P THE MEN WHO HAVE ENDED
P終わっている男達
P第一回
ブランドン・ザ・ブギーマン



 「今日おれの家に来いよ、いい物見せてやるからさぁ。」

 ブランドンはバイトからの帰り道で横を歩くディックに向かって言った。

 「いい物?おまえがそう言っても良かった試しなんか無いじゃないか。」

 この時はまだディックは正気を保っていた。

 「今度こそ本当にいい物だよディック、騙されたと思ってまぁ来てみろよ。」

 ブランドンはシニカルな笑みを浮かべながら言った。





 マンションの一室の前に男が二人立っている。

 「まぁ入れよ。」

 ブランドンがディックの肩を叩きながら言った。

 (まだ戻れる。そうだ今なら引き返せる。)

 そう思っているディックの頭とは関係なく足が勝手に前へ踏み出しかけた。

 (この扉の向こうは魔界だ。)

 なぜだか知らないがディックには解っていた、この扉の向こう側で起こるであろう惨劇を・・・

 (そうだ引き返そう)

 「ブランドン、悪いが・・・」

 ディックが断りを入れようとしたその時、絶妙のタイミングでブランドンがさえぎった。

 「そう言えばちゃんとデックは持ってきたんだろうなディック。」

 (デック?・・・そうだ俺はデュエルをしに来たんだ。)

 ディックを責められるものではない、 デックはあるかと聞かれて「no」といえるデュエリストはそうはいない。

 ディックは恐怖をふりっきった。

 「ああ、もちろんさブランドン。この俺がデックも持たずに外出するわけないだろう?」

 「ああ、そうだと思ったよ。念のため、さ。」

 二人の男はその暗い部屋へと飲み込まれていった。





 (水槽?)

 そう、そこには水槽があった、が暗くて中が何も見えない。

 「ああ悪い、今電気をつけるよ。」

 ブランドンがスイッチを入れると部屋に明かりがともった。

 (なんだかまだ薄暗い・・・そうだ水槽は。)

 ディックは水槽に目を凝らしている。

 (なんだこれは?)

 水槽には苔がモウモウと生えていて、電気をつけたのにやはり何も見えなかった。

 「ああ、それはモケケピロピロさ。」

 ブランドンが水槽に魅入っているディックを見て応えた。

 (モケケピロピロ?聞いたことがないぞ)

 「まあいいじゃないかそんな物は。さあ早くデュエルをしようぜ」

 (ああそうだ、デュエルだ)

 ディックのなかから疑問符は消えた。

 二人は奥の部屋へと進んでいった。





 二人は2時間ほどで5回の戦いを終えた。

 「2勝2敗1分けか。まあこんなものか・・・」

 ブランドンもディックも肩で息をしていた。

 「いい戦いだったな、ディック。」

 「ああそうだな、ブランドン。」

 「何か飲み物を持ってくるよ。」


 一分後、ブランドンは両手にスプライトを持って部屋に戻ってきた。

 ディックはすっかり安心しきっていた、しかし。

 ・・・その言葉は言ってはいけなかった。


 そう滅びの言葉だけは・・・

 「そう言えばブランドン、いい物ってなんだ?見せてくれるって言ったろ。」

 ブランドンはニヤリと笑った、その顔は左右非対称でぎこちない。

 本当はその顔にニヤリという表現は当てはまらないのかもしれない。

 「ああ今見せるとも。」

 ブランドンはそう言うとファイルから一枚のカードを取り出した。

 「それは!!」

 そう、それはモンコレのカードだった。

 「そうさ、ジャッジメントさ。やっと来たんだ。」

 そのカードには『ジャッジメント』と書かれていた。

 左の隅にはスペードのマークがあった。

 「ジャッジメント・・・そうかこれだったのか、俺は知らなくてパックを捨てちゃったんだ。」

 ディックは悔しそうに言った。

 プロモーションカード『ジャッジメント』それは古代帝国の遺産を2BOX買った者だけが手にすることができるという幻のカードだった。

 「ああ、たぶん僕がこの世で一番最初に手に入れたと思うよ、何しろ早かったからね。」

 ブランドンは左右非対称の顔でニヤリと笑った。

 「ちょっと見せてくれよ。」

 いてもたってもいられずディックはブランドンの手からジャッジメントをもぎ取った。

  その時だ。逆らったブランドンの膝が床に置いてあったコップに当たったのだ。

 「ああっ!!」

 スプライトはまるで腐海に向かう王蠱のように雪崩れ込んでいく。

 そしてその方向には・・・

 「ああああ、カードがぁっ。」

 そう、その先にはコモンの山があった。

 その山に向かって津波を起こした。

 飲み込まれたのがコモンだったからなのか、ブランドンはすぐに平静を取り戻した。

 「ああ、ちょっとだけ無事だ。」

 そのカードには『キラーホーン』と書いてあった。

 「あっ、こっちも無事だぜ。」

 ディックが手にしているカードは『ポーラー・ベア』だった。

 「そうか!津波に強いもんな、そいつらは・・・」

 平静を取り戻したように見えていたブランドンだが、もうイっていたらしい。

 津波に強いユニットでも、それがカードの時には効果がない事を忘れていた。

 「何を言ってるんだブランドン?」

 ディックは背中に冷たい物を感じた。


 そう悲劇はここからなのだ・・・

 「・・・頻繁はわかったよ・・・でも菱形はどうなんだ?」

 「ブランドンどうしたんだ。こいつらが残ったのは偶然だ、津波は関係ない!正気を取り戻せ!!」

 しかしブランドンは止まらなかった。

 ディックのスプライトをもって『ウォーター・エレメンタル』にむかって津波を起こした。

 しかし、ウォーター・エレメンタルはふにゃふにゃになって端から剥がれていった。

 「菱形はダメか。」

 (ブランドンを止められるのは今しかない。)

 ディックは必死に説得した。

 「そうだブランドン。そいつらはたまたま水に強かっただけなんだ、津波は関係ないんだ、そんな物に惑わされるな、心の目で見るんだ!!」

 ・・・ディックは間違ってしまった。いや、本当はディックも見たかったのかもしれない、終焉を。

 ブランドンの目が異様な光を見せた。

 「そうか、津波なんか関係ない。僕には見えるよ、本当に強いカードがね・・・」

 つぶやくとブランドンは玄関に歩いていった。





 戻ってきたブランドンが手にしているのはあの水槽だった。

 「そうだ本当に強いカードだけが生き残るんだ、魔法生物だろうが聖属性だろうが関係ない。強いカードは負けやしないんだ!!」

 「何をする気だブランドン!!」

 ディックの叫びも、もうブランドンには届いていなかった。

 ブランドンはテーブル中央に置いてある『ジャッジメント』に向かって水槽の水をぶちまけた。

 「やめろぉおおおおお!!!!!」

 「お前の本当の強さを見せろ、ジャッジメント!!!エンシェント・レイン!!」

 腐った水は真っ直ぐにジャッジメントに向かって降っていった。





 後に残ったのはふやけきった『ジャッジメント』だけだった。




 「は、ははは」

 「はは。あはははははは。」

 「そうだよな、水に濡れたらダメに決まってる。」

 「ああ、そうさブランドン。」

 部屋には明るい笑い声が響いていた。


第1回 完

(注)
この物語は「WIZZ」の「人民日報 Wizz出張版」に色濃く影響を受けております。
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