

ジョナサン・ザ・チェアマン
「旦那様、『舞姫』2000枚、入手に成功しました。」
全身黒ずくめの男が報告した。
「うむ、ご苦労。下がっていいぞ。」
「はっ。」
男はジュラルミンのケースを置いて、部屋を後にした。
それと入れ替わりに、男が1人入ってくる。
立派なヒゲを蓄えた、熟年と言われる頃合いの男だ。
「首尾は上々らしいな、ジョナサン。」
「ああ、取引は旨くいったよ、マサキ。」
二人の男は互いにニヤリと笑った。
「じゃあ予定通りに行動していいんだな?」
「ああ、すべて順調だ、何も問題はない。」
ここはジョナサンの会社の最上階。この階に足を踏み入れることができるのは8人だけだった。
その中でマサキはジョナサンにとって最も信頼できる男だった。
人としても、実業家としても。
「じゃあ後の手配は俺がやっておく、ジョナサン、お前はのんびりくつろいでいてくれ。」
「そうさせてもらおう。」
「今はいくらだ?そうだ『舞姫』だ。そうか、1万2000になったら一斉に売りに出せ。」
マサキは情報部の7台のディスプレイを見ながら的確に指示を出していく。
「『歌姫』はどうだ?そうか、そのまま目を離すな、6000を切ったら報告をしろ。」
全国に散らばった直属の210人の部下はそれを聞き行動に移す。
ピーピーピー
その時だ、一つの携帯が鳴り出した。
「どうした19番。・・・何!『オドントティラヌス』が4500円を越えた?」
その報告は信じられない物だった。
全くのノーマークだ。
「ほ、本当か?何処だ?」
その場所は誰もが知っている場所だった。
「し、新宿。黄色い潜水・・・」
しかし、落ちている暇はなかった。そこの所はわきまえている。
マサキはすべての回線を開いた。
「すぐにオドントティラヌスを新宿に回せ。全てを売りに出せ、そうだ全てだ!!」
(間に合うのか?いや、間に合わせる!)
マサキはすぐにヘリを手配し、全国に散らばる部下のもとへと急がせた。
(間に合った。)
『オドントティラヌス』は何とか間に合った。
1000枚を売りに出したと同時に値崩れを起こし、今は600を切っている。
マサキがようやく人心地着いたとき再び携帯が鳴り出した。
ピーピーピー
「今度は何だ?」
報告は全く信じられない物だった。
あってはならない事だったのだ。
「なに!『舞姫』が4000を割っただと?ホントなのか!!」
舞姫は6割は買い占めたつもりだった、『歌姫』2000枚を犠牲にして手に入れたチャンス、それがなぜか値崩れを起こしているのだ。
「どうしたんだマサキ?」
ふと気が付くとマサキの後ろにジョナサンがいた。
「ジョナサン・・・信じられない・・・」
流石のマサキもまだ放心している。
その様子にジョナサンもただならぬ気配を感じ取る。
「何があったマサキ!!」
「・・・『舞姫』がもう3500を切った。」
!!
「そうだ『歌姫』は?」
「それが・・・1万1000を・・・軽く越えて。」
「やられた・・・奴らの『舞姫』はあれだけじゃ無かったんだ。」
「どういうことだ?」
マサキは聞き返す。
マサキの立場からは決して言ってはいけない言葉だったが。
「俺達と同じ事をしたのさ・・・『オドントティラヌス』なんて囮まで用意してな。」
「そうか・・・買い占めと空売りに情報操作・・・か。」
「ああ、俺達の十八番を取られた形だ。」
マサキはもう言葉もない。
「今回の負債を報告しろセバスチャン。・・・ああ、セバスチャンはもういなかったんだったな・・・電算室!」
ジョナサンは電算室をうながした。
電算室がはじき出したその数字はジョナサンの資産総額とほぼ同じだった。
「・・・仕方ないな。」
ジョナサンは情報部を後にしつつ言った。
「後始末を頼むマサキ・・・これがお前の最後の仕事だ。」
「すまん・・・」
「いや、いいさ、今までの分たっぷり休んでやるとしようじゃないか。」
ジョナサンの表情は逆にさっぱりしていた。
第14回 完
