"ベア"ハンティング

Hunting For Bear
Written by Deb Riley

第4章

いったい、どんな間抜けな奴が三人ものカリフォルニアハイウェイパトロールの警官に向かって発砲しようって言うんだ?
ギトレアは反射的に木の幹の陰に身を隠して、低くかがんだとは言うものの、まだそんな事を考える余裕はあった。

そうは言っても、今日は三人とも非番だからこそこんな事になったのだ、ギトレアだけでなく、他の二人も制服じゃない。ギトレアが小道の反対側で木の陰に隠れているジョンとバリクザーの方を見た。

周りの木々はどう見ても、小さく、枝ぶりもみすぼらしく、本当に最低限しか身を隠してくれなかった。木立の中で、また銃声が鳴り響いた、今度は相手の狙いはさっきより随分とまともだった。バリクザーの左足からほんの数センチ離れた地面に着弾したのと、小さな松の木の細く曲がった幹の陰に身を隠そうとしたのはほぼ同時だった。

ギリギリセーフだな!ギトレアはジャケットの下に手を伸ばし、隠していたホルスターから非番用の拳銃を取り出そうとしながら、心の中で叫んだ。誰だか判らんが、銃を撃ってきている奴は我々が警官だとは気がついてない。おそらく奴は初めからここにいたんだろう、あれを収穫しようとしてな。それで、我々が近づいてくる音を耳にして隠れたんだろう。マリファナの栽培を横取りしに来たんだと思っているに違いないな。それで、我々を脅そうと、手当たり次第に撃っている……言わばそんなとこだろう。

銃声は小さな爆竹のような破裂音ではなかった、と言うことはおそらく.22口径より大きな銃ではないだろう―つまり、重傷を負わせるような事は無いだろう。しかし、そうであったとしても、ギトレア自身はもとより、部下達の誰かであっても銃弾を受けるのは願い下げた。さっきの着弾だって部長の思いからすれば、バリクザーの足にまったくもって近すぎた。

不規則な銃撃なパターンからしても、この銃を持った何者かは自分が狙われないように動きつづけていると確信できた。それに、どうやらジョンとバリクザーの二人も同じ結論に達しているらしい。ジョンは左の方向を探るような表情で指し示し、バリクザーは右の方を見て頷いている。二人は声には出していないが、円を描くように移動して、襲撃者に忍び寄ってみるのに、部長の許可を得ようとしているのは明らかだった。

しかし、部長は首を振って、『まだだ!』と唇を動かして見せた。もう少ししっかりと、相手がいる場所を特定するまでは、部下にそんなリスクを負わせるつもりは無かった―ましてや、その必要が無いとすれば余計にだ。

相手が何度か発砲した事で、ボニーにも銃声が聞こえて通報するチャンスができたはずだ―少なくともギトレアはそう望んだ。ボニーが銃声を聞きつけて無線で何にしろ連絡を入れているだろうことを。普通ならば、ボニーは待ち伏せに合うかも知れないところへ入って行こう等と言う考えは起こさないだろう……しかし、今は普段の常識を無視した考えを起こしてしまうかもしれない状態だ、なにしろ、銃声はジョンとギトレアとそしてバリクザーがいる方向から聞こえてきているのだから。

ギトレアはほとんど丸々2分ほど待ってから、再び動き始めた。もし、相手の意図するところが単に、ギトレアたちを脅かして立ち去らせる事ならば、おそらく奴は満足して、すでにこの場を去っているだろう。ともかく望みはあるさギトレアは一人肩をすくめると、注意深く木の幹の陰から銃声のした方向を探った。

しかし、それが射撃者への合図だったかのように、再び銃弾が木の枝を弾き飛ばした、それもギトレアの頭の真上だ。今度の銃弾はあまりにも近く、危険だった。部長は内心、性急な読みをしてしまったと、焦った。

明らかに何か対処しなければならない……それも、素早く。ボニーが銃声を聞きつけていていて無線で助けを呼んでいたとしても、応援が到着するまでにはまだ時間がかかるはずだ、ギトレアの推測が間違っていなければ、ただ単に待っているだけと言う選択肢は無い。不本意ながら、ギトレアは小道の向こう側にいるジョンとバリクザーを見て、無言で二人に、二手に分かれて円を描くようにして相手の後ろを取るようにと示した。

