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今ここにいる俺とお前に(最遊記・悟浄)


昨日の酒が残ってる・・頭が痛てぇ・・最悪な気分だせ。
おてんとさまは高いし、昼を回ってるな、こりゃ・・

人の気配がない。八戒は出かけているらしい。
アイツと同居するようになって半年か?もっとかもしれない。俺は細かい事は気にしねえんだよ。最初はぎくしゃくしてたが、この頃はお互いのペースがわかってきて、それなりに落ち着いて来た。他人と暮らすってのはどうよ、と思ったけど、案外なんとかなるもんだ。

冷蔵庫から缶ビールを出して、テーブルに座った。
何となくこぎれいになった部屋の中。もとが安アパートだから、まったく綺麗にってわけにはいかないが。アイツに電話機に花模様のカバーをかける性癖がなかっただけありがたいってとこか。本当の家庭ってものを知らないのは一緒だ、二人とも。そんなものの真似事をしない分だけ、俺達は潔いってか。ひがんでんじゃねーよ、別に。

アイツは最近、近くの塾の手伝いをしているらしい。礼儀正しいし人当たりがいいから、近所でも評判が良い。おかげでワルの俺にまで、周囲の扱いが変わってきやがった。俺は変わっちゃいないのにな・・いないはずなのにな。

八戒が帰って来た。
「起きていたんですか?」
「ああ」
「これからおでかけですか?」
「さあな」
珍しい事を聞く。
「じゃあ、今のうちに・・」
八戒は小さな包みを取り出して、俺に差し出した。
「どうぞ」
「ん?何だ?やばいモンか?」
八戒は笑顔を見せた。
「いえ、そんなものではありませんよ。開けてみて下さい」
ジッポのライターだった。
「この前、なくしたって言ってたでしょ?」
「さーんきゅ」
俺はさっそく煙草に火を点けてみた。独特の重みがある、それがいい。
「やっぱり、覚えていないんですね」
「ん?」
八戒と何か約束してたっけ、俺はすぐ忘れるがコイツは絶対忘れないからな。

八戒は飽きれた顔をして、それからいたずらっぽい顔をした。
「悟浄・・」
「だから、なんなのよ」
「お誕生日おめでとうございます」
そうだ・・今日は・・・
「別にめでたくねーよ」
俺は照れたので、わざと素っ気無く言った。
「貴方が生まれて、そして生きていてくれたおかげで、僕はここにいるのですから」
「ぐーぜん、偶然てな」
「たとえ偶然でも、僕は感謝しています・・だから僕は貴方の誕生日を祝いたいんです」
「さんきゅ、これ、大切にするわ」
俺はライターを宙に投げ、受け止めると、にやりとして見せた。
「ちと、散歩してくるわ」

外に出ると風はすでに冬だった。
だが、俺は気にしないで歩いて行った。
街は普段着の顔をしていた。いつもの日常ってやつを人々は生きている。

母さんが泣き止むなら、死んでもいいと思ってた。
母さんに殺されかけたガキの頃の俺・・あれから生き延びてここにいる。
生きて変わるものがあると、あの生臭坊主が言ってたっけ。

俺は変われるのか?もう、ちったぁ変わったのかもしれないな。
少なくとも、夕飯はアイツと食おうと思っている。
ちょっとだけ、普通の生活の真似事をするのも、悪くない。
悪くないと思えるようになった俺が、ここにいる。

ここに・・生きている。




05.11.09
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