バックアップ

Back-Up
Written by Keith Pelletier

カリフォルニアのハイウェイに朝の光が降り注いで、また騒々しい一日が始まった。路肩には、朝の通勤の様子を監視している警官の、ジョン・ベイカーとフランク・パンチョレロがいた。パンチが夕べのデートの詳細を語って楽しませてくれている間、ジョンはバイクを忙しく拭いていた。

「ああ、お前もいるべきだったよ」
パンチが言った。
「お前がスターナーの双子とのデートを断ったなんて、未だに信じられないよ!」
「パンチ」
ジョンが答えた。
「今週は毎晩のように出かけてたんだ。寝不足を解消しなきゃならなかったのさ」
「なぁ、俺くらい若くて、体力があった頃はそんなに睡眠時間なんて要らなかっただろう」
パンチが魅力的な笑顔を輝かせた。
「ああ、お前ときたら、指令会議中で睡眠時間を間に合わせちまうからな」
ジョンが笑った。
「眠ってなんかいないさ」
パンチが言い張った。
「だいたいさぁ、いつ、部長が水鉄砲を手にしたって?」
ジョンがまさに答えようとしたとき、無線がそれをさえぎった。
「市民から男が道端に倒れているとの通報がありました。場所はI-110、北方向車線、ウエスト・フローレンスアベニューのすぐ南です。付近にいるユニットで対応できるユニットは応答願います」
ジョンが雑巾をしまうのと同時に、パンチが応答をした。
「本部へ、こちらメリー7、3号4号。推定到着時刻は5分後です」
「了解、メリー7、3号4号。消防車と救急車も向かっています」

警官のバリー・バリクザー、仲間内では『ベア』で知られているが、彼もこの通信を受けた。
「こちらアダム7、メリー7、3号4号の応援に向かいます」
「了解、アダム7」
司令センターが答えた。

***

ジョンとパンチは現状に向かってライトを点滅させながら向かった。パンチは相棒の方を見た。
「その男は病気か何かなんだろうか?」
パンチはバイクの音越しに叫んだ。
「すぐにわかるさ。あそこにいるぞ」
ジョンが答えた。

ジョンとパンチが現場につくと、男は道路の端のガードレールに腰を下ろしていた。その男は身の回りをきちんと気をつけていないような風情だった。泥と垢で顔と手が汚れていて、肌の色を暗く見せていたし、長く伸びた茶色の髪の毛は、泥と脂にまみれていた。着ている物も、泥と垢で汚れていて、あちこち擦り切れたり、裂けたりしている。片方の袖が二の腕まで捲り上げられていた。

