ついてない日

Just A Bad Day
Written by Katy Sundberg

老婦人が、タンジーの暗いダークブルーの65年式ムスタングの前で急ハンドルを切った。タンジーが68年式ビュイックとの衝突を避ける術など無かった。

**********

ジョン・ベイカーとフランク・パンチョレロがこの事故現場に止まった。ジョンはムスタングに向かった。タンジーがハンドルの陰に座っているのを見て、頚動脈を調べるのに手を伸ばした。タンジーの脈はしっかりしていた。ジョンはほっとして、ため息をついた。タンジーはジョンの方を見ると、微笑もうとした。パンチはビュイックの中でハンドルに覆い被さるようになっている女性を調べに行った。こっちの女性は脈が無かった。パンチはジョンの方へ振り向くと、ハンドルの陰の血まみれの顔がだれであるかに気がついた。ジョンに向かって歩いて来るパンチに、何も言うなよと、警告のためにジョンはパンチに目配せをした。ジョンは重心を前に傾けて、体を低くしていたので、タンジーはジョンの目を覗き込んでいたようだ。

「タンジー、大丈夫かい?」
パンチがタンジーに尋ねた。ジョンは首を振っているばかりだった。
「あなたの目には大丈夫に見えるって言うの、パンチョレロ?」
タンジーはパンチにかみついた。
「ものすごく痛いわよ!」
タンジーは考え込みながら、一瞬、間を置いた。それからジョンの方に向かって言った。
「いまだに、何でギトレアはあなたとあいつを組ませたのか理解できないわ!」
「消防署に連絡してくるよ」
パンチは火線から逃げ出そうと、そう言った。
「あいつらがこの子を傷つけた、覚悟しなさいよね、パンチョレロ!」
タンジーが叫んだと同時に、パンチはバイクに向かって行った。
「タンジー、連中は君のことを外に出さなきゃならないんだよ」
ジョンはそう言って、手をタンジーの肩に置いた。
「君はすっかりそこに押さえ込まれて、身動きできなくなっているじゃないか」
「この子のために部品を集めるのがどんなに大変かわかる?」
タンジーは言った。
「タンジー、落ち着いて、車の事は気にしちゃダメだ。今は君のことを心配しているんだよ、君のことを無事に外に出そうとしているんだよ」
「連中に私の車を引き裂かせないで、ジョン」
タンジーがほとんど涙ながらに嘆願した。
「私、この子無しでどうしたらいいか判らないのよ」
「どこが酷く痛むの、タンジー?」
ジョンが訊いた。
「どこもかもよ、ジョン」
タンジーは間を置いた。
「ロイが来ると思う?」
「わからないな、でも、もし君が怪我しているって知ったら、ここに来るよ」
ジョンは微笑んで言った。ほとんどみんなが、タンジーがデソトにのぼせているのを知っていた。だれも、みんながその事を知っていることをタンジーに知らせようとはしてないけれど、周知の事実だった。
「ジョン、ひどく痛むわ……」
タンジーはそう言うと、気を失った。ジョンはタンジーの肩に手を置いた。
「タンジー?」
返事は無い。ジョンは立ち上がって、タンジーの様子をもっと良く見ようとした。ジョンの目にタンジーが気を失っているのが見えた。

**********

「51分署へ、2台の車による事故が405号線、西方向レーン、テイラーストリート出口で発生。時刻は17:35」
配車指令官が発信音の後に言った。
「こちら51分署、KMG365」
スタンレイ隊長が答えた。2台の車の横転して、呼び出しがかかった。彼らが事故現場に到着すると、二人のカリフォルニアハイウェイパトロール警官が一方の車の横に立っているのが見えた。アーティは事故現場周辺の通行に指示を出していた。ジョンが救急救命士たちの車のドアへ駆けつけた。

