1月2日

優しい人達

    

バエサ
  
次の日は、どんよりとしてはいましたが雨は降っていません。そこで、朝食後、ウベダから10数キロの村、バエサへ出かける事にしました。バエサは、よくウベダとペアーで紹介される村で、グラナダから来た時のバスも、ウベダの一つ手前で停車しました。バスで行こうかとも思いましたが、ここからウベダのバスターミナルと、バエサのバスターミナルから旧市街までの道のりを考えるとちょっとおっくうでしたし、タクシーでも、片道1200ペセタぐらいとの事なので、タクシーで行く事にしました。
 フロントで、まず、次の朝のマドリッド行きのバス時刻を訊きました。9時10分というのが良さそうです。
「朝早いので、切符を買って置いた方が良いですよね」というと、
「私が後で買っておきましょうか?」とコンセルジェが言ってくれたので、お願いする事にしました。
 それから、タクシーを呼んでもらいます。 タクシーはすぐにやってきました。運転手さんは、若くて優しそうな人です。そこで、少し世間話をした後、帰りもお願いできるかどうか聞いてみました。
 「良いですよ。バエサから電話してくれれば、迎えに行くし、バエサで待っていても良いです。その場合、1時間1600ペセタかかりますけどね。」 私はおもいきってお願いしてみました。
「バエサでの待ち時間、私と街を一緒に歩いていただけますか?」 
「良いですよ。私は散歩は好きだし、あなたのお手伝いをできるのは私もうれしいです。」運転手さんは、快く承諾してくれました。
「モニュメントは、どうすれば判るのですか?」私は、触れられる物は触れれば一番よく解るけれど、説明してもらっただけでもイメージがつかめる事、モニュメントを見るより、旧市街の道を歩くのが好きな事などを話ました。
 その後も運転手さんと話が弾みます。運転手さんは、出身はマジョルカだが、親類がみなウベダでタクシーの運転手をしている事、ウベダの郷土料理は、野菜やにんにく・唐辛子などをたっぷり煮込んだ物で、寒い冬に体が温まる事などを話してくれました。
 タクシーは20分ほどでバエサに到着。車を降りると、言い様のない異臭が鼻をつきます。なんの匂いなのか全く思い当たりません。そこで訊いてみると、それはオリーブの匂いだという事です。そう言われて、昨夏アンダルシアを車で走った時、ハエンの辺りで、この辺は見渡す限りオリーブ畑だと、友達が説明してくれたのを思い出しました。

画像:オリーブ畑の山
(ウベダ周辺のオリーブ畑、山のてっぺんまでオリーブです。)
(写真提供:CHELSEA)

旧市街を歩きます。この道は、狭く入り組んでいて、足に感じる石畳は、ウベダの物より繊細です。家の壁に触れると、それは石造りで、小さな出窓がありました。
 私達の足音は、静寂に包まれた狭い道の石造りの家に反響し、歴史の溝を歩いているような気がしました。
 30分ほど歩くと、「もう1カ所、この村に良い場所があるんです」と、運転手さんはまた別の場所へ車を走らせ、一緒に歩きながら街の様子を説明してくれます。
 こうして、私はバエサの街を堪能し、この街が今回の旅で何より心に残る場所となったのでした。
 帰りの車の中で、この運転手さんがアマチュア無線をやっているという話になり、私も暫く無線に夢中になっていたと話します。でも、無線に関するスペイン語の単語を知らないので、なかなか話がかみ合わず、大変残念でした。
 ウベダのパラドールまで送ってもらい、料金を訊くと、待ち時間は30分だった、と言います。実際は1時間くらい歩いているので、その分チップを払おうと、最初に、言われた3000ペセタを払います。それから財布を覗いて、はたと困ってしまいました。小銭はほんとに細かいコインしかないし、お札はぐっと高額の物しか残っていないのです。最初から大きなお札で支払えばよかったと、いつも要領の悪い自分に腹立たしさを感じました。
 でも、運転手さんは、謝りながら渡した小銭のチップを、快く受け取ってくれ、そして、今度また何かあったら電話して下さいと、携帯電話の番号が書かれた名刺をくれました。



