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| 強くない俺とおまえに(最遊記・悟浄) |
煙草の味が苦いと感じるのは、やっぱ、調子が悪いってこった。 こういう時は酒もうまくねぇ。だからって大人しく早く寝るなんざ出来ねえ性分だしな。 こんな田舎の村じゃ、人通りどころかまともな通りすらねえ。家畜の匂いの混じる風は散歩するにはちょいと冷たいが、それほどやわい身体の俺様でもねぇしな。調子が悪いのはデリケートなハートの方さ。 俺は強くなんかない。そりゃ、フツーの人間や雑魚の妖怪なんざ、屁でもねぇがな。だが他の奴らに比べれば・・あいつらは本気で戦う事はまずない。本気になる時、そりゃもう、俺達がかなりヤバイ時だ。余裕よ、余裕。それがあるからあいつらは笑っていられる。俺なんざ、出したくたって出せるモンなんざ、ねーのによ。 八戒がいつもの発作を起こした。 罪の意識ってヤツは、どうにもこうにも消えないもんだ。俺にだってそれくらいは解るがな。まあ、アイツはそこから出て来なくなっちまう。普段は笑顔しか見せねえ野郎が泣きながらのた打ち回るのは悲惨過ぎる眺めだ。それをアイツは三蔵や悟空には絶対に知られたくないと思っている。だから俺が誤魔化すワケよ、何とかカントカ言ってな。バレテねえとは思ってねーけど、いちお、そーゆー事にしてあんだわ。 女なら抱いてやるとか、慰める方法もあるんだろうけど、アイツは男だしな。やっかいな位プライドが高い潔癖症だし。ホント、疲れんだわ。弱いオレサマなのによ。俺より強いんだからさ、強くいてくれよ、頼むよ・・ 木の根元に腰を降ろして、まずくても煙草に火をつけちまう。習慣なんだわ。この旅がいつまで続くかは知らねえが、考えないようにしてるが、俺だってこんな風に後ろ向きになる時がある。八戒の事を言えねぇな・・ 部屋に戻ると、アイツは落ち着いていた。 いくらかこわばっているとはいえ、いつもの優しい顔を取り戻していた。 「寒くありませんでしたか?」ベッドに横たわったまま、声をかけてきた。 「オレサマは身体もアソコも丈夫よ?」俺が答えると、少し笑って目を閉じた。目を閉じて上を向いたままアイツは言った。 「僕は、まだ何とか正気でいられそうです」 「バーカ、俺達ん中じゃ、お前が一番最強にまともなんじゃねーの?」 軽口で相手になってやると、八戒の目尻から涙がすうっと耳まで伝うのが見えた。 「僕は強くなんかありませんよ。まともかどうかも自信がないんです。貴方の方が本当はずっと・・」 俺は八戒のベッドの端に腰を降ろして、額に軽くデコピンしてやった。 「くだんねー事言ってないで寝ろっての。寝坊すると生臭坊主がうるせーぞ?」 八戒が目を開けた。涙に濡れた緑の瞳が俺を見上げた。 「悟浄・・いつもありがとう。貴方がいてくれるから、僕は・・」 コイツがこんな事を口にするのは今だけだって分かってる。明日になれば三蔵と一緒に小言を言いまくるだろうよ。まあ、それでも・・・ 「もう、寝ろ」俺は言った。 「はい」八戒はすぐに安らかな寝息を立て始めた。 強いだの、弱いだの、いいやね、何でも。まあ、こんなオレサマでも、いないよりはマシってか、ここに。 寝る前の最後の一本と思ってつけた煙草は、うまかった。 おっと、枕に灰でも落としでもしたら、朝起きたアイツに何言われるかわかんねーからな、用心、用心っと。 服を脱いでベッドに潜り込んだ俺は、遠い昔、兄貴と遊んだガキの頃の夢を見た。変わっちゃいねえ、変わっちゃいねえよ、あの頃と。だがよ、ちっとだけ悪あがきが出来るよーになったようだぜ。ちっとだけ、な・・・ 05.10.17 |
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