5 これからも二人で

 
   

雨の日も雪の日も

 

協会を卒業して一ヶ月、通勤に少しなれてきた8月の末、終業のチャイムが鳴り、嬉しくて尻尾をビュンビュン振りながらママと外へ出るともの凄い夕立ちでした。私は一瞬たじろぎ大きくため息をつきましたが、直ぐにゆっくりと歩き出しました。レインコートを着ていても頭はびしょ濡れ、それに車のハネが全身にかかりました。
 またある時、ママがバス路線を間違えて、1時間以上も土砂降り雨の中を歩く羽目になった事がありました。ママはだんだん無口になり、元気がなくなってしまったので、私は鼻をママの膝に付けて、ときどき励ましながら歩きました。目的地に着いた時にはうれしくて、大変だった事などすっかり忘れてしまいました。
 大雪にも何度かあいました。雪が降るとあたりの景色はすっかり変わってしまうし、いつもは助けになる匂いも消えているし、狭い道路は両脇にかいた雪が山となりますます狭く、何処を歩けばママを安全に導けるのか途方にくれ、数歩進んでは立ち止まりキョロキョロする有様です。それに新雪だと、私は足がすっかり埋まってしまうので、歩くのが大変です。
 こんな時、私は自分がペットでなく「盲導犬」であること、そしてその使命の重さを痛感します。
 でも私は今とても幸せです。だって、いつもママと一緒にいられ、ママに喜んでもらえる仕事ができるのですもの。

    

若葉マークの頃

 

こうして私とママの生活はもう7年を過ぎましたが、実は始めの三ヶ月ほどはいろいろ大変でした。最初からテレビに出てくる大ベテランの盲導犬をイメージしていたママは、まだ幼く落ち着きのない私に大変驚き、戸惑いました。
 いまでは笑い話ですが、終点の駅で降りた電車にまた乗ろうとしたり、バスでママが座席に座っても、私はなかなかスィットしなかったり、目的地に着くとうれしくて飛び跳ねたり、そしてママが、訓練のためきつく叱ると、周囲の人から「恐い人だね」と言われてしまうのでした。
 協会での訓練は「学校での勉強」のようなもので、それを実生活の中で実行するには、二人で多くの失敗と経験を重ねてゆかなければならなかったのです。 そんな中で、「やはり杖で歩いた方が良かったのでは・・・?」という後悔の念がふとママの心をかすめることもありました。けれど「2年間は・・・」と誓ったのだし、もう私が可愛いくて可愛いくて手放すことなどできないしで、つまずくと協会の先生に力になっていただきながら歩いてきました。
 そして今では、私もすっかり落ち着いたし、ママも私の扱い方にかなりなれたし、それに何より、互いに心が通じあうようになり、いまでは「アイメイトを使用して良かった。」とママは日々心から思うのだそうです。

    

私達の夢

 

ママは私と出会う2年ほど前からスペインに強い関心を持っていました。そして、私と一緒に、スペインのお友達の所に遊びに行ったり、ホームステイして語学学校へ短期留学したりしていましたが、それでは物足りず、ここ何年かは、スペインの自由旅行を楽しんでいます。
 そして、ママは、いつかスペインで暮らす事を夢みています。ママの夢が実現した時は、もちろん私も一緒にスペインで生活することになるので、また二人でたくさんの新しい経験ができると今から楽しみにしています。


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