ママは、福祉指導の仕事をしています。この春転勤になって、今は、障害を持つ方やボランティアの皆さんが会合やサークル活動を行う会館で働いています。
趣味は、旅行・ウィンドショッピング・コーラス、たまにギターを弾いています。
スポーツはあまりやらないけど、スキー、タンデム(二人乗り自転車)が好きみたい。
ママは子供のころからの目の病気で視力は次第に落ち、中学生になったころにはもう殆ど全盲になっていました。そしてこのころ白い杖で独り歩きするようになり、始めは学校の往復だけでしたが次第にその行動半径を広げ、大学に進むころには杖1本で何処へでも自由に出かけていました。
でも独りで歩く時の緊張と神経の疲れは言い表せないほどでした。駅の近くなどで放置自転車の脇をぬうように歩く時は、神経がくたくたになりましたし、舗道のない道路や、駅のホームは命がけでした。ホームでは万が一落ちたら・・・ などと思うと、膝が震えて足が前に出ないこともあったそうです。そして、お仕事が終り軽やかに自転車で帰って行く人達を見送りながら、「せめて気楽に歩けたら・・・」という思いが募ってゆきました。
ですから盲導犬の使用については何時も頭の隅にあったようですが、長い間杖1本で歩いてきたママにはなかなか決心がつきませんでした。
ところが’91年春、これまで一人暮らししていた駅に近いアパートから、駅から大変不便な自宅へ戻ることになり、これらの歩行上の悩みは切実なものになりました。
それに、2年ほど前にスペインを旅行してからすっかりスペインびいきになってしまい、いつか語学留学したいという思いがつのっていきました。
そんな事が重なって、アイメイトを使用する決心がつき、引っ越しと同時に福祉事務所に申請し、そして、ラッキーなことに1ヶ月と少しで入所の通知をいただいたのです。
でも嬉しさと同時に不安でいっぱいだったそうです。それはそうですよね。永年頼りきっていた杖を手放し「犬」に身をゆだねるのですから・・・。ママは「とにかく2年間は、何があっても頑張ろう」と決意し、お父さんの墓石に、その決意を告げたのでした。
’91年6月14日、ママは練馬区関町にあるアイメイト協会に入所しました。 協会に到着すると、早速白杖を指導の先生に預け、その時から、アイメイト使用のための合宿訓練が始まったのです。
同期生は四人、ママ以外は中途失明の(成人してから失明した)人で、また都外(鹿児島・岡山・埼玉)から来ていました。この四人に対して、対象になる犬6頭の中から、先生が1日目に使用者の性格や動きをよく観察し、各使用者に最も相性のよい犬をパートナーとして選んでくださったのです。
そして次の日、指導の先生が私を広い部屋に連れて入った時「セレス」と呼んで抱きとめてくれたのが今のママでした。ママは興奮して私をひしと抱きしめるし、私は嬉しくてピョンピョン跳び付くしで、二人とも先生に叱られてしまいました。
いよいよママとの共同訓練が始まりました。
** それからの1ヶ月は使用者はアイメイトを使いこなすため、またアイメイトはそれぞれの使用者に慣れるための訓練となります。
歩行の訓練としては始めは歩きやすい歩道から、信号の見分け方、歩道橋、人車道の区別のない道路と進み、電車・バス・車・エスカレーター・エレベーターと、生活に密着した訓練が続きます。
犬は色盲なので信号を見分けることはできません。従って、使用者が車の流れや人の動きを聞いて、信号を判断しなければならないのです。
「日常的な世話」としては、ブラシのかけ方、シャンプー、薬の与え方、歯磨き、排便・・また夕食後には盲導犬の歴史・犬の病気などの講義、と自宅に戻っても全てを使用者自身ができるように、盛り沢山のプログラムが朝6時から夜10時までビッシリ組まれています。
アイメイトの排泄ですが、まず使用者は自分のアイメイトの生理的特性をよく知っていなければなりませんし、ある程度時間的に習慣づけることも必要です。そして排泄をさせる時は、使用者が引き綱を持って立ち「ワンツー ワンツー」と声をかけながら、アイメイトに使用者の周りを回らせます。アイメイトはこの動きと掛け声により、便意をもよおすのです。アイメイトが止まった所で、使用者はそっとその背中にふれ、背中に丸みがあるかどうかで排尿(「ワン」)か排便(「ツー」)かを判断し、「ツー」ならば、ビニール袋に取り始末します。この時、便の状態である程度の健康チェックもできるのです。**
この4週間の訓練の中でママにとって何より難しかったことは、「ほめ方 叱り方」でした。私達犬は子供と同じ、ほめられれば一生懸命にやる気になるし、悪いことは的確に叱られないといつまでたっても成長しないのです。けれどこの「ほめ方 叱り方」のタイミングがなかなか身に付かないようで、特にママのそれは実にぎこちないものでした。
そして1ヶ月後の7月12日、暖かく厳しい先生方のご指導のお蔭で、劣等生だったママも他の三人の同期生と一緒に無事卒業、私はママのアイメイトとなり、二人でママのお母さんの待つ家に帰りました。
**盲導犬とは、国家公安委員会が承認した盲導犬訓練施設で規定の訓練を受けた犬がハーネス(胴輪)を付け、同施設で共に訓練を受けた視覚障害者を誘導する時「盲導犬」として認められるのです。
日本には現在このような訓練施設が8ヶ所あり、実動している盲導犬の数は800頭余りといわれています。
日本で第1号の盲導犬が現アイメイト協会から誕生した頃(昭和32(1957)年)には、列車では貨物扱い、その他の乗り物には乗車さえ認められていませんでしたが、昭和53(1978)年道路交通法に盲導犬が明記されたのをきっかけに、列車・バス・飛行機と次々に乗れるようになりました。
また昭和56(1981)年、厚生省から喫茶店・レストラン・旅館などに盲導犬使用者の受け入れに関する指導が行われ、入店を認める所が少しずつ増えてきています。
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