常識カード屋
written by 『白』
一組の兄弟が身を寄せ合い夜の闇の中を歩いていた。
そして2人には一件のカードショップの看板が目に入った。
「・・・にいさん、ちょっとモンコレがしたいよ。」
「大丈夫なのか?」
「うん。1勝負するだけだから・・・きっと大丈夫。」
「お前がいいというならいいかな。」
2人は店のドアの前に立った。
店内では数人の男女が何かの本を見て嬌声を上げていた。
「だーからなんでこの方法でユグドラシルの攻撃力が80になるんだよー。」
「わーほんとー。馬鹿みたーい。」
「まぁ仕方ないでしょ、これが奴らの限界なんですよ。」
「キャハハー。」
その光景を見て兄は言う。
「どうする、やっぱりやめておくか?」
「いいよ、自分から言い出した事だから。」
弟はドアを開けた。
と、一斉に店内にいた客や店員の目が兄弟に向いた。
弟は一瞬立ちすくんだがしかしゆっくり店内に歩を進めた。
「何にしますか。」無愛想に店員が言う。
「あ・・・と、とりあえず古代帝国を1パック・・・」
言って弟は後悔した。店員や客があからさまに
『テメーわざわざカードショップに来て事もあろうに古代帝国1パックだと!?いいから帰ってオカンの乳でも吸っとれや』
という顔をしたのだ。弟は心にショックを受ける。兄は
「大丈夫か?」と問う。
「大丈夫だよ兄さん・・・ちょっとふらっとしただけ。」弟は汗ばんだ顔でそう答え、店員に
「あ、や、やっぱり太陽王、太陽王にします。」と訂正した。
「太陽王何パック?」更に無愛想になった声の店員が聞く。
「あ、ひ、一箱分。16パック下さい。」
店員はごそごそとパックを取って「6720円です。」と言った。
それを聞いた兄が身を乗り出して何か言おうとした、それを弟が遮る。
「いいんだ、いいんだよ兄さん。」
「でも・・・」
店員はその姿を見つつ「買うの、買わないの?」と冷ややかに言う。
「買います、すいません、買います。」と弟は金額を払い、兄弟は奥にある対戦スペースのそのまた奥に縮こまるように座った
その間、元からいた客達は兄弟を胡散臭そうに見ていたが、やがてまた騒ぎ出していた。
兄は暇そうにしている店員を見ながら
「何が6720円だ・・・。1ボックス分なら6000円に消費税がついても6400円に・・・」
憤った兄の額や手には、血管が浮き出ている。
「ごめんよ、兄さん。僕がわがまま言ったばかりに。」と弟のすまなさそうな声を聞き、兄の怒りは少し落ち着きを見せる。
「とりあえず、早いとこパックを開けてここを出よう。」
「そうだね・・・」
・・・エナジーバンク、ジェットワールド、スチールジェネラル、深海甲冑・・・
「・・・あんまり引きがよくないね、はは。・・・兄さん、兄さん?」
さっきから★ばかり引いている弟は兄の方を見た。兄は今や狂宴の域に達している客の会話を聞き、激昂しそうになっていた。
確かにさっきから聞こえてくる会話は聞くに耐えないものがあった。
「だいたいこんな絶対不利なダイス勝負で都合よく『6』だろー!?これはいつからU戯Oになったんだぁーぁ?」
「おいおいおいおい、遠見の水晶球はアイテムだろーが。」
「エンタングルってこんなんだったの?キショーイ!」
「六奈チャン萌えーって事ですかぁ?」
・・・。
それらの言葉が耳を塞いでいても聞こえたかもしれない。そう言った空気がこの店を支配していた。
弟は耐えきれなくなり兄の方をすがるような目で見た。しかし兄は大声ではしゃぐ客のほうを見ていた。
今にも爆発しそうな雰囲気であった。
「兄さん、駄目だよ。抑えて。」
「・・・分かってる。」しかし、兄の目には憎悪に似た炎が宿っている、そう弟は感じた。
そして、客の発した不用意な一言がきっかけになった。
「第一イカニモな『ファイア・ドラゴン』が相棒だぁ?ガキくせえぇー。俺ならもっと良いユニットを選ぶぜ。」
「イエテルー。」
兄は、遂に席を倒し立ちあがり、言った。
「・・・ファイア・ドラゴンを馬鹿にするな。」
「に、兄さん。」
客は一斉に危険な視線を投げかける。
「アァ?なんか言ったかお前?」リーダー格らしき男が無粋な言葉を投げかける。
「言ったさ。何度でも言ってやる、『ファイア・ドラゴンを馬鹿にするな。』」
両者の間には今やリアルファイトになりかねない雰囲気である。と、そこに弟が割りこんだ。
「あ、す、すいません。兄さんちょっと、よ、酔っ払ってて。お、お詫びします。お話を続けて・・・」
「こんなやつらに謝る必要は無いぞ。モンコレプレイヤーとしての愛が見えないじゃないか!」と兄。
「謝ってすむ問題じゃネエよ。いきなり言いがかりつけてきたのはそっちじゃネエか。」と客。
「そうよそうよ、どうせあんたたちたいした腕じゃないくせして。なんなら私の鳥デックでのしてやろうかしら!?」
客の中の女が弟の体を突いた。
と同時に、弟の頭の中に明確なビジョンが流れこむ・・・。
(そこはどこかのアパートの一室だろうか。数人の男女が今まさに絡み合っている。それら全ての顔ぶれは今までそこでバカ騒ぎしていた客達だ。
・・・やがてあの声が部屋に染み渡る。『アンタップ・アップキープ・ドロー1・・・)
「うっ・・・うわぁぁぁぁ!」弟は頭を抱えて床にくずおれる。
「どうした、何を見たんだ!?」兄は弟にかぶさるようにして聞く。
血の気のない白い顔をし、荒い息の中、弟は言う。
「こ・・・この人達モンコレの事なんててんで分かっちゃいないんだ。この人達マジッ・・・」
弟は兄にだけ言ったつもりだった、しかしその声は客達にも聞こえたようだ。客の顔色は見る見るうちに蒼ざめ、すぐに赤くなる。
「て・・・メェ」客のリーダーが裏返った声を発した。殴りかかろうとしたその時、兄はその客の・・・バッグを睨みつけた。瞳が赤く光る。
ボムッ!