ジョンが頷いたが、この金髪の警官は直ぐには動き出さなかった。ギトレアは、なぜジョンが直ぐに行動を起こさないのかを知ろうとしながらも、眉をひそめた。その答えは直ぐにわかった。ジョンはバリクザーの事を待っていたのだ。バリクザーは首輪と引き綱をポケットから出したところだった。しゃがみこんでサマンサの首に紐をかけると、もがきまわって抵抗している子犬を辺りの茂みの低い枝に繋いだ。

バリクザーは子犬を安全に繋いだ事にようやく満足して、ジョンに向かって頷いた。バリクザーのように背の高い人間が格好の標的にならないように身を低くする事は難しい、しかも、身を隠すべき木は、細く、まばらときている。ギトレアはめいった気分で、ジョンとバリクザーを見ていた。二人は小さな木の幹の陰を飛び出して、次の幹の陰へと動き出した。また銃声がしたときには、ギトレアの最悪の不安がますます強まった。

しつこい愚か者なのか、お前さんは? ギトレアは見えない相手に向かって唸った。ほとんどの人間は警告のために1発か2発撃ったら、その後は警官が駆けつけて、逮捕されて終わりになってしまう前に逃げ出すものだぞ。いったいなんだって言うんだ? 愚か者なのか? 狂ってるのか? 自分の草でハイになっているのか? それともその全部なのか?

部長は音を立てずに、身を隠していた木の後ろから滑り出て、無我夢中で数メートル先のあまり安全とはいえそうも無い小さな木に向かってダッシュした。相手が闇雲に撃ってきている状況下では、そんな事をしても無駄だった。こんな動きをしても何の役にも立たないだろう―とんでもなく危険なのは言うまでも無い。TVの警官だけがはっきり見えていない相手に向かって銃撃するんだ……現実では、でたらめに銃を撃つ事は同僚の警官の命を脅かす事になるのだ。

その代わり、ギトレアは相手に十分近づいて、奴が弾を装てんしているときに急襲し、弾切れの隙に取り押さえる事に望みをかけた。ジョンとバリクザーの助けもあることだし、不測の事態さえ起こらなければ、この作戦は上手くいくと確信していた……

……不測の事態は起こった。奇妙な唸り声が前方で起こったのだ、小道のから離れたところからだ。ギトレアが、いったい何ががそんな音を立てられるの考えつく前に、唸り声が一瞬止んだ。唸り声は直ぐに叫び声に変わった。少し離れた所にいたギトレアにもパニックになって怯えている人間の声が聞こえた。

銃声も止んでしまっていた。ギトレアは、ぞっとするような金切り声と唸り声のするところで、いったい何を目にする事になるのか、いくぶん恐れながらも、木々の間を走る抜けた。まばらな木の茂みを縫うように走りながら、いくつもの可能性が頭をよぎった……ジョンかバリクザーが麻薬でハイになっている襲撃者に撃たれるか何かして、なすがままにされている可能性も思い描いていた。

しかし、金切り声の悲鳴と罵りが聞こえてきたところにたどり着いてみると、ギトレアは一瞬動きを止めてしまった……目にしたものはとても信じられるものではなかった。ジョンも、バリクザーも怪我をさせられたり、動きを封じられたりしているようことはまったくなく、木立の中の小さく開けた場所に並んでつっ立っている。その二人の表情はそろいもそろって、地面の上に転がっているものを見つめて、信じられないといった様子だった。

なんにしろ、それが三人のカリフォルニアハイウェイパトロール警官の耳を襲う、キーキー声の出所なのは確かだった。最初、その物体は部分的に何か古い毛皮のコートのようなもので覆われたボロの束のように見えた―いかに有りそうもない事と言え、目の前で事実起こっているのだ。

しかし、ギトレアは近づこうとしたが、直ぐに再び足を止めた。そして、他の二人同様に、ただ立ち尽くして目の前で繰り広げられている事を見つめるだけだった。『ボロ布の束』はヒステリックに叫びつづけ、黒とタンの『毛皮のコート』は、脅すように唸りながら、前足で、あごひげをたくわえた若い男の胸を押し倒して立っていた。

