P THE MEN WHO HAVE ENDED
P 終わっている男達
P第3回
マイケル・ザ・バイヤー



 「なあニコラス、何当たった?」


 マイケルは隣で一心にブースターを開ける少年に向かって言った。

 「うん、雪の女王だよ。またクラブ当てちゃった。」

 「ふーん、でも女王じゃなぁ・・・」

 「いいんだよ、スノー・ホワイトのお母さんなんだから。」

 「まあ、今ので3枚目だろう?女王引くの。これでやっとデックに入れられるな。」

 マイケルは世にも恐ろしいことを平気で言った。

 何処の世の中に三枚揃わないからってクラブを入れない男がいようか。

 しかしニコラスはマイケルの言うことを良く聞いていた。

 「うん、今まで我慢してた甲斐があったよ、やっとスノーホワイト・デックを作れる。」

 「・・・ずっと思ってたんだけどその『スノー・ホワイトデック』ってなんだ?」

 「いいんだよ気分なんだから、それよりマイケルは何が当たった?」

 「ああ、俺は『ホーク・ウィンド』だ」

 「良かったね、そっちもクラブじゃないか。」

 マイケルはムッとしたように言い返した。

 「本当にそう思ってるのかよ、だとしたら・・・」

 ニコラスはあわてた。

 「あっ、あ、ゴメン。ホーク・ウィンドだもんね僕が悪かったよ、謝るから。」

 「解ってるならいい。」

 「でも、そっちもホーク・ウィンド3枚目なんじゃない?」

 「ああ、まあね。せっかくだからちょっとホーク・ウィンドでも使ってみるかな。」

 「でも、どうやって使うのそんなの?」

 「・・・今から考えるんだろ。」

 マイケルはまた不機嫌になっていく。

 あわててニコラスが話を逸らそうとした。

 「や、やっぱりクラブは全然三枚にならないね、これじゃあデックに入れられないよね。でも、本当に3枚にならないとデックに入れちゃダメなの?」

 マイケルは何を今さら?という顔をして言った。

 「この前もいったろ。3枚入ってないと来る確率が極端に少なくなるんだ。それに、『たった一枚のカードが来ないから負けました』なんて格好悪いじゃないか、だから全部3枚づつ入れるんだ。」

 ニコラスはその計算はおかしい事に気づいた。

 「あっ、でも50枚じゃ3で割り切れないよ?どうするの、2枚のカードができちゃうじゃない?」

 「道だ!」

 マイケルはニコラスの疑問を一蹴した。

 「道を5枚入れるんだ。そうすれば2枚しかないカードは無くなる。」

 「そっかぁ、解ったよ。それじゃあ今から帰ってデックを組んでみるよ。じゃあね。」

 「ああ、またな・・・」

 ニコラスがいなくなるとマイケルは途端に挙動不審になった。

 辺りをキョロキョロとうかがい帽子を深くかぶり直した。

 (・・・そうだ今のままじゃクラブは使えない・・・)

  ニコラスの一言がマイケルの奥で眠っている獅子を起こしてしまったのだ。

 止められはずの人間はもう店を後にしている。

 (本当は解ってたんだ、前から。)

 マイケルを妨げるモノはもう何もない。


 (そうだ、クラブだ!俺にはクラブが必要なんだ。みんな解ってくれるはずだ。)

 マイケルの思考は完全におかしくなっている。

 マイケルがやろうとしている事を理解してくれる人間なんてこの世にはいないことは考えなくても解るはずなのに・・・

 今、ニコラスがいたらこの悲劇は回避されたはずだった。

 いや、マイケルは最初から狙っていたのだこの瞬間を!

 ニコラスが帰るその瞬間を!!

 まだ店員は気づかない、この帽子を目深にかぶった挙動不審の少年が起こそうとする悲劇を・・・

 しかし店員を責められるモノではない。この世にそんなことをする人間がいるなんて普通は思いもしないハズなのだから。

 マイケルはついに行動を起こした。

 カウンターに近づき、他の人間には聞こえないような声でつぶやく。


 「モンスターコレクションのスターターを10箱下さい・・・」


 店員は一瞬表情を無くしたが、すぐに自分の間違いに気が付いた。

 「ああ、スターター10箱か。坊やお金持ちだね、1万3・・・」

 「ちがう!!」

 マイケルの言葉が店員をさえぎった。

 「ま、まさか・・・」

 店員は気が付いたのだ、自分の間違いに・・・

 さすがに店員は色を無くしている。

 「そうだ10BOXだ!」

 マイケルはついに言った

 「さっさと用意してくれ。」

 店員にはもう恐怖の表情しか浮かんでなかった。

 引きつった顔で店内にあるスターターを袋に詰めだした、そしてやっとの事で声を出した。

 「こ、これで10ボッ・・・」

 店員が言い終わる前にマイケルは子どもの小遣いとはあきらかに2桁は違う金を置いてダッシュで店を出た。

 「あっ、あるりがと・・・」

 店員の舌は回っていなかった。


 (・・・もうここには来られないな。)

 マイケルは必死で駆けながら思った。





 次の日。

 「あ!マイケル!実は僕あれからまたカード買いに行っちゃったんだ。やめようと思ったのに体が勝手にね。」

 そう言うニコラスの手にはスターターが3つ握られていた。

 「でも、マイケルだって買っちゃったんでしょう?僕には解るよ。」

 「ああ、よくわかったな。」

 「だっていつもより顔色が悪いもの。そんな日は大体カードを買ってたでしょう、また徹夜でカード研究?」

 「ああ、スターターを10箱だよ。」

 ニコラスは素直に驚いた。

 「すごーい。じゃあクラブが10枚も手に入ったんだね、3枚揃ったクラブはあった?」

 マイケルは前半を意図的に無視して後半にだけ答えた。

 「あったよ・・・」

 「じゃあ、デックに組み込めるね。あっ、もう入れてあるか。」

 「ああ。試してみるか?」

 「うん、僕も昨日のカードで組み直してみたからね。」

 「じゃあ、デュエルだ。」


 ニコラスは、まだ『箱』の単位が自分が思っているのと違っていることに気が付いていなかった。

 (ニコラスはクラブだけでできたデックを相手にしたことはあるだろうか?)

 マイケルは完全に・・・終わっていた。



第3回 完 P第4回
P1UPP TOP