−日記帳(N0.1268)2005年05月31日− −日記帳(N0.1269)2005年06月01日−
生魚と刺身、魚と肴に思う
鰹は一本釣りの生に限る


日本は四方を海に囲まれ、縄文時代から魚を釣って食べる習慣を持っていたことから、漁業生産高で世界3位、魚介類の一人当たり年間消費量で2位、世界の水産物貿易量は2,116万トン、569億ドル(1996年)のうち、日本は数量で16%、金額で30%を占める世界第1位の輸入大国でまさにさかな大国です。そして、世界広しと言えども、魚を生で食べる食習慣を持つ国は日本だけと私は思っております。

欧米諸国は勿論のこと、中国、韓国、台湾、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムなどのアジアの諸国にも魚を生で食べる食習慣は基本的には有りません。以前、仕事で、中国、韓国、米国、ドイツから来られたお客様に日本食で接待したことが有りました。その折に、鮪、ひらめなどの刺身を出したのですが、それが生の魚と知るとどんなに勧めても口にしようとしませんでした。今思うと、私が、刺身のことを「raw fish」と訳したのにも原因が有ったように思います。

それは、熊が採った魚をそのまま頭から食べるシーンを連想するからだと思われるので、「processed raw fish」と訳したら、案外口にしたかも知れません。何故なら、生の魚なんて絶対に食べないという欧米の人たちが、回転寿司で美味しそうに鮪、鯛、鰤などの生魚のネタを食べるからです。まさに、生魚のネタは「processed raw fish」なんだと思います。

彼等が生魚を食べないのは、魚臭い、気持ち悪いという感触以外に非衛生的という面が有ると思います。しかし、日本では醤油に刺身を漬け、山葵や生姜を添えることで、臭い消しと殺菌をすることで、更には世界でも珍しい調理師免許制度により生魚による食中毒を防止するしくみを作ってこの問題を解決しております。大げさに言うならば、生魚を食べる食習慣を定着させるにはこのような国としてのシステム作りが必要と思われます。

日本でも、回転寿司では鮪や鯛を喜んで食べる子供たちや若い女性たちに、鮪の刺身や鯛の刺身だけを勧めると、2、3回は口にしますがそれ以上は進まない場合が多いように思われます。これは、元々刺身はご飯のおかずと言うよりも、酒の肴として食べられる場合が多いからだと思うのです。お酒を召し上がらない人達にとっては、刺身は寿司とか、刺身定食などのようにご飯と一緒に食べる方を選ぶのは当然のことのように思われます。

このことは、肴や魚の語源からも言えるように思います。魚に限らず肉や野菜などを総称する言葉として、酒菜(サカナ)という言葉が有りました。魚の干物などの魚介類がその代表的なもので、酒を美味しく飲むにはこのうちの動物性の魚や鳥獣類の料理がいいとして、これを真菜(マナ:真の酒菜の略語)、植物性の酒菜を蔬菜(粗略な食品)と呼んで区別しました。そこで、真菜を料理するのに用いた板をマナイタと呼び、漢字は肉を意味する偏に、台を示す且をつけて爼とし爼板と書いております。そして、料理した食品は肉(月)の上に烹るという意味のメナをつけて肴の字を用いるようになったと言われております。そして、肴に対しウオとも訓む魚の字は、魚の頭と胴体と尾を描いた象形文字でと考えられております。

このように、酒菜→真菜→肴→魚 の変遷をみれば判るように、魚は酒の文化からきていることがよく判ります。「一魚一肴( イチギョイッコウ )」と言う言葉が有りますが、これは食材として魚を料理して酒の肴うをつくるという意味です。ウオ(魚)は魚類の総称であり、ギョ(魚)またはサカナ(魚)は食べられる魚類を表すようになっております。日本料理の主役でもある魚料理がこのようにお酒の文化と深い繋がりを持っていることに改めて興味を抱きました。私はお酒を飲めて本当によかったと思っております。


魚の刺身の味はその漁獲法(一本釣りとそれ以外の網・延縄等)と保存法(冷蔵と冷凍)で決まります。一本釣りは鰹、鯛、鯖(関鯖など)などで行われており、釣り上げた魚をその場で締める(殺して血抜きすること)かイケスで生かしておくことが出来ますので鮮度がよく美味しく頂くことが出来ます。特に、締めた場合は最高です。網や延縄で漁獲した魚は船上に引き上げるまでに時間がかかりその間に死んでしまう場合が多いので味と鮮度が落ちてしまいます。その理由は、針や網に引っかかってもがき苦しむ間に体内に疲労物質の乳酸などが生成するためです。

冷蔵保存は近海魚の場合に行い、冷凍による魚肉の組織破壊が無いことから「冷凍魚」より味が優れるため「生魚」として市場で高値で取引されます。「冷凍魚」の味が落ちる理由は、水の密度が摂氏4度で最高になるため水が摂氏4度以下になると膨張し、凍ると大きな結晶を生成するため更に膨張することに起因しております。例えば、コーラやビールを瓶ごと冷凍室に入れておくと瓶ごと割れることが有るのはこの膨張圧が原因です。同じ理由で魚を凍らすとこの膨張圧で魚肉の組織が破壊されて味が落ちてしまうわけです。

ところが、このような組織の破壊を最小限に抑える方法が最近開発されました。液体冷媒(ブライン)や摂氏マイナス196度の液体窒素に浸漬することで殆ど瞬時に凍結させる急速冷凍法がそれです。一気に凍らせることで微細な結晶を生成させることで膨張を最小限に留めることで組織の破壊を防いでいるわけです。しかし、解凍のしかたを誤ると、この急速冷凍の効果が発揮されません。 冷蔵庫内で数時間かけて解凍するのが最適ですが、急ぐ場合は流水したり室温に放置すればいいと思います。以上のことから美味しい刺身の目安は次のようになります。

1位:1本釣り+冷蔵
2位:1本釣り+冷凍
3位: 網など +冷蔵
4位: 網など +冷凍

ここで、1位と4位は不動ですが、2位と3位は魚の種類や漁獲後の処置のしかたによっては入れ替わることも当然有り得ます。またここでは、全て天然品を対象にしておりますが、養殖品の場合は、天然、養殖の影響が大きいため上記の目安は殆ど意味をなさなくなるのは言うまでもありません。やはり、魚は鰹に限らず、1本釣りの生に限りますね。


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