


チロル算
「おい静寂。どっかで飯喰ってこうぜ。」
高橋純一は隣を歩く二階堂静寂に向かって言った。
今日は土曜日だ。
高校にもなると給食は無い。
二人とも特定のクラブに入ってはいないので、購買で昼食を買う必要もない。
純一は静寂を誘って牛丼屋に入った。
「僕は並かな。」
「並!?」
静寂の呟きに純一がピクリと反応した。
「どうした?純一。」
「い、いや、何でもない。」
純一はキョトキョトしはじめた。
そしてふと、メニューに目をとめた。
「並、400円!?」
もう駄目だ・・・静寂はそんな純一の呟きを聞いた気がした。
「400円あれば1パック買えるじゃないか・・・」
「何を言ってるんだ純一?」
「出るぞ静寂!!」
言うが早いか純一は静寂の腕を引っ張って店を後にした。
そのまま静寂の腕を引っ張りカードショップに入る。
「空中庭園を1パック!!」
純一の声に店員が箱を差し出す。
純一はその中から1パック取ると400円をレジに出し、あわててそのパックを開けた。
!!
純一の顔が輝く。
「ゴモリーだ・・・」
その瞬間に純一の中の何かが壊れた。
店からの帰り道は酷かった。
「そうか、一食抜けば1パック・・・」
「携帯を解約すれば、月8パックは堅い・・・」
「ああ、子供がラジコンやってるよ、あんなの買わなけりゃ5BOXはいけたのに・・・」
純一はモノを見るたびに呟いた。
静寂の制止の声も耳に入らないようだ。
そう、純一はかつてチロル算と呼ばれたモノをやっていた。
チロルチョコが一個10円だった頃、全てのモノをチロルチョコ何個買えるかで計算しようとした公式があった。
その名は『チロル算』。
絶滅したかに見えたそれが、今でも形を変えて受け継がれていたのだ。
『パック算』として・・・
「俺の本棚にある本、1冊400円として・・・ああ、俺はなんて無駄なことをしてきたんだ・・・くだらない本を一冊買うくらいなら1パック買った方が良かったじゃないか。」
「やめろ純一!!それ以上、口にすると・・・」
「ちょっとでも足しにするか・・・」
次の日
純一は今まで集めた千数百冊のマンガを全て売り払っていた。
それらは全て『空中庭園』に姿を変えて・・・
第25回 完