男の腕のあちこちについた噛み傷と、ずたずたになった袖が意味するものが確かなら、ジャーマン・シェパードがまったく意表をついた奇襲をかけたのだ……えらく効果的な奇襲を。その犬は憔悴しているといっていいほどやせ細っていたが、全身には依然として、力と強さをみなぎらせている。それにどうやら、前の飼い主に番犬としてしっかりと訓練されていたようだ。男の銃は2メートルも離れていないところに落ちていたが、男が武器の方を見るどころか、ちょっとでも動こうものなら、犬は脅すような低い唸り声を出した。

訳の分からない事を呟やき、にごったような目をしている点からも、この男の精神状態はまさしくギトレアの推測どおりのようだ。症状などをいちいち確かめなくてもいいほどに、これまで多くの麻薬常用者を見てきている。この有り様からすると、この男は間違いなく自分自身が一番の『お得意さん』だったのだろう。

「だれか、なんとかしてくれ!」
男はあわれな様子で三人の警官に向かってキーキーと叫んだが、もはや動こうとする事すら出来ない。
「この狼をどっかにやってくれ!」

「狼だって?」
バリクザーがあざけるように鼻で笑って、それから膝をついてかがんだ。優しい、なだめるような声で話し掛けながら、片手を犬の方へ差し出した。
「やぁ……上出来だったよ。ブライベ! ヤー、ゼーア グート!

バリクザーの言った言葉の音に、犬はピンと耳を立てた。そして首をかしげると、まるで、たった今、耳にしたものに戸惑っているようだった。しかし、逃げようともしなかった、バリクザーが一歩ずつ近寄って行っても、逃げ出さなかった。

バリクザーは犬と『捕虜』から1メートル弱まで近づいたとき、自分の左側の地面を指し示した。犬は身震いをさせ、頭を垂れた、まるでまた逃げたそうと構えているようだったが、バリクザーが首を横に振った。

ナイン!
バリクザーはそう強く言った後から、静かな声で続けた。
コンメン!

シェパードはクーンと小さく泣いたが、ゆっくりと震える足取りでバリクザーの方へ近寄ってきた。一瞬立ち止まってバリクザーを見上げ、それから、人間のような悲しげな声をあげると、足を投げ出し、地面に仰向けに転がって服従を示した。バリクザーは注意深く、手を伸ばすと、犬の耳の後ろを掻いてやった。それから、シェパードは再び体を起こして座ると、しっぱを大きく振って地面を叩いた。

「いい子だ!」
バリクザーが勝ち誇ったように笑っている横で、ジョンとギトレアはさっきまで犬の捕虜になっていた男を引きずり起こした。
ブライベ ズイッツェン……ゼーア グート シェーファーフント!

ギトレアは高校時代のドイツ語の授業を思い出して『座れ』と『待て』は何とか判った。それに犬がバリクザーの手を舐めている様子から判断すると、素晴らしいシェパード犬だと誉められて喜んでいるようだ。

「思っていたとおりだ!」
バリクザーが落ち着いて、ギトレアとジョンに向かって言った。
「だから、前に僕がこいつを呼んだときに来なかったんだ。ドイツ語の命令にだけ従うように訓練されていたんだ。前に買った犬の本で、シェパードを番犬として訓練するときには良くある事だって読んだことがあったんだ。悪者の命令をきいて、犬が逆に自分を攻撃したりしないように……判るでしょう」

バリクザーは意味ありげに囚人の方に頷いた。男はジョンに手錠をかけられ、この金髪の警官が引っ張っていこうとしているときも、まだ小声で何かブツブツと言いつづけていた。あごひげ男が突然立ち止まった。男はバリクザーと連れの警戒している犬らしきの生き物を見ると、どんよりとした目つきでうんざりといった様子で頭を振った。