「ロイ、タンジーなんだ、君を呼んでいたんだ」
ジョンが言った。ロイはただ頷くしか出来なかった。たとえロイが既婚者だとしても、心の中には、タンジーのための特別な場所があった。ロイは車をとめて、二人で飛び出した。
「タンジーはひどいのか?」
ロイは、車の用具入れから装備を取り出しながら訊いた。
「ダッシュボードの下に閉じ込められているんだ」
ジョンが報告した。
「それから、ひどい切り傷がある、額の端から端までだ。他のところは良く判らないよ、ロイ。ほかは調べていないんだ、困った事に頭を中に入れられなかったんだ、つまり」
ジョンが心配で眉をひそめながら言った。ジョンはロイにむかって無理に笑顔を作った。
「脈拍は有るのか?」
ロイが続けて訊いた。
「最初に調べた」
ジョンが言った。
「タンジーは今は意識が無い。僕が駆けつけた時には返事が無かった。でも、しばらくして、タンジーはしゃべりだしたんだ」
ジョニーとロイは舗道に装備を広げた。
「もう一台の車の方はどうなんだ?」
ジョニーが尋ねた。
「パンチは脈拍を感じられなかったって。年配の女性だ。どうやら彼女が車のコントロールを失って、2台が衝突したようだ。ブレーキの跡が無い」

ロイは助手席のドアを開けようとしたが、ダメなようだった。ロイは開いていた窓から足から滑り込んだ。タンジーは右腕に深い切り傷を受けていた。ロイがタンジーのバイタルを調べている間に、ジョニーはランパート総合病院と連絡をとった。ロイはバイタルチェックを終えると、だらだらと、かなり大量に出血している傷を直接押さえて止血した。
「ジョニー、呼吸数15、心拍数75、血圧、上が120の下が40だ。額に大きな切り傷、右腕に深い切り傷、それから左腕骨折。右腕の傷を直接押さえて止血している。チェット」
ロイは窓の外に叫んだ。
「車の外にある頚椎カラーをよこせ、それから止血帯もだ」
チェットが頷いて頚椎カラーを取りに行くのと同時に、ジョニーはランパート総合病院に情報を伝えた。チェットが戻ってきて、窓越しに頚椎カラーを渡した。ロイは頚椎カラーをタンジーにはめた。ジョニーがチェットに止血帯を渡すと、それがロイへと手渡された。ロイは止血帯をタンジーの腕にあてた。

マルコとマイクはタンジーの膝からハンドルを引き離す作業をしていた。タンジーが痛みにうめき声を出したので、ロイは肩に手を置いた。マルコがハンドルを挟みつけ、マイクが固定した。チェットは水をかけて、ガソリンを洗い流していた。
「タンジー、気を楽にして。マイクとマルコがすぐにここから出してくれるから」
ロイがタンジーに話かけた。
「ストーカー、私の車にこれ以上傷をつけないほうが身のためよ」
タンジーが叫んだ。
「心配しないで、テイラーさん。車を傷つける気はさらさら有りませんよ」
ストーカーが機械の音に負けずに叫んだ。ほとんど同時に、ステアリングコラムがタンジーの膝から離れた、タンジーは痛みで叫び声をあげた。
「ジョニー、背あて板の用意はいいか?」
ロイは機械の音に負けないように叫んだ。
「ここだ、ロイ」
ジョニーが言った。
「ブラケットが、救出したら直ちに、ライン確保のためにブドウ糖5%液の点滴を開始するようにって」
「いくぞ、マイク」
ロイが言った。
「さぁ、タンジーを外に出すんだ」
ジョニーとマルコが背あて板をタンジーの下に滑り込ませて、それから三人はタンジーをそっと板の上に横たわらせた。タンジーは痛みで泣き始めている。タンジーをベルトで背当て板に固定をして、担架に移した。ロイが点滴を始めた、ジョニーがタンジーを恐れて手を出さなかったからだ。

