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消せない痛み(最遊記・悟浄&八戒)



僕はいつも妖怪を憎んでいた
妖怪である身で・・

そして妖怪を滅ぼそうとする者たちと
僕は戦おうとしている

僕の中の矛盾・・


「野郎をベッドに運ぶのは、一回だけって言ったろ、くそ!」
そう毒づきながらも、悟浄は八戒の身体をゆっくりとベッドに降ろした。斉天大聖となった悟空と戦ったのだ。それも自らの制御をはずして。身体中がボロボロなはずだ。
「すみません・・」
「もう、あやまんな」
苦しげに息をして、八戒は言った。
「はい」

「水を・・」
悟浄はカップに入れた水を八戒に差し出した。横になったまま受け取ろうとした手から、カップがすべり落ちた。悟浄は黙ってそれを拾い上げた。水差しから水をそれに注ぐと、水を口に含み、八戒の上にかがみ込んだ。唇が重なった。八戒は喉を鳴らして、水を飲み込んだ。
「野郎にキスするのも、これが最初で最後だからな」
八戒はうっすらと笑顔を浮かべた。
「ええ」
そして目を閉じた。

悟空は傍らのソファで丸くなって眠っている。安らかな寝息が聞こえる。
「おーおー、平和な顔しちゃってョ」
悟浄が鼻をつまんでも、ぴくりともしない。それでも命は助かったのだ。それだけが今は救いだ。
「・・三蔵は?」
「戻ってねぇよ、あンの、生臭坊主」
八戒は片手を顔の前にかざし、今はひとつしか見えない目で掌を見た。浮き出ていた蔦の文様は消えている。
「僕は・・妖怪なんですね」
「ん?」
「僕は妖怪なんですね、幾らそれを忘れようとしても・・そしてその力があるから、ここまで生き延びて来られた」
あの戦いの中で、僕は湧き上がる凶暴な思いを感じていた。僕は戦いを楽しみ始めていた。あの時の悟空のように。破壊する喜び、力を振るう快感・・僕は・・
「今は余計な事は考えンなよ、おめぇはな、間違っちゃいねぇンだ。少なくともバカ猿は助かったんだからナ」
悟浄は八戒の心を見透かすように、言った。
「答えの出ねえ事ばかり考えンなョ。今は寝ちまえ、元気になるのが先だ」
宙を彷徨っていた八戒の手が、布団の上にぱたりと落ちた。
「そうですね・・」
悟浄は片手でベッドの柵を掴み、八戒の顔を覗き込んで言った。
「子守唄でも歌ってやろうか?」
「僕も、野郎の子守唄は遠慮したいです」
「はは・・」

ふたつの寝息が重なって聞こえて来た。悟浄は床に座り込み、ひしゃげた煙草に火を付けた。大きく吸い込んで吐き出す。窓を見やると表は暗くなっている。町ではあの後、騒ぎはどうなっているか、少し気になった。だが、今はここで大人しくしているのがいいだろう。三蔵も戻っていない。

(俺は何の役にも立っちゃいねぇ・・)
だが、こいつらはそれを責める事はしないだろう。俺も、誰も失わずに済むならそれでいい、今はな。空き缶に吸殻を投げ入れ、きっと目が覚めたら八戒が叱るだろうなと思いつつ、それを傍らに置いた。いいんだよ、お前はいつも口うるさくて、バカ猿はいつも腹ぺこで、あいつはいつも高慢ちきで・・・そして俺は・・・

部屋の中に聞こえる寝息が、やがて三つになった。
窓の外は暮れ、すべての思いも、夜の中へ沈んでいった。
彼等が次の痛みに出会うまでの、つかのまの休息の時であった。






06.04.18
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