ジョンとパンチは用心深く近寄っていった。二人とも、この男の目つきが酔ったようにどんよりとしていて、一点をじっと見つめているのに気がついていた。男の瞳孔は固定されて、収縮していた。また、男の剥き出しになっている腕に、注射針の跡の様なものが並んでいることにも気がついていた。男は口をわずかに開いて、息を荒くしていた。
パンチはジョンの方を見た。
「あいつ、どうなってると思う?」
パンチが訊いた。
「良くは判らないけど、まともには見えないな。司令センターに現状を報告してくれ、俺はあの男のところにいるから」
パンチがバイクのところに戻ったときに、ちょうどバリクザーが現状に車を寄せた。
「やぁ、バリクザー、ジョンの方を手伝って、あの男の様子を見ていてくれ」
パンチが声をかけた。
「わかった」
バリクザーはそう答えると、ジョンの方へと向かった。
「こちら、メリー74号。レスキュー隊へ連絡を願います。こちらで保護した男性は意識はありますが、反応はありません。おそらく、麻薬か何かをやっているようです」
パンチがマイクに向かって言った。
バリクザーはジョンに近づいた。
「何か生命反応はあるのか?」
バリクザーが尋ねた。
「俺達がここに来てからは無い」
ジョンはそう答えて、男の方へ振り返った。
「おい、聞こえるか?」
男はジョンの方を見ると、そう状態のような叫び声を上げて警官の方へ向かって突っ込んで来た。ジョンが攻撃をかわすと、男は勢いあまって地面に強くぶつかった。ジョンはすぐさま、手錠を掛けるのに男の片腕をつかんで、体の上に覆い被さった。男はまだ力が溢れ出しているようで、ジョンをほぼ1メートル近く突き飛ばした。ジョンはすばやく、もう一度組み付いて、男の手をしっかりとつかみ直した。バリクザーが近づいて、男を背後から羽交い絞めにして押さえ込もうとした。ジョンの状況を見たところ、そうした方がよさそうだった。バリクザーがその行動を実行に移したとたん、左腕を噛みつかれた。
「こいつめ!」
バリクザーが叫んだ。同時に男の髪をつかんだが、おそらく、ちょっときつく引っ張ったようだ。
「バリクザー、だいじょうぶか?」
ジョンがかなり心配そうな声で訊いた。
「こいつ、噛みついたんだ。血が出たよ!」
バリクザーが腕の二つの傷から流れる血を見て、大きな声で訴えた。
パンチがバリクザーの叫び声を聞いて駆けつけてきた。パンチは男をおとなしくさせて、バリクザーのパトカーの後部座席に押し込むのを手伝った。そうこうしているところに、サイレンが聞こえて、救急車とレスキュー車が到着した。
「もっと応援が必要だって連絡したんだ」
パンチが言った。
「大変そうだったから。バリクザー、大丈夫なのか?」
「ああ」
バリクザーはそう答えたが、男との格闘ですっかり疲れきっていた。
「あいつ、俺に牙をたてたんだ。でも、どうやら死なないで済むらしいよ」
「これ以上の応援は必要ないって連絡してよさそうだな」
パンチはそう言うと、パトカーの前の座席に乗り込んだ。
救急隊員たちがパトカーに近づいてきて、一人が訊いた。
「なんだったんだ?」
「通報のあった男性はパトカーの中にいる。我々が到着したときには、ほとんど放心状態だったんだが、突然、狂ったようになったんだ。バリクザーを襲って、腕に噛みついた。それで、手錠して押し込めなければならなかったんだ。怪我はしていない」
ジョンが報告した。
「信じられないような力だったんだ。手錠だってあっという間に引き裂くんじゃないかと思ったよ」
「エンゼルダストみたいだな」
救急隊員が言った。
「中央収容所に連れて行って、検査を受けさせたいんだが、連れて行ってもいいかい?」
「警官に対する暴行行為で逮捕しているので、こちらから誰かがついて行かなければならないが」
ジョンが言った。
ギトレア部長がバイクを寄せて停めて、尋ねた。
「何があったんだ?」
「奴がらりって、襲ってきたんです。格闘している間にバリクザーが噛みつかれたんです。パトカーに入れておいたんですが、救急隊が奴を中央収容所に連れて行きたいって」
パンチが部長に状況を説明した。
「わかった、バリクザー、そいつと一緒に救急車に乗っていって、ついでに腕も見てもらって来い。パンチ、お前はバリクザーのパトカーを病院まで持っていけ。ジョン、二人が戻ってくるまで、ここでパンチのバイクの監視と報告書に必要な情報を収集しておくように」
ギトレアは言った。

***

数週間が経ち、良くありがちな事件だったあの日の事はほとんど忘れ去られていた。唯一の名残だったバリクザーの腕の小さな傷も、時間の経過と共に、あっけなく消えていった。病院が例の救急患者の容疑者について幾つかの事を確認した。男はあの日、あれ時より前に麻薬を打っていて、完全に薬の影響下にあったのだ。もし、病院に担ぎ込まれていなかったら、医者が言うには、数時間、あるいは数分のうちにも心臓が停止していたかもしれない。
午前中の指令会議が終わって、これから勤務時間になる連中がそれぞれの受け持ち区域へと向かって行くさなか、ギトレアはバリクザーとジョンに合図をした。
「二人とも、私の部屋にちょっと来てくれんか?」
ギトレアが言った。
「判りました」
バリクザーとジョンは同時に答えた。
二人が部屋に入っていくと、ギトレアはドアを閉めた。
「実は、あまりいい話ではないんだ。バリクザー、2,3週間前にハイウェイで君の事を襲った男の事を覚えているか?」
バリクザーは自分の腕を見た。
「ええ、その一件については、かすかな記憶ならありますよ」
半分冗談のように答えた。
「どうかしたんですか?」
ギトレアが深くため息をついた。
「あの男が矯正施設から病院に送り戻されて判明したことなんだがな。医者が気がついたそうなんだ、男の皮膚と目が、あ……その……黄色味がかっているって事に」
バリクザーが驚いた表情をした。
「まさか……」
「残念だがそう言う事だ」
ギトレアが静かに言った。
「肝炎の陽性反応が出た。と言う事は、君は直接、感染の危険にさらされた事になる、噛みつかれたのだからな。病院で君の血液を調べたいそうだ」
バリクザーはしばらくの間、この状況を何とか理解しようとした。
「肝炎って命に関わる病気ですか?」
やっとのことで、そう訊いた。
「病院が言うには、君が感染していない事の方が確率はかなり高いそうだ」
ギトレアが答えた。
「だが、血液検査をして確認したいと言う事だ。それから、致命的な症状を示すのは、患者の一割にも満たないし、発見が遅れた場合だそうだ」
バリクザーは声も無く、ギトレアの部屋で座り込んだ。
ギトレアはジョンの方へ振り返った。
「ジョン、バリクザーを病院に連れて行ってくれ。パンチには君達二人が戻るまで、アーティとパトロールに出るようにさせておくから」
ジョンはバリクザーの肩に軽く手をかけた。
「さぁ、バリクザー。済ませてしまおうよ」
バリクザーは感覚が無いような鈍い様子で椅子から立ち上がると、ジョンと一緒にパトカーへと向かって行った。ギトレアは席につくと、長いため息を吐き出した。