「まったくツイてないよ―ほんのちょっとのマリファナを育てられるところなら五万とあるのに、俺がロサンジェルスの中で選んだ、たった一ヶ所のところに、本物の生きた狼がうろうろ走り回ってるなんてな」
男がブツブツと独り言を言った、それでも、さっきまでに比べればだいぶまともに控えめに言った。
「で、いったいどこにおとぎの森で迷子になったお嬢ちゃんがいるんだい、そうなんだろう? 赤頭巾ちゃんか?」

「ここよ……でも実のところ、私はあなたが今一番会いたくない類の人間よ」
ボニーが友人達の方へ向かって小道を駆け下りながら言い返した。後ろからは、制服を着た三人のカリフォルニアハイウェイパトロールの警官がついてきている。
「部長、銃声が聞こえたので応援を要請しました。それで私が、事の真っ只中に突入していくよりも、とどまって応援の到着を待っていた方が良いだろうと。三人とも、私が作戦を台無しにするのは望んでないと判断したので……あら、四人かしら。ねぇ、そちらの毛むくじゃらのお友だちはどなた、バリクザー?」

「話せば長いんだ、ボニー」
制服姿の警官の一人が、朦朧として震えている囚人を連れて行く傍らで、バリクザーが微笑んだ。
「朝食を食べながら、全部きちんと話すよ。それで、もし良かったらなんですが、部長、僕のアパートの向かい側にあるレストランからテイクアウトして、僕の部屋で食べませんか? 僕の留守中、うちの『やんちゃ坊主たち』がどんな事をしでかしているか、見に戻った方が良いと思うので。隣のリンダには、秘密を打ち明けてあって、彼女、普段は夜勤なんで、昼間、僕の留守中は連中のことを見てもらっているんです。ところが、今朝は急な仕事が入っちゃって、見張っていてもらえなかったんですよ。だから、部屋へ戻ったら一体どんな事になっているか」

かなり離れたどこかから、緊急事態を告げるような甘えた鳴き声がして、大きなシェパードは耳をピンと立てた。バリクザーはまた、にやりと笑った。
「それにこのママと残りの子供たちも会わせてあげたいし……そうだ、『グレートヒェン』て名前はどうだい、え、お前? さぁ、グレートヒェン、あのお嬢ちゃんが、かんしゃくを起こす前に助けに行こう。ついて来い―おっと、違った、こうだな『フース!』

ボニーは、バリクザーが自分の左側にしっかりと大きなシェパードを引き連れて、小道を戻っていくのを驚いたようなあきれたような表情で見ていた。ボニーの表情は、バリクザーが大きな犬の小さなレプリカのような子犬を放してやるのを見て、ますます困惑が深まってきていた。そして、ジョンとギトレアの方に振り向いて、眉をしかめて不機嫌な表情をして見せた。

「いつからバリクザーは犬を飼っているの……それにアパートに子犬たちがいるですって?」
疑い深い表情で問い詰めてきた。
「それに、その上、いつからドイツ語なんて勉強してるの? まだあるわよ、あのあなた達を撃って来た男は誰で、こんなところで何をしていたの? それから、バリクザーは誰か秘密を打ち明けていた相手がいるって言ってたの? 誰か、一体全体何が起こってるのか説明してくれない?」

「実のところはだな、ボニー、話してやろうにも出来ないんだよ……私たちも知りたいんだよ」
ギトレアが首を振った。
「たぶん、君の質問に答えられるのはバリクザーだけだろう―私は、そうだないまだすべてのピースを集めようと努力中だよ。しかし、さしあたり言えるのはだな、私の祖母が好んで使っていたことわざの通りになったてことだな」

「なんだったんですか、部長?」
ジョンが瞬きをしながら訊いた。

「ギトレアばあさんはな、いつもこう言っていたんだよ。他人のことを、とやかく憶測するって事は『お』ろかで、『くそ』でも『く』らえ、って事なんだよ、って」
ギトレアが皮肉っぽい笑いを浮かべて言った。それから、バリクザーに向かってウインクをして続けた。
「そして実際のところ、ボニー、私たちが今朝した事は まさしくそのものって訳だ」


