有元利夫

 

 私が始めて買った画集は有元利夫さんの画集です。画集なんて滅多に買わない私・・・足を運んだ展示会の図録を除いたら、画集とよべる本は、私の本棚には20冊程しか並んでいません。そんな私が始めて買った画集が有元さんのもの・・・。初めて有元さんの絵を目にしたとき「欲しぃー」と思って迷わずレジにむかったことなど、不思議なぐらいよく覚えています。高校3年の頃・・・古本屋さんや、専門書を扱っている本屋さんを回ることの楽しさを覚えて、週末には神田辺りをうろうろすることもおおくなりました。買うため・・・というよりもいろんな本を見ることがとても楽しかったし、なんとなく大人の遊びっぽくて、いいなぁーと思っていたのかも・・・。この本も神田の本屋街にある美術書専門の古びた本屋さんで見つけました。描かれている不思議な世界、暖かな色、とっても気に入って、買った後かなり長いこと、枕元に置いて、毎晩飽きずに眺めたものです。

 数年後、京都のテキスタイルの専門学校に通っていた時のことです。私が通っていたテキスタイルスクールは、おもしろいカリキュラムで、日本画なんて授業もありました。もともと絵を描くのも、下手の横好きで好きだった私。初めての少し?!本格的な絵の授業はとても楽しかったです。そんな日本画の授業の中で、模写をする機会がありました。どの絵を模写するか、いろいろと迷い、京都の本屋さんで新しい本をパラパラとめくったりもしましたが、結局、有元さんの絵を模写することしました。初めて使う画材・・・金箔なんかを貼ることも初めてだったのでとても楽しい時間でした。有元さんの絵をじーっと見ていると、「静けさ」が私の中に染み渡ってきて、それまで経験したことのない気持ちを感じました。模写といってもそんな本格的なものではないから、ちょっと大袈裟かもしれないけれど、一対一でこんなに長い時間をかけて一枚の絵に向き合ったのは、初めての体験でしたが、その時間は私にとってわすれられないなんとも心地よい時間の1つになったのです。

 そんなこともあって、いつも本棚の特等席に置かれている有元利夫の画集・・・頻繁にではないけれど、時折手にしています。・・・でも本物の有元さんの絵を見る機会は今までなかったのです。その機会がやっと訪れました。盛岡で有元利夫展が開催されたのです。初日にはパートナーの容子さんの講演会もあるとのこと・・・随筆などにもよく登場する容子さんのお話も聞きたかったし、とっても楽しみに出かけました。絵はやっぱりとっても素敵でした。1度ゆっくり時間をかけて鑑賞した後、名残惜しくて、もう一度回りました。随筆に書かれていた有元利夫さんの描くことへのこだわりが、本物を目にして、「こういうことか・・・」と私なりにも納得されたり・・・。本当に嬉しかったです。容子さんのお話からは、夢想家風の有元さんのイメージからは「えーっ」と思うようなエピソードも聞けて、ちょっとクスクスしながら、普段着の有元さんの姿が思い浮かんで楽しい時間でした。初めて絵に出会ったのは16年前・・・そうしてやっと出会えた本物はやっぱりとても素敵でした。

 今は部屋に小さなカードを飾っています。その絵のまわりには独特の空気がフワァーッと漂っていて、その前を通る時はふっと優しい気持ちになります。早くに亡くなってしまった有元さんですが、その絵を通して、優しい時間をプレゼントされています。

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