
私は患者の不満や心配事を聞いて、それを取り除くことを仕事にしている。
平たく言うと精神科医というやつだ。
もっとも、厳密にいうと私は医者でもなんでもない。
なにしろ医師免許なんか持っていない。それどころか医学の勉強もしたことはないのだから。
「お大事に。次の方どうぞ」
しかし、現実に患者はやってくるのだ。
四の五の言ってはいられない。
法律だの警察だの細かいことには目をつぶってもらおう。
「僕なんかもう必要ないんです」
次の患者は開口一番そう言った。近頃この手の患者が特に多い。
「いままでも、僕はあまり期待されていたとは言えません。それでも僕にしか出来ないことがありました。僕は無価値ではなかったのです」
話を聞きながらカルテを見る。なるほど彼にしか出来ないことがあった。…今までは。
「でもアイツが……アイツが来てから!僕は誰にも見向きされなくなった!アイツのせいだ!アイツさえいなければ!」
自分と同じ分野で、自分よりはるかに優れている相手に対して抱く気持ちは誰しも同じようなものだ。
しかも後輩となれば、その気持ちはさらに強いだろう。
「無理をいってはいけません。相手は最優秀新人の一人じゃあありませんか。あなたよりもっと優れた人はいくらでもいるのですよ」
患者は驚いて私を見る。慰めの言葉でも期待していたのだろう。
しかし、カルテに書かれた『アイツ』の事を読むと、とてもではないが安直な慰めはできない。
はたして誰が彼と『アイツ』を比べて彼の方が優秀だというだろうか?
だから私は慰めるのとは別の方法を取ることにした。
「上を見てはいけません。下をみるのです」
「下…ですか?」
私の唐突な一言に患者はいぶかしげな表情を浮かべる。
「そうです。優秀なものと比べるから自分が劣っていると感じるのです。周りを見てみなさい。あなたより使えないヤツなんて、いくらでもいます」
「僕より使えないヤツ?」
私はうなずいて言葉を続ける。
「そう、例えばあなたと同期の『白い息をはいて』なんてどうですか?他にも『フラッシュ・デトネイター』なんかもいましたね。私はアレを使ってる人を見たことが有りませんよ。アレに比べたら『スプライト』に劣ってることぐらい大した事じゃあ有りません」
名前を上げたカードと自分を比べているのだろう。患者にみるみる生気が戻って来る。
「ぼくは…存在価値があるのですか?」
「もちろんですとも。あなたは充分に使えるカードですよ。自信を持ってください」
『錆喰い』は礼を言って帰っていった。
患者の幸せは私の幸せだ。
彼の心の幸福のために『白い息をはいて』と『フラッシュ・デトネイター』にも同じ事を言ったことは秘密にしておこう。
いままでにも、エクストリームとかいう格闘技について力説する『リザードマン特別攻撃部隊』やストーカーに狙われていると思い込んだ『インヴィジブル・ストーカー』など変わり種はいたが、ほとんどは今回のような「自分は役に立たないのではないか?」という不安に取り付かれたものたちだ。
そして、どんな患者も私は治療してきた。
なぜなら私はモンコレカード専門のモンコレ・セラピストだから。
さて、早くも次の患者がやってきたようだ。私はカルテを手に取った。
「次の方……」
どうぞと言おうとして動きが止まる。カルテに書かれた名前をみたからだ。
……これは今まで私が扱った患者の中でも最も難しいものとなりそうだ。
しかし、私はモンコレ・セラピストだ。どんなカードでも立ち直らせてみせる!
「次の方どうぞ」
そして患者が入ってきた。
……そう『太陽と月の六分義』が。