********************

「……それで私たちに隠していた秘密って、子犬たちのことなの?」
1時間半後、ボニーは他の二人と一緒にバリクザーのアパートのリビングルームに座って、うめいていた。
「私には未だに信じられないわ。あなたがマリファナの畑の直ぐ横を通り過ぎて気づきもしなかったなんて。しかも一度ならずも、迷い犬を追いかけるのにあそこに出かけて行っている間中、気づかなかったなんて!」

「僕が一度に一つの事しか考えらない性質なのはわかってるだろう、ボニー。一度何かに集中してしまったら、本当に爆発でもなければ気をそらせられないって……じゃなかったら、誰かさんのくしゃみとかね」
バリクザーがギトレアに向かっていたずらっぽく笑って見せた。
「あの犬を捕まえてつれてこようと必死になっていたから、他の事はまったく目に入ってなかったんだよ」

ボニーはくすくすと笑うと、バリクザーの横へ行き、彼の髪を親愛の情をこめてくしゃくしゃにした。
「そして私たちはあなたが何か面倒な事になっているんじゃないかしらって考えたのよ……それもとんでもない事なんじゃないかしらって!」

「さて、こういうのって、なんて言うだろうね?」
部屋を見渡せるところに座っていたバリクザーがにやりと笑った。

まるで毛皮の台風のように―靴紐を噛んだり、耳を舐めたり、顔から朝ご飯の食べ屑を舐めとろうとしたりしながら、自分の周りを取り巻いている子犬たちをバリクザーが目で示した。子犬たちの母親は、誇りを漂わせた隙の無い茶色の瞳で子犬たち全員の大はしゃぎの様子を見守りながら、バリクザーの横に座っていた。時々、子犬たちの誰かがいささかはしゃぎすぎると思うと、体を前に乗り出して、少し唸って見せていた。

しかし、コーヒーテーブルの上の紙切れを身振りで示すと、バリクザーの笑顔は直ぐに曇ってしまい、思いっきりため息をついた。
「だけど、賃貸契約の『ペット禁止』の違反で立ち退きを言い渡されたのはかなり問題だよ、そうだろう?」

バリクザーたちがここに戻ってきてまず見つけたのが、ドアに貼り付けられたこの通知だった……駐車場からでさえ、全員の耳にキャンキャン、ワンワン、クンクンと聞こえたと言う事は、大家もすでに聞きつけたということだった。今では黒髪の警官は、グレートヒェンが横たわる傍らで、心配そうに眉をひそめていた。シェパードは頭をバリクザーの足に預け、体と顔全体で、信頼を表しながらバリクザーの顔を見上げていた。

「僕が支払える家賃の範囲で、まともなアパートを見つけるのはそりゃぁ大変だったんだから」
バリクザーがグレートヒェンの耳をくすぐると、大きな犬がうれしそうに息を漏らした。
「だけど、ともかく犬を飼うのを許してくれるようないい場所を見つける努力をしますよ……しかも、2、3頭の大型犬を許してくれるようなところをね。他の子犬たちには飼い主を見つけてやるつもりだけど、グレートヒェンとサマンサだけはどうしても手元に残しておきたいんだ」

ギトレアは心配そうな顔つきのバリクザーに微笑みかけた。
「バリクザー、私に君の問題の解決策があるかもしれないといっただろう、その事だよ。家内と私がここ2年で投資用の物件をいくつか買った事は知っているだろう? それと、ティミーが犬をとても飼いたがっているんだが、私のアレルギーのせいもあって、ままならないことも」

ギトレアはバリクザーの目に光が戻ってくるまで、しばらく間を置いた。
「そうなんだ、バリクザー」
部長がにやりと笑った。
「2ベットルームの小奇麗な一軒家を手頃な値段で、きちんとした人に貸そうと思っているんだよ。近所の環境もいいところだ……実際のところ、我が家から2ブロックも離れていないんだよ。裏庭には背の高いフェンスがあるんだ―2、3頭の犬を放し飼いするのにちょうどいいだろう。ティミーに子犬を一匹譲ってくれて、君のところにおいてやってくれれば、いい解決方法だと思うんだがな。そうすれば、ティミーは犬と遊べるし、私は死ぬほどくしゃみをしないで済む」

