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貴方のRed 僕のGreen(最遊記・八戒)


「きれいな眼をしているねぇ、雨上がりの木々の緑の色だね」
林檎を買ったおつりを渡しながら、おばあさんが言った。
「ありがとうございます。真っ赤で美味しそうな林檎ですね」
「あんたには、その色が必要なんだね」
「え?あの・・?」
おばあさんは他の客の相手を始めてしまい、もうこちらを見向きもしなかった。

赤・・僕の中の赤い色。それは苦い記憶、哀しい記憶、辛い記憶・・忘れる事は出来ない。治ったふりをした傷が又痛み出す。おばあさん・・貴方は一体。昨夜の雨で濡れたままの道を過ぎ、町のはずれの安いアパートのドアを開ける。煙草の匂いが漂う部屋は、冷たく主の不在を告げている。悟浄は昨夜から戻らない。どこかで飲んだくれているのか、それとも・・

僕等は同居はしているけれど、互いを縛らないようにしている。あまりにかけ離れた生活習慣を、急に合わせるのは無理な相談だ。大罪人の名前を捨て、新しい名前で生き始めた僕は、これからどう生きるべきかもわからぬまま、ここにいる。悟浄はそんな僕を黙って置いてくれている。それだけでも・・僕は感謝すべきなのかもしれない。

買い物の荷物をテーブルに置いた。ひとつの林檎がころがり、テーブルの下に入り込んだ。身体がバラバラになりそうな程の寂しさがやってくる。自分で自分の身体を抱きしめたまま、僕は床に膝をついてしまった。この世界のどこに、僕の居場所があるというのだろう。本当に僕が生きて、変わるものがあるというのだろうか。

いきなり部屋が明るくなった。
「なーにしてんだ?」
戻ってきた悟浄が灯をつけたのだ。
僕はテーブルの下の林檎を拾って立ち上がり、膝のあたりを掃った。
「いえ、何でもありません」

次の日、一緒に買い物に出かけた。
「ババァ、まだ生きてたんか、ああ?」
あの露店のおばあさんに、悟浄が軽口を投げかけていた。
「あたしより先に、アンタが野垂れ死にするんじゃないの」
「よけーなお世話だよ!」
向こうで売り物の品定めをしている悟浄を尻目に、おばあさんは僕の方を向いて言った。
「あんなにいい眼をしているあの子は始めてだ。きっとあんたのおかげだね」
「いえ、僕の方こそ、悟浄に・・」
「赤と緑は補い合う色だよ、あんたらもそうだ。あの子の逞しさがあんたを支え、あんたの穏やかさがあの子を癒すだろう」
おばあさんは、にっこり笑って言った。
「一緒に強くおなり」
「はい」
返事をしながら、僕の胸に温かいものがあふれるような気がした。

「悟浄、余計なものはもう買わないで下さいね。又腐らせると困りますよ」
「オレサマは細かい事は気にしねーの!」
「あの部屋は、僕の住まいでもあるんですよ」
悟浄はこちらを見て、にやりとした。
「まあ、そーゆー事にしといてやるわ」

悟浄の目に温かい光が踊っている。赤々と燃えるその色こそ、生命の色だ。
赤は血の色、でも温かい血は生きている証、生きる力を運んでいるのだ。僕のこの身の内にも・・悟浄、貴方と共になら、僕は何かを見つけられるかもしれない。いつか胸を張って死ぬ時の為に・・今度こそ、この手で何かを守れる強さを得る為に・・


もう少しだけ生きてみよう、もう少しだけ生きていたいと思った。



05.10.24
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