P THE MEN WHO HAVE ENDED
P終わっている男達
P第2回
ニコラス・ザ・イノセント



 その日は朝から大雨だった。

 「あ〜あ、つまんないなぁ。」

 ニコラスは腐っていた。

 どんな時でもモンコレをやりに来る友達も、今日ばっかりは外出を躊躇うだろう。

 それほどの大雨だ。


 「ピンポーン」


 唐突に玄関のチャイムが鳴った。

 (誰だろう?)

 ニコラスはいぶかしんだ。

 今日はお父さんもお母さんもいない、一人っきりだ。

 そう、今ニコラスは初めてのお留守番をしているのだった。

 『知らない人が来ても家に入れちゃダメよ』そう言われていた。

 ・・・しかし両親は忘れていた。『ブランドンが来ても話を聞いちゃダメよ』と付け加えるのを。

 しかし両親を責められはしない。

 こんな洪水でも起こりそうな日に、人の家に訪ねる人物が居るなんて普通は思わない。


 「ピンポーン」


 再びチャイムが鳴った。

 「は〜い、今いきま〜す」

 ガチャリ、ニコラスはドアを開けた。そこには・・・

 「やあニコラス、雨に降られちゃってね、入っていいかい。」

 ニコラスには両親の言葉は絶対だった。

 知らない人は入れない。でも知ってる人なら・・・

 「うん、入ってよブランドンおじさん。そのままじゃ風邪ひいちゃうよ。」

 「ありがとよニコラス。」

 そう言ってぎこちなく笑うブランドンの左右非対称な顔は半年前に会ったときと変わらなかった。

 ブランドンはニコラスの勧めるままに風呂に入り着替えをした。

 「ゴメンねお父さんので、ちょっと大きすぎかなぁ。」

 「いや、ありがとう助かったよ。でも今日はお父さんとお母さんはどうしたんだい?」

 ブランドンはバスタオルで頭を拭きながら尋ねた。


 「今日は二人ともお出かけなの、だから一人でお留守番。」

 「ふーん、こんな雨の日に大変なんだな。」

 「うん、でも僕も暇でしょうがなかったんだ。おじさんが来てくれてちょうど良かったよ。」

 「それは良かった。」

 「暇ならちょっと遊んでよ。」


 少年は言ってしまった・・・滅びの言葉を・・・


 「モンスターコレクションって言うんだけどね、ルール教えるからさぁ。」

 「モンスターコレクション!」

 つぶやいたブランドンの表情が一瞬消えた、しかしそれはあまりにも短すぎて少年は気づかなかった。

 「おじさん知ってるの?」

 それはあまりにも無垢でそれでいて無知だった。

 少年はそれがどんなことを引き起こすか、考えもしなかったのだ。

 ブランドンは晴れやかに言った。

 「ああ、知ってるとも。ほらデックもこうして」

 ブランドンはジャケットの内ポケットからデックを取り出した。

 その動きは一分の隙もなく洗練されていた。

 「すごーい、おじさんがモンコレやってるなんて知らなかったよ。」

 「さあ、前書きはいいから始めようデュエルを!!」

 「うん!」





 勝負はあっけなくついた。

 5回のデュエルもモノの10分としないで終わっていた。

 「おじさん強いんだね。全く歯がたたないや。」

 結果はブランドンの5勝0敗だった

 「でもおじさん、どうしてそんなにつよいの?それに見たこともないカードがいっぱい・・・」

 「なんだ、カードチェックもしてないのか。そんなんじゃ大会で勝てないぞ。」

 「大会・・・僕でも勝てるかなぁ。」

 ブランドンは得意の表情で言った。

 「ああ、勝てるとも、このカードがあればな。」

 そう言ってブランドンは2枚のカードを見せた。

 「セブンにフォーチュン、これがそんなに強いの?」

 「これがあれば、カードが引き放題なんだ。」

 「えっ引き放題?」

 ニコラスはどんどん深みにはまっていった、それはあたかも蟻地獄に落ちた蟻そのものだった。

 「さっき見てただろう、カードが引ければ何でもやり放題だぞ、相手はもうなすがままだ。」

 「でもセブンなんて普通に使ったら2枚しか引け無いじゃないか、召還したあとに使えればいいのに。」

 「手札がゼロの時に使ったらどうなる?」

 ニコラスは必死で頭を回転させた。

 「そうか、7枚も引けるんだ、でも手札をそんなに使えないよ・・・」

 「儀式デックだ。それなら使い切れる。」

 儀式デック・・・少年には聞き覚えのない名前だった。

 「そうだ、お前のデックには一枚も入ってなかったな儀式スペルは。」

 「だって一枚制限って書いてあるもん、友達が『一枚のカードに頼ったらダメ』だって・・・」

 「一枚じゃない、儀式スペル全部合わせて30枚と数えるんだ。」

 「30枚も入れるの?」

 「そうだ、みててみろ。まずこうだ」

 そう言うとブランドンは2つのデックをシャッフルして並べた。

 そして・・・

 地形配置、ユニット召還、エンド、地形配置、ユニット召還、エンド、と目にも止まらぬ速さで2つのデックを操って見せた。

 数ターンの後、

 「ここからだ、よく目に焼き付けておけ。」

 「うん。」

 ニコラスは固唾をのんで見守っている。

 ブランドンは『チェンジフィールド』『リベンジ』『デススペル』『ゲート』と立て続けに行った。

 「ここで『セブン』だ!!」

 すっかり尽きたように見えたブランドンの手札はみるみる回復してゆく。

 そのあともブランドンは、『ファイアーストーム』、地形配置、『ゲート』、その他ありとあらゆる儀式スペルを使って見せた。

 そして時折はさまれる『セブン』と『フォーチュン』が減りつづける手札を補っていく。

 そして30枚ほどのカードを使ったその時・・・

 「スターライト・イクスプロージョン!!」
 「ジャガーノート!!」
 空いた敵本陣めがけ一体のユニットが自軍本陣から突進していった。

 「す、凄いよおじさん。一回も戦わないで勝つなんて!!」

 「どうだニコラス、セブンとフォーチュンさえ有ればこんな事ができるんだ。」

 「こんなに強いのに一枚制限じゃないなんて!」

 無情にも、疲れ切っていたブランドンにその言葉は届かなかった。

 二人とももう肩で息をしていた。


 「そうだニコラス、このセブンとフォーチュン3枚ずつお前にやろう、持ってないんだろう?」


 「でもおじさん、これ高いんでしょう?こんなに強いんじゃ。」

 「見てみろここを」

 ブランドンが見せたカードの左下には▲マークがあった。

 「頻繁!?」

 「そうだ、だからいいんだよ気にしなくて。」

 「ありがとうおじさん、これでデックを組んでみるよ!」


 ブランドンが窓を覗くと外はすっかり雨が上がっていた。

 「おっ、雨が上がったか。じゃあ僕はそろそろ行くよ。」

 ブランドンはそう言ってニコラスの家をあとにした。

 「ありがとうおじさん!!これで来週の大会に出て勝ってくるよ!!」

 (・・・来週?)

 何かが気にかかったがブランドンは思い出せなかった。

 ブランドンは忘れることにして帰路についた。





 ブランドンはディックとの対戦中にふと気が付いた

 「そう言えばウルドとベルダンディは一枚制限になるんだっけな」

 「ああ、他にも何枚かはエラッタが出てるぜ、来週から施行だ。」

 (・・・来週?)

 ブランドンは何かが気にかかったが思い出せなかった。

 (まあいいか。)

 ブランドンはディックとの勝負を再開した


第2回 完
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