「ロイ、最後にもう一度、あの子を見せて」
ロイは、それはあまり勧められないと思い、首をダメだと横に振った。
「ロイ」
タンジーは脅すような声で言った。ロイはタンジーがこういう口調になったときには真剣で、周りに居る人間に怪我を負わせかねないのを承知していた、たとえタンジーが担架の上にいようと。
「どうしても見たいのかい?」
「ええ」
タンジーが言った。担架を支えている隊員たちが、ゆっくりと向きを変えて、車が見えるようにすると、タンジーはすすり泣きをはじめた。
「いいわ、もう病院に行くわ」
タンジーを救急車に搬入した。

*******

8週間後、タンジーは仕事に復帰した。折れた腕は直り、縫い目も無くなった。すっかり、以前からの気まぐれな彼女に戻っていた、65年式ムスタングは無かったけれど。ロイはうわさで、タンジーが今日、戻ってくる事を知っていたので、出動の後にガレージに立ち寄った。

「何しているんだい?」
ジョニーが訊いた。
「タンジーが今日復帰するって聞いたから、どんな調子か聞きに行こうと思ってね」
「お前、どうかしてるんじゃないか?」
ジョニーが言った。
「脳みそはどこにやったんだい、ロイ?」
「どうして?タンジーはいい子だよ、一度、荒っぽい外見にとらわれないで見てやれよ」
「やれやれ、おれは近づきたくないね、悪いけど」
ジョニーが答えた。
「おしいな」
ロイが車を出ながら言った。ジョニーは、タンジーがキャブレターのように見えるものをまとめているところに、ロイが歩いていくのを車から見ていた。タンジーは振り向くと、ロイを強く抱きしめた。ジョニーが見たところによると、二人はタンジーの怪我の事を話しているようだった。それから、二人が車の方を見た。ジョニーはグローブボックスの中にでも入りたかった。ジョニーはタンジーが自分に悪態を吐きに来るだろうと思っていたからだ、タンジーがジョニーのところに来るときは、いつだってそうだ。もしかすると、タンジーはこっちにこないかもしれないジョニーは思った。二人ともあそこにいて、俺を煩わすつもりは全然無いかもしれないちょうど、ジョニーがそう思っていたところに、二人は車に向かって歩いてきた。タンジーは手をボンネットの51というナンバーのかかれたところに置いて、そっと撫でて、それから、あいている窓の方に近づいて、寄りかかった。
「ハイ、ゲージ、調子はどう?」
ジョニーはタンジーを慎重に眺めた。
「いいよ」
ジョニーが言った。
「ロイが、私が休んでいる間も、この子と上手くやっていたって話してくれたの」
タンジーはハンドルを軽く叩いた。
「何にもぶつけなかったし、どこも壊さなかったって。こういわなきゃね、感心したわ、上出来よ、ゲージ」
「ありがとう、タンジー。君が良くなって戻ってくるまで、と思ってね」
「仲間としての思いやりに感謝するわ」
タンジーは振り向いて、ジョニーの肩を軽く叩いた。
「ロイがね、私が回復する間に、何冊もの車の雑誌をもってきてくれたの、気晴らしのために。ロイって天からの授かりモノよね。ああ、ジョアンナは本当に上手くやってるわ!」
「そうだね」
ジョニーはタンジーの態度に首を振った。
「二人を署に帰してあげないとね。車の方は何も必要ないかしら、潤滑剤は、オイル交換は?」
「無いよ、タンジー、車は調子良いよ。君が復帰一日目をどうしているか見たかっただけだから」
「もうすっかり良いわ、ロイ。すっかりよ」

― 完 ―

"Just a Bad Day" c1999 Katy Sundberg. "Emergency!" and its characters c Mark VII Productions, Inc. All rights reserved. No infringement of any copyrights or trademarks is intended or should be inferred. This is a work of fiction, and any similarity to actual persons or events is purely coincidental.
本作品は、2000年10月に Katy Sundberg より許可を受けて翻訳したものです。日本語文の権利は当サイト管理人のもんたに有ります。
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もんたのあとがき

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