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耳をふさいで下さい(最遊記・八戒)


苦しげな声が聞こえました。
隣に寝ている悟浄・・貴方の声でした。赤い髪の生え際が汗で粘りついていますね。浅い眠りの中で貴方は何かをこらえている。また来たのですね、貴方を苦しめるあの影が。目覚めている時の貴方なら、我慢などしないでしょうに。今は眠りに囚われて、いつもの勇気もなくしているのでしょうか。泣くばかりだった子供の頃に帰っているのでしょうか。

貴方のお義母さん・・
悟浄・・愛されない女性はどうも堕ちて行くようですよ。それは人間でも妖怪でも変わらないようです。彼女から逃れる為に、貴方のお父さんと本当のお母さんは、あの世まで行ってしまわなければならなかったのでしょうね。

愛されないのは、自分のせいなのか・・
それをすべて理解するほどに、僕は愛を知りませんが、貴方を今も苦しめる彼女の声を、僕は貴方が聞かなければといいのにと思うのです。僕は両手で貴方の耳をふさいでみました。意味がないとは知りながら。貴方は大きく呼吸をひとつして、目を開けました。赤い瞳・・僕をつなぎとめる物。

なにやってんだ・・貴方の唇がそんな風に動いて、笑ったように端を上げて、貴方は再び目を閉じました。そうして貴方は眠りの奥へ行ってしまいました。

僕らの夜はいつも長くて、いないはずの人の影ばかりがそこここにいるのです。その声が僕らの上で何かをささやき、僕らの夜を重くするのです。月の光さえ僕らには冷たくて。早く朝になればいいのにと思うのに、朝になったら現実の声が僕らを貶めるのです。普通でない僕らはどこにも生きていく場所はない・・

今度は僕を苦しめる影がやって来ました。
愛していたのに、どうして今は僕を苛むのでしょうか・・愛されたはずなのに、愛していたはずなのに・・花喃・・どうか僕をそっとしておいて下さい。君の声を僕に思い出させないで下さい。誰か僕の耳をふさいで下さい。彼女の声は僕の指の間をするりと抜けて、僕の頭の奥まで響いているのです。

眠っている貴方の手を取って、僕の耳にあててみました。だらりと重い手を。すると海鳴りが聞こえました。貝の殻を耳に当てたように。それはいつか見た海の波を呼び起こし、彼女の声は潮騒に流されていきました。安心した僕が貴方の手をそっと下ろす時、僕の唇が貴方の手に触れました。確かに塩辛い海の味がしました。

いつか旅に出ませんか?そうすれば、声も追ってこないかもしれません。それでも又苦しい時が来たら、僕らは潮騒の音を思い出して、その声を聞かないようにしましょう。貴方の手で僕の耳を、僕の手で貴方の耳をふさいで・・・




05.11.12
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