


黒衣の札商人
「何故、カードを捨てたのですか?」
黒ずくめの男は聞いた。
その男の前には、やはり男が一人居た。
そいつはうなだれていた。
そしてやっとの事で声を出した。
「・・・限界だったんです」
「限界?限界とは越えるためにあるのです、あなたはそこで諦めてしまった、何故です?」
黒い男は容赦がない。
「・・・限界は、もう3回も越えたんです、今度こそが本当の限界だったんです」
男は自分のこれまでが否定されようとしたせいか、少し声が大きくなっていた。
「諦めたのならいつだって同じです、2回越えようが3回越えようが、最終的にあなたは諦めた、それが問題なんです、何故です?」
「し、しかし・・・限界は目に見えて・・・」
「僕には見えない、何処に見えるのです?まだこんなに空間が有るじゃないですか」
「しかし、この場所は布団を敷くのに最低限・・・」
あなたはカードよりも睡眠を取った・・・その程度だったんですか、あなたのカード愛は」
「し、しかし、寝ないわけにはいかないんだ、そうだろ、寝てない頭でまともなデックなんて組めるわけはないんだ、あんただって知ってるだろう?徹夜で組んだデックの出来を!」
「しかし、だからといってカードを捨てて良いと言うことにはならない、あなたは問題の本質をごまかしている、いや、自分をごまかしている」
「しかし・・・あの人は・・・」
「あの人?あの人とは誰です?」
男は黙ってしまった。
「あの人とは誰なんです?」
・・・
「あの人・・・それはあなたにモンコレを勧めた人間ですね?」
ハッっと男が顔を上げた。
「その人間に言われたのですね、余ったカードを捨ててしまえと」
「そ、そうです、そいつが悪いんです」
男はその人を悪く言えばこの男の追求から逃れられるのかのように喋った。
「そいつがもう限界だと、私はそそのかされたのです、私は被害者だ、そうだろう?」
「ファイターがカードを捨てること、その意味が分かっていますか、あなたには」
「い、み?」
「あなたはカードと共にファイターの誇りも捨てたのです」
「ほこり・・・」
「そしてあなたは自分の意志さえも疎かにした、もうカードの世界にあなたの生きる道はない」
それは断罪だった。
男に残されていたわずかな希望さえも容赦なくうち砕いた。
しかし・・・黒い男は続けた。
そっと男の耳元で
「これを開けるのです」
と言った。
「これ・・・は、ブースターじゃないか・・・もう、僕にはこれを開ける資格が・・・」
「何を言っているのです、あなたはファイターじゃないですか、さあ」
男はためらっていた。
目の前の男がたった今、男のカード魂を全て否定したのだ。
その男がまた、パックを開けろと迫ってくる。
「さあ、取り戻すのです、一度捨てた物は戻らないが新たに手にすることは出来る、さあ開けるのです」
パックに手が掛かる。
「さあ、あなたの意志であなたの誇りを、カードと共に」
男はパックを・・・開けた。
もう止まらなかった。
一つ開けたら隣から新たなパックが渡される。
男にはもう「開けない」という選択肢も意志も存在しなかった。
それはもう、マシーンの様に開けた。
「は、ははははははクラブだクラブだ、歌姫を引いたぞ、ははははは」
男の部屋はいつの間にかカードとパックの空で埋まっていた。
幸せだった。
第82回 完