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雪の朝(最遊記・悟浄)


「あ、ごめんなさい」ぶつかったのは若い女だった。
(赤い髪と赤い瞳・・オレと同じ)
だがその目は空ろで、両手は宙をさ迷い何かを探しているようだった。
「あんた・・」
立ち止まって俺の声の方に顔を向けたが、目の焦点は合っていなかった。
彼女は頭を下げて壁伝いに宿の奥に消えた。

「あの、お客様、孫が失礼を」宿の主人が頭を下げた。
「あの子は、生まれつき目が見えないのです。両親が妖怪に殺されたので、引き取って育てています。カンの良い子で出来る限り宿の手伝いをしてくれてます」

あの子は自分の髪が赤いのも瞳が赤いのも知らないんだ。
宿の主人は部屋へ行こうとする俺を呼び止めた。
「もし、旅のお方、失礼とは存じますが、もしや孫と同じ・・」
「あんたはこの色の意味を知っているんだな」
「はい、あの子は妖怪と人間である私の娘との間に生まれた子です」
「それで?」
「同じ境遇の方なら、わかってくださりますでしょう。あの子をどこかに連れて行ってやって下さい。ここも妖怪の被害が出始め、あの子の生い立ちが知られればどういう目に合わされるか」
「おいおい、そんな事をいきなり言われても」
「そうでございますね、申し訳ございません。年寄りの戯言とお思い下さい。失礼致しました」

いきなり連れていけって言われてもなあ・・三蔵が承知する訳ねえし。
ドアをノックする音がした。彼女が立っていた。
「おじいさまが無理を言ってすみませんでした」
「いや、まあ、立ち話もなんだし」
簡単な服装だが清潔で、俺が今まで相手にしてきた女どもとは違ったタイプだった。化粧もしていないが、顔立ちは悪くない。てゆーか、カワイイ。
「私は半分妖怪です・・気味が悪いですか?」
「いや、俺もそうだから」「私と同じ人がいたんですね」「まあな」
寝台に並んで腰掛けていると彼女が俺に触れてきた、
おい、ヤバイ・・いや、ちょっと違うか。彼女は確かめているのだ。
「煙草の匂いがしますね」
頬に触れ、唇に触れてきた。何だか妙な気分になっちまうじゃねーか。
そして俺の胸にもたれて来た。
「俺が狼になったらどうする気だい?」
「私の出来る事・・こういう事しか」
「おい、ちょっ・・」灯りが消えた。
「暗い中でなら、私の目は関係ないから・・」

「なあ」「はい」「こうやって宿で客を取るのが手伝いってやつなのか?」
「・・他に何も出来ないから。でもこれは違います。御礼というか、同じ人に会えてうれしかった」
彼女はひどく淋しい顔をしていた。
「目が見えないのがいいってお客さんもいるの・・私、結構稼ぐのよ」
「あんたにこんな事させて、実のじいさんなんだろ?宿の主人て」
「でも、稼がないといけないから。貴方に無理な頼みをしたのも、私の事を心配して・・」
まあ、世の中、色々あるだろーけどな。
「私と貴方は同じ髪の色をしていると、祖父が言いました。どんな色?」
「ああ、真っ赤といってもわからんかもしれないが、綺麗だよ。髪だけでなく、あんたは綺麗だ」
あーあ・・言っちまった。彼女は又淋しそうに笑っただけだった。

次の日は寒い朝だった。
宿の主人が昨夜から戻らないあの子を心配していた。

街の外はうっすらと雪が積もっていた。
しばらく進むと彼女はそこにいた。
白い雪、広がる真っ赤な血の色・・それは倒れ伏した彼女の髪が、雪の上に広がってそう見えたのだと、そう思おうと・・思おうとして・・だが衣服も赤く染まっていた。

「妖怪と人間てどう違うの?私の世界ではどちらも同じ。姿かたちなんてないから」

自分の髪が血の色だと知らないまま、彼女は逝ってしまった。
閉ざされた瞳の色はもう誰にもわからない。




05.09.19
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