バリクザーが音をたてて安堵のため息をついたのにジョンが声を出して笑って、それから言った。
「バリクザー、僕が馬を預けている厩舎のオーナーがね、子犬を欲しがっているんだよ、大型犬で、いい番犬に育つような子犬をね。君の子犬たちのことを教えたいんだけど、いいかな? きっと、一匹欲しいって言うと思うよ、特に、グレートヒェンが今朝、僕らを守ってくれた事を話したらね」

「私のアパートはペットに関する制約が無いのよ……この子がとっても欲しいんだけど、私にくれない?」
ボニーは丸々として黒い子犬を拾い上げると、抱きしめた。
「それに、ほら、ハーランがこの子達を見たらきっと、メロメロになって一匹欲しがるはずよ。ぜったい欲しがるわよ」

「うちの家族も一匹欲しいって言ってたんだ。それに、リンダの長女のシェリーには男の子が二人いて、その子達のためにシェリーも子犬が欲しいって、これですべて丸く収まりそうだ!」
バリクザーがニッコリと笑ったが、その表情は直ぐに真面目になった。
「それにしたって、まったく皮肉なことだよ」

「どういう事、バリクザー?」
ボニーが、急に難しい顔つきになったバリクザーを見ながら訊いた。
「この界隈の麻薬売人どころか、子犬斡旋人になっちゃったよ」
バリクザーがあわれっぽく鼻を鳴らして見せてから、こそこそとした様子でボニーに合図した。
「ちょっと、そこのお嬢さん! 子犬、はどうだい? 100%まじりっけ無し、保証付だよ。まじりっけ無しに悩みの種さ!」

「そろそろ、行くよ」
ギトレアが鼻をぐすぐすと言わせると、立ち上がって体を伸ばした。
今日は休日だし、それにこの年寄りには、一日の午前中に扱いきれる騒ぎのほとんどをやり尽くしてしまったようだからな」

「まったくですね、部長……明日仕事に戻れるのがありがたいんじゃないんですか? 朝の3時半に起きての張り込みなんてないし、カーチェイスも無ければ、麻薬の売人に銃撃される事も無い」
ジョンがくすくすと笑った。
「あるのは、静かで平和な交通渋滞に、怒れる運転者が少々、それに胸一杯のスモッグだけ」

ギトレアが玄関に向かって歩き出すと、バリクザーが立ち上がった。
「あの、部長……」
バリクザーが躊躇しながら話し始めると、ギトレアは立ち止まってもう一度バリクザーの方へ向き直った。
「ありがとうございましたって言いたいと思って……その色々とありがとうございました。こんな素晴らしい友達に恵まれてるんだって判ったのは僕にとって、とても大事な事です。それから、もしもまた、こんな問題を抱え込んだときには、自分ひとりでどうにかしようなんてしませんよ。約束します」

「君からそう言ってもらえてよかったよ、バリクザー……どういたしまして」
ギトレアが微笑んだ。
「じゃぁ、諸君、明日の日が昇ってからの早朝にな。実際、明日も早いぞ、でもって、君ら三人ともがばっちり目を開けてやって来てくれるのを期待しているからな」

ギトレアのセリフに三人が声をそろえて、唸るような返事をするのを見て、ギトレアはにやっと笑った。そして、三人がふざけてがっかりして見せているのを機に、部屋から抜け出した。1階に向かって階段を降り始めたが、途中で一瞬足を止めた。

まったく、ジョンの言うとおりだ。ギトレアは一人、頷いた。もし、これが素敵な、くつろいだ休日だと言うんだったら……
……仕事をしてる方がましってもんだ!



-完-

作者による注:この物語は我らが犬好きのブロディ・グリアーに捧げます。彼が1990年にノルウェジアン・エルクハウンドを助けた話は『迷い犬』のプロットのインスピレーションになっています。


"Hunting For Bear" c1999 Deb Riley. "CHiPs" and its characters cMetro Goldwyn-Mayer, Inc.All rights reserved. No infringement of any copyrights or trademarks is intended or should be inferred. This is a work of fiction, and any similarity to actual persons or events is purely coincidental.
本作品は、2000年12月に Deb Rileyより許可を受けて翻訳したものです。日本語文の権利は当サイト管理人のもんたに有ります。
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もんたのあとがき



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