規制法が施行され、喫煙者にとっては、非常に肩身の狭い世の中となった。なにしろ一般公道、ならびに公共施設での全面喫煙禁止が実施され、タバコの吸い殻のポイ捨てに対しては、1万円から5万円までの反則金が科せられるているのである。飲食店も『暴力団関係者及び、喫煙者お断り』の貼紙が多くなってきている。
 菊川はヒステリックな嫌煙主義には、とても賛同はできなかった。しかし、歩道に投げ捨てられる吸い殻を見ては、不快な思いをしていた為、この公共喫煙法案には、賛意を示してきた。そうすれば、歩道上のゴミは減り、レストラン等で嫌な思いをすることもないだろうと思っていた。たしかに施行後、警察だけでなく市民団体の監視もあって、歩道上の吸い殻は無くなり、どのような飲食店でも喫煙席と禁煙席は区別され、タバコを吸わない人が、タバコの煙りの為に不快な思いをすることは着実に少なくはなっていった。
 この程度で、喫煙者と嫌煙者が、共存できればよかったのだろうが、残念ながらそうは成らなかった。それまでの弱い立場と強い立場が逆転すると、強くなったものは弱くなったものの存在を、認めようとしなくなる。嫌煙者と喫煙者の関係も同じだった。人前でタバコを吸うと、喫煙可能場所でも露骨に嫌な顔をされ、喫煙者は小さくなってタバコを吸うようになってしまった。
 「身から出たサビとはいえ、不自由な時代になったものだ」と、菊川は思った。

 90年代の初め、日本では規制が多すぎるとして、国際問題になったが、それは外国の人間が日本人というものを知らなかったせいだった。いくら圧力をかけても、一向に改まらなかった規制と、その規制自体を不思議に思っていないように見える、不可思議な日本人に対し、彼等はある結論を導きだしたのだった。「この民族(日本人)には、規制が必要欠くべからざるものだと」それ以降、彼等は交渉のやりかたをガラリと変えて、逆に規制を求めてきたのである。当然自分等の都合の良い規制を。
 ある高級官僚が、TVの覆面インタビューに答えて言っていたことを菊川は思い出した。
 『日本の国民は、自分で答えを出すことが苦手というより、生理的に合わないのですよ。答えが有るのか無いのか、漠然とした問題に対しては自分で解答を捜しだすことはできないが、そのかわりはっきりとした、答えがある問題に対しての回答を出すことは得意なのです。この国の教育制度も、全てこのように枠をはめた中でしか行なわなかったわけですから、しかたないといえばそれまでですが。それからいえば、答えの無い問題よりも、答えの有る問題を示してもらったほうが日本人にとっては、よっぽどいいわけです。まぁ、これが日本人の国民性と言えるでしょうね』
 この話しを聞いて、なんともやりきれない気持ちになったことがあった。
 『檻の外で、自分で食物を確保しなければならない自由か、檻の中で食物を与えられる不自由な生活のどっちを選ぶかですが、日本人は檻の外の自由は生理的に選ばないでしょうね』この言葉で、そのインタビューは終わった。はたして自分はどっちを選んでいるんだろう。
 そんなことをぼんやりと考えていたが、『まもなく仙台、仙台です。この列車は当駅止まりです』と、車内アナウンスが流れ、乗客はそれぞれに降りるしたくを始めた。菊川も慌ただしく土産を手に持って、デッキに出た。


 

メインページへ
C2H5OHとは?
のん兵衛旅行記へ
リンク集へ
メインページ C2H5OH? 飲兵衛旅行記 リンクのページ