    

買い物


それから、昼食を採りに街に出ます。先ほどの運転手さんが教えてくれたレストランへ行ってみる事にしました。
 そのレストランは、簡単に見つかりました。広い店内は落ち着いていて、テーブルにはクロスがかかって、高級な雰囲気が感じられます。
 若いウェートレスがオーダーを取りにきたので、さっき聞いたウベダの郷土料理ときのこの料理、それにデザートを頼みました。
 ウベダの郷土料理は、にんにくや唐辛子、野菜などと、パスタをじっくり煮込んだパスタスープのような物で、カロリーが高く、運転手さんが言っていたように、体が芯から暖まりました。
 料金は2200ペセタと、思ったより安くて驚きました。
 ウェートレスの感じがとてもよかったので、テーブルに1割程度のチップを置いて席を立ちます。これまで、レストランではチップを意識した事が無かったので、これが始めてでした。
 そのウェートレスはドアの外まで送ってくれ、丁寧にパラドールまでの道を説明してくれました。
 私達は勇んで歩き出します。ところが、ウェートレスに教えられた通り歩いたつもりなのですが、どこでどう間違ったのか、歩いても歩いても帰り着きません。こんな風に街を歩くのも良いものだ、と最初は楽しんでいましたが、そのうちに雨も降りだし、人通りも無くなり、さすがにあせりを感じてきます。セレスも心細そうに何度も私の膝を鼻でつつきます。それで来た道を戻り、人とすれ違うごとに道を訊き、やっとの事で、ホテルにたどり着いたのでした。
 部屋に戻る途中、長い廊下で道を間違えて、掃除をしていた女性従業員が部屋まで送ってくれました。
「また雨が降り出しましたね。夕方買い物に行こうと思っていたのに、悲しいわ。」そんな挨拶をすると、「買い物、誰と行くの?」と訊きます。
「この盲導犬とです」
「そう・・・、私は5時半で仕事が終わるから、その後でよかったら一緒に散歩に行っても良いですよ。そうしたら、あなた、悲しくないでしょう?」
 こんな事を言ってくれるとは思ってもいなかったので、胸がいっぱいになりました。
 そのカルメンという女性従業員は、6時に部屋まで迎えに来ると言って、仕事に戻って行きました。

セレスの、どろどろになった洋服を脱がせ、ひと休みします。
 それから、セレスにレインコートを着せ、私も身支度を整えて待っていると、6時ちょっと前、カルメンが迎えにきました。
 雨は相変わらず降り続いています。カルメンの指す大きな傘で、私達は街へ繰り出します。最初、同僚の女性が一緒でしたが、途中で別れました。
 街はこんな雨にも係わらず、歩道から人があふれています。「みな、レイジェス・マーゴス(1月6日の3賢人の日。この日子供達はプレゼントをもらえます)のプレゼントを買いに出ているのでしょう」カルメンは、私の足元に気遣いながら歩いてくれます。
 ここでも、伝統的な衣裳を身につけた人形を捜しましたが、何軒か立ち寄った土産店には、置いていませんでした。
 カルメンは、同居している父親が車椅子生活をしている事、この街は車椅子での移動が非常に大変な事、二人の子供がいて、レージェス・マーゴスのプレゼントに、女の子には洋服、男の子にはおもちゃを沢山準備した事などいろいろ話してくれました。そして、お店を覗いたりモニュメントの建物を見たりして、1時間ほど散歩し、パラドールの近くの陶器の店で、ウベダ特産の、きれいなすかし模様の入ったお皿を買って、カルメンにホテルまで送ってもらいました。
 それから、パラドールのバルで軽く夕食を済ませ、荷物の整理をして、優しいウベダの人たちを思い出しながら早めに休みました。        



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