12月30日

ネルハの海

       

すてきなコンセルジェ

 
ネルハでの2日目です。
 まず朝食前にフロントで、今日も連泊できるかどうか訊いてみました。
「はい、大丈夫です。」 これでホテルを移動する必要がなくなり、一安心です。
 この日も雨。せっかくネルハまでやってきたのに、と愚痴をこぼしたい気分になりますが、これは日本人の悪い癖。ゆっくりすてきなホテルで休養するのも、バカンスの大切な過ごし方なのだと思い直し、午前中を部屋で過ごします。
 昼食もまたホテルのレストランへ。ルビアとか言うのがなんだか判らず、訊いたら説明してくれたのですが、やはりよく判りません。でも、「これはおいしいですよ」と言うので、頼んでみました。するとそれはまめの煮込みスープ。これは、実はスペインの食べ物の中で1番苦手な物だったのでした。
 部屋の近くであった女性従業員に、
「この前は海なんでしょう」と訊くと、
「そうです。海とプールと芝生と・・・。絶景ですよ」と教えてくれました。私はカメラを持ち出し、うまく撮れていますようにと心の中で念じながら、適当に方向を定め、2・3枚写真を撮りました。
 シエスタのあと、フロントに電話し、昨日のコンセルジェに、是非海岸に降りてみたいので、エスコートして下さいとお願いしてみました。 少し待っていると、エレベーターの鍵をかしゃかしゃ鳴らして、コンセルジェが迎えにきてくれました。
 このコンセルジェは、昨日遭った時から、何となく惹かれる、いい雰囲気の人でした。普通、第1印象というとやはりルックスでしょうか?私の場合は、声、話し方、そして、身のこなしなどが第1印象になります。そのコンセルジェは、落ち着いた貫録は無いけれど、若々しく、爽やかな雰囲気がすてきでした。 
「貴重品などは持って行かない方がよいですね。万が一盗難に遭うといけないから」エレベーターを降りた海岸がどんな風になっているのか想像も付かない私は、この言葉にちょっとどきっとしました。
「1時間ほどしたらお迎えに行きましょうか?」エレベーターに向かいながら訊ねます。物騒な海岸に1時間もいるなんてとんでもない、と思った私は、20分後に迎えにきてほしいとお願いしました。 レストランの先に小さな搭が立っていて、その中にエレベーターがありました。夕方6時までは自由に登り降りできるようですが、もう6時を回っていたので、鍵が必要だったのでした。
 下へ降りて10数段の階段を下りると、そこは波静かな海岸でした。
「ここから左手に遊歩道が延びています。ここをまっすぐ行けば波打ち際です」
 海岸の様子を説明してくれた後、20分後に迎えに来ると言って、コンセルジェは戻って行きました。
 私はまず、砂浜を数メートル、波打ち際に向かって歩き、波音に耳を傾けました。静かな波音は、優しく心を包み、とても充実した気持ちにさせてくれます。
 そして、スペインをこよなく愛し、マラガに住み、昨年亡くなった日本人の知人の冥福を祈り、手を合わせました。その人の思い出が心にあふれ、目頭が熱くなります。
 それから遊歩道をセレスとゆっくり歩きます。数十メートル先に、なんとバル(スペイン風喫茶店)がありました。なんにも無い、寂しい海岸を想像していたので、ちょっと意外でした。これなら1時間ここにいて、このバルで休んでも良かったな、と思ったのでした。
 遊歩道を戻り、ベンチを捜していると人の気配がします。ちょっと不安になりましたが、
「ベンチはありますか?」と訊ねてみました。すると中年の男性の声が帰ってきます。
「ベンチは無いけど椅子ならあるよ」私に椅子を勧めてくれます。この人は悪い人ではなさそうです。 
その人は小さな子供を連れていました。私達はひとしきり話をしました。
 暫くしてさっきのコンセルジェが迎えにきてくれ、その男の人と2・3言言葉をかわして、またエレベーターで来た道を戻ります。「あの人ね、同僚なんです。今日は休暇を取っているんです」ずっと警戒していた自分がおかしくなり、緊張が一期にほぐれて行きました。
 コンセルジェが言います。「ぼくには目の不自由な親友がいるんです。彼からは多くの事を学びました。今でもときどき会いに行きます」
そんな事も、その人が他の人とちょっと違って、私を惹きつけた理由の一つなのかもしれないと、ふと思いました。 


   
ネルハの町
 

その後、初めてネルハの町に散歩に出かけました。
 パラドールを出る時、だいたいの道順を訊いて、まずは町の中心へ。狭い道に車が多く、また、バイクがやたら走っていて、ちょっと歩きにくい町です。表通りばかり歩いたせいか、生活の匂いがあまり感じられません。そして、スペイン語以外の言語を話す観光客の多い町でもあります。
 途中お土産やさんを捜します。私は、スペイン各地の伝統的な衣裳を身につけた人形を集めているのです。でも、何軒か訪ねた店には、置いてありませんでした。しかたなく、小さなお店で絵はがきとちょっとしたネルハの記念品を買いました。
 それから、「ヨーロッパのバルコニー」と呼ばれている岬の広場を目指します。道行く人に尋ねながら歩いていたら、同じ所へ行くという、アメリカから旅行に来た英語を話すカップルに出合い、エスコートしてもらう事ができました。
 一部工事中の悪路もありましたが、10分ほどで到着。さっきの海岸とは打って変わった激しい波が岩にぶつかっています。ベンチで風にふかれ、波音を聞いていると、引き込まれてしまいそうです。
 そして、近くのバルのテラスで夕食のサンドイッチを食べ、ゆっくりホテルに戻ります。
 明日は朝出発なので、もうネルハの街は歩けないと思うと、ちょっと欲求不満が残りました。

部屋まで送ってくれたさっきのコンセルジェに、別れの挨拶をしました。そして、またこの人に会いに、ネルハを訪ねようと思ったのでした。


        
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