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そんな風に思えるように(最遊記・悟浄)


久しぶりの街だ。やっぱり人がいる場所はいい。
俺達もそれぞれに、ちょっとした休憩ってわけだ。

橋の欄干にもたれながら、行き交う人々を見ていた。傍らで八戒が言った。
「いいですね、生活してるって感じですね」
「真っ当に働いて、家族がいてな。妖怪と追いかけっこしてる俺らには別世界だな」
新しい煙草の箱の封を開けると、俺は一本だけ抜き取り逆さにして箱に戻した。
「それ、お願い煙草って言うんですよね」
「そうだな、まあ、癖なんだわ。信じちゃいねーけどよ」
「何をお願いしているんですか?」
「ナイショ」
ホントは何にも願いなんてしてないっての。
別の一本を銜えると、俺は愛用のジッポで火を点けた。

「この旅が終わったら、僕らもあんな風に生きられるでしょうか」
八戒の目は雑踏の人々を追っていた。
「さあな」
俺はわざと素っ気無く言った。奴が何を思い出したのか、感じたからだ。
貧しくとも幸せな、ささやかな生活。二人だけの・・
俺と出会う前の八戒の過去。

「僕ね、次に一緒になるなら『殺しても死ななそうな女性』って心に決めてるんです」
語る奴の顔は笑っているが、それは心からの笑顔ではない。
こいつの顔に張り付いた仮面なのだ。
いつもかむったままだから、それが仮面だと誰もが忘れてしまう。
だが、こういう時はそれが痛い程わかる。八戒にもそう思う俺の気持ちがわかる。
だから途中で仮面を脱ぎ捨てる。
「・・・そんな風に思えるようになったんですよ」
奴はうつむいて、唇をふるわせて、それから何も言わなくなった。

煙草の煙が空に吸い込まれてゆく。
八戒の悲しみもこの賑わいに紛れていくだろう。
しばらく、こうして眺めてでもいるさ。今は・・つかの間の平和な時間だからな。

顔を上げた奴が言った。
「僕の願いも貴方の願いも、かなうと良いですね」
「三蔵なら『自分の願いは自分でかなえるもんだ』とでも言いそうだナ」
「あはは」
八戒は笑った。

いつか本当にお前が笑える日が来るように・・それを俺の願いにしておくか。
次の煙草の封を切る時に、そう願っておく事にするぜ。
夕暮れの街は俺達を残して暮れて行く。明日を生きる人々の為に。




05.11.02
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