一面、背面が赤茶けたカードが散乱される。
男のバッグとその中のデックケースの中身が・・・もといデッ「キ」ケースの中身が弾けたのだ。
客達の顔がまた蒼ざめる。兄は次々に彼らのバッグを睨みつけ、その中身を触れることなく弾けさせ暴いていった。
飛び散る赤茶けたカードたち。中には「アクエ・・・何とか」とかいうのもあったのだがそれには触れないでおこう。
兄は弟の体を立ち上がらせながら呟くように言った。
「モンコレもやってないような奴が・・・デカイ口叩くんじゃねぇ・・・。」
弟はさっきから小さな涙声で「ごめんよ、ごめんよ兄さん・・・。僕が悪かったんだ・・・」と繰り返している。
兄はそんな弟の体を支え店から出ていこうとした。しかし、
「ま、待ちなさいよ!あたしたちがどんなゲームしてても良いじゃないのよ!それにこんなことして詫びもいれず、で、出ていこうって言うの!?」
客の中の女がヒステリックな声で怒鳴った。その声につられたのか呆然としていた他の客どもも
「そうだそうだ。い、いうとおりだ。」「どんなトリックを使ったか知らないけど最低だアンタら。」
「け、警察呼ぶぞ。」
その声に・・・兄はもう一度振りかえった。その瞳はまた赤く光っている。
いったんは反撃に転じようとしていた客はそれを見てまた怯えた。
客の他の者どうしには秘密にしてやっている「ポケモソ」や「リーフファイッ」や「レイフィーノレド」までばらされたら堪らないからだろう。
「て、店員さん、こ、こんなことになって、どうするんですか!?何もしないんですか!?」
それで客は店員に助けを求めた。
・・・実のところ店員は客たちに好感は持っていなかった。彼はモンコレをやっていたし何よりでかい声で騒がれて店内の優先で流れていた(彼の好きな)
林原め○みの歌が聞こえなかったのもある。不機嫌だった理由はそういうことだった。
今さっき起こった状況について彼もまた呆然としていたがちょっとだけ胸がすっとしたのも事実だった。彼はふ、と弟と呼ばれている男の方を見た。
目が合った。
弟の脳裏にまたイメージの奔流が起こる・・・。
(場所はこのカードショップだ・・・。店長とおぼしき人が店員の彼に店を任す。客は誰もいない・・・。彼はおもむろにモンコレのボックスに手を突っ込み
その中から数枚抜いている・・・法則性があるかのように。)
「ぁ・・・あぁぁあぁっぁぁあっああぁ・・・っ!」弟は心に激しいショックを受け、それを追い出すかのように頭をかきむしる。
「どうした、何を見たんだ!」聞きながら兄は激しく震える弟を庇う。
ゆっくりと弟は顔を上げ、怯えた顔つきで店員を指差す。
「こ・・・このひとサーチしてそのカードを・・・着服してるよぉ・・・。」
兄も、客の目も、その店員に注がれる。客の中には「やっぱり」と思っているものもいるようだ。彼はあからさまに動揺していた。
その動揺を隠すかのように彼は叫んだ。
「な・・・なな、なんて言いがかりだっ!警察呼ぶっ!っていうかお前ら出ていけ、出ていけェーッ!」
その声に合わせ、調子付いた客たちも(不信感はぬぐえないままだが)叫んだ。
「出ろ!」「出ていけ!」「そうよそうよ!」
その声に従わずとも2人は外に向かっていた。弟は涙を流し兄はすでに怒りを通り越した虚しさを感じていた。
どうしてゲームを馬鹿にするのか。それでしか楽しめないのか。しかも自分はしてないゲームでさえも・・・
女が叫ぶ。「デテイケェーッ!」
バシッ
兄の頬に何かが当った。
それはさっきまで彼らが馬鹿にしていた雑誌だった。
急速に兄の目に怒りが宿る。
「にいさん。だめだ、だめだよ、だめだだめだだめだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ケースに収めてあったスターターが弾けた。
ボックスの中からもカードが飛び出した。
バラ売りしていたブースターも空を舞い、やはりごく稀が無かった。
店内全てのカードというカードが爆散した。
・・・。
静寂。その中で聞こえるのは荒い息遣い、すすり泣く声。うわ言のように繰り返される「兄さんごめんよ・・・」という謝罪の言葉。
兄は小さく「出よう。」と弟に言い、弟は兄の言葉に従った。
「やっぱり俺たちは受け入れられないのか。研究所に戻ろう。そこしかいる場所が無いのなら。」
兄の言葉に弟は涙を流しながら小さくうなづいた。
夜の闇の中を2人は今来た道を戻っていった。
〜終〜