***

その日の残りの時間をバリクザーは、ぼぉっとしたまま過ごした。ソーダ―をチビチビと飲みながらバーの隅の席に座っていた―――病院でテストの結果が出るまではアルコールは避けるようにとアドバイスされていた。しかも、結果が出るのは明日になってからだ。バリクザーは病院で受けた説明を思い出した。風邪のような症状に気をつけること、吐き気や、嘔吐、原因不明の発熱にも。黄疸は信頼できる判断材料ではない、何故なら、黄疸はウイルスにすっかり感染してしまってから現れる症状だからだ。そんな説明を受けていた。
バリクザーは独り言をつぶやいた。
「一体全体、何でこんな事になっちまったんだ」
背後からジョンの声がした。
「たぶん、俺が一人であの囚人を扱いきれなかったからさ」
バリクザーが目を上げた。
「ジョン、噛みつかれたのは君のせいじゃない。もっと気をつけて見ているべきだったんだ。君なら大丈夫だって思い込んでいたから、それで、その後……」
ジョンが途中で割って入った。
「バリクザー、誰が噛まれたのかは問題じゃないと思うんだ。俺だったかも知れないし、パンチだったかもしれないんだ。もっと悪くすれば、奴が俺よりも力が勝っていて、俺の銃を奪って、見えるものすべてに発砲していたかもしれない。君は訓練通りにしたんだ、みんなだってそうするさ。今回は、何かが間違ってしまったんだ」
バリクザーがジョンを見上げた。
「そうだな。どうも検査の結果を心配しすぎているらしいよ。もし、陽性と出たら、俺、どうなるんだろう」
「こういうケースで感染するのはほとんど無いんだ」
ジョンが答えた。
「医者が言ったのを聞いただろう。こういう形で肝炎が移ることはまれだって、ほとんどは血液で移る病気だって」
バリクザーは少しだけ気分が楽になった。
「話してくれてありがとう、ジョン。きちんと聞いてなかったらしいよ。代わりに聞いておいてくれてありがとう」
ジョンが微笑んだ。
「どういたしまして。ビリヤードするかい?」
バリクザーが席から立ち上がった。
「いいとも」

***

「よし、出動だ」
ギトレアが指令会議の終わりに言った。
「バリクザー、ちょっと待て」
他の勤務につく警官達が列をなして会議室を出て行く中、バリクザーは壇に上がった。
「部長、なんです?」
「外に行く前に、電話をかけていけ。私の部屋のを使っていいから」
ギトレアは、バリクザーが部屋に入って病院の検査室に電話をかけている間、部屋の外で待っていた。バリクザーが神経質になっているのは判っていた。指令会議の間も落ち着いて座っている事が出来ずに、検査結果を聞くことのできる魔法の時間がやってくるのを待って、時計を気にしてばかりいたのだ。ギトレアは窓越しに、時折こっそりと様子をうかがった。こんな風にこそこそ覗いているなんて思われるのはいやだったが、心底心配していたのだ。
ギトレアはもう一度窓越しに見た。バリクザーがほっとした、喜びの表情を満面に広げて、電話を切るのが見えた。少し間を置いて、ギトレアが部屋の中に入っていった。
「いい知らせか?」
ギトレアが尋ねた。
「陰性です。検査結果は陰性だったんです」
バリクザーが答えた。
ギトレアはバリクザーの肩をポンと軽く叩いた。
「そうだろうっと思っていたよ、だが、君から聞けてよかったよ。よし、パトロールに行ってこい。それと、気をつけてくれよ、判ったな?」
バリクザーは微笑むと、部屋から出て行った。ギトレアが席につくと同時に、かなりはっきりと喜びの雄叫びが廊下の方から聞こえてきた。
「まったく」
ギトレアは独り言を言うと、書類の整理に戻った。

― 完 ―

"Back-up" c1998 Keith Pelletier. "CHiPs" and its characters cMetro Goldwyn-Mayer, Inc.All rights reserved. No infringement of any copyrights or trademarks is intended or should be inferred. This is a work of fiction, and any similarity to actual persons or events is purely coincidental.
本作品は、2000年10月にKeith Pelletierより許可を受けて翻訳したものです。日本語文の権利は当サイト管理人のもんたに有ります。
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もんたのあとがき

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