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その瞳は水色の(最遊記・八戒)


秋の空は天高く澄んでいます。
先生・・初めて貴方に逢ったのはこんな空の下でした。

よれよれの白衣をまとい、貴方は空を見上げていましたね。黙って通り過ぎようとした僕の方を見て微笑んだ貴方。思わず足を止めて、お辞儀をしてしまいました。その笑顔の優しさに・・16歳で偽善の箱庭のような孤児院を出て、全寮制の学校に進んだ僕は、そこでも孤独でしたから。

空に手をかざしてごらん わかるだろう 天に満ちる気が
目を閉じて感じてごらん 足元から湧き上がる力を

先生・・本に埋もれた貴方の研究室。香りの良い紅茶。静かな会話。貴方はそれから少しずつ気を扱う技を僕に教えてくれましたね。大地に満ちる生命がこんなにも愛おしいと感じたのは初めてでした。手を差し伸べるたびに、流れを感じるたびに、幸福はやってきました。

でも・・

学校では、僕のような人間は狩られる対象でした。僕は自分を守る為に戦わねばなりませんでした。僕に下劣な手を触れようとした上級生を吹き飛ばしたのが、最初でした。それからこの技を持って僕は敵をねじ伏せる事を覚えたのでした。

先生・・貴方がそんな力の使い方を望んでいなかったのは知っていました。しかし僕は自分を守りたかった。今は守るべきものを持たない自分であっても。まだ未来を信じたいと思っていましたから。

あの日、どうして帰宅が遅くなったのか、もう覚えていません。夜更けの暗い道を僕は寮へ急いでいました。誰かが不意に近づいて来た気配・・僕は恐怖にかられ、あらん限りの力をその影に叩きこんでしまったのです。雲に隠れた月が顔をのぞかせ、照らし出したのは・・先生・・血まみれの貴方でした。僕の帰りの遅いのを心配して迎えに来てくれた・・

苦しい息の下で、貴方は僕にここからすぐに去るように言いました。僕はその言葉のままにそこから逃げ去りました。余りの出来事に僕は正気を無くしていました。何故、貴方を置き去りに出来たのだろう・・

翌日、校長から先生は暴漢に襲われたと全校生徒に話がありました。僕は貴方の病室へ行きました。本当はとても怖くて・・ドアの前を何度も行き来しました。勇気を振り絞って中へ入ると、貴方は横になったまま、僕に手を差し伸べてくれました。僕はその手を握り、無意識に僕の思いが、貴方の中に流れ込みました。貴方はそれを感じてかすかに微笑み、僕を見て・・その目は、僕を許してくれていました。その夜、貴方は亡くなりました。

僕の最初の殺人でした・・

先生・・あれから僕は沢山の命を奪い、この身も人ではなくなりました。今は名前に戒めを刻み、貴方に学んだ技で妖怪を滅ぼし、一方では傷を癒しているのです。矛盾した行為ですよね。でも今の僕には守りたいものがあるのです。手についた血は洗い流せるけれど、心の傷から流れる血は拭えない。それを知りながら、僕は旅を続けています。

先生・・今でも貴方は僕を見守ってくれているのでしょう?
見上げるといつも空は貴方の瞳の色をしていますから。
あの澄んだ水色の・・僕の罪を許してくれた、あの瞳の色を。







05.10.09
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