塩素博物館本館にようこそ
ご案内
1.
塩素の基礎知識
2.
自然界における塩素の存在
3.
塩素の工業的利用
4.
塩素化合物による環境汚染
5.
生命にとっての塩素
6.
塩素の分析法
7.
参考資料
1.塩素の基礎知識
名称:塩素(日)、chlorine(英)、chlore(仏)、Chlor(独)、cloro(伊・西)
語源:塩の素(日)、ギリシャ語のchloros−黄緑(欧)
元素記号:Cl
発見:1774年Scheele(Sweden)により単離 MnO2+4HCl→MnCl2+2H2O+Cl2
原子番号:17
原子量:35.4527
原子半径:0.097nm
原子価:-1,+1,+3,+5,+7
電子陰性度:3.16
単体:Cl2(常温で緑色のガス)
単体の融点/沸点:−100.98℃/−34.6℃
存在度 宇宙:1ppm、太陽:8ppm、地殻:170ppm、海水:1.9%、ヒト:0.12%
安定同位体
35Cl 質量:34.9688527amu、存在度:75.77%
37Cl 質量:36.9659026amu、存在度:24.23%
放射性同位体(主要なもの)
36Cl 半減期:3.01×105年、壊変形式:β−(→36Ar)・軌道電子捕獲(→36S)
38Cl 半減期:37.21分、壊変形式:β−(→38Ar)
a. 地球上の塩素(塩素の地球化学サイクル)
・気圏 大気:極微量の塩化水素(火山ガス・産業活動)、クロロメタン(藻類)、フロン(産業活動)
等を含む(人為的な発生源に比べると無視できる程度の有機塩素化合物―フロ
ンを含むーは火山ガス中にも含まれる Jordan
et al. (2000) Environ. Sci.
Technol.,
34, 1122)
エアロゾル:海塩粒子(NaCl)、火山ガス(HCl)、産業活動(HCl等)が起源
・水圏 海水:塩化物イオンとして約1.9%含まれる(火山ガスが凝結して生じた塩酸酸性の原始
海水が岩石中の金属成分を溶解して現在の海水組成となった)
陸水:塩化物イオン含有量数ppmの河川水から20%近くの塩湖まで
・岩石圏 蒸発岩:塩湖・内海が干上がって形成される(岩塩、カリ岩塩、石膏などを含む)
欧州・カナダ等では厚さ数百mに達する岩塩層がみられる
地殻:平均して170ppm含まれる(独立したハロゲン化鉱物、リン酸塩・ケイ酸塩鉱物等
の副成分、ケイ酸塩鉱物などの結晶格子を置換する微量成分などとして存在)
マントル:塩素の安定同位体比(37Cl/35Cl)が海水より高い
CIコンドライトを地球の材料とみなせば(両者の塩素同位体比が等しければ)、
全体の40%にあたる塩素が原始地球より脱ガスして海洋となったと推測できる
(Magenheim
et al.(1995) Earth Planet. Sci. Lett. 131,427)
b. 地球外の塩素
・隕石 (Origin and Distribution of the
Elements (Pergamon Press)、
Garrison et
al. (2000) Meteorit. Planet. Sci., 35, 419などより)
炭素質コンドライトの塩素含有量:150〜850ppm
普通コンドライトの塩素含有量:5〜200ppm(例外的に400〜600ppmの場合もある)
エイコンドライトの塩素含有量:2〜100ppm
鉄隕石(ケイ酸塩相)の塩素含有量:3〜800ppm
※スカポライトのようなケイ酸塩鉱物(他のケイ酸塩鉱物と塩素を含む水相の
反応で生成)または岩塩のような塩化物(塩化水素ガスあるいは水溶液と鉱
物中の陽イオンの反応で生成?)として存在する
※コンドライト中(H5:Monahans)にHalite結晶(〜3mm、太陽系誕生時の水
と思われる液体包有物を含む)が発見された
(Zolensky et al. (1999)
Science,
285, 1377)
・月 「海」の玄武岩の塩素含有量:4〜19ppm(地球の玄武岩110ppmに比べ低い)
・火星 表面の「土壌」中に比較的高濃度(0.4〜0.9%)の塩素が存在
(バイキングT・U号、マーズパスファインダーによる分析)
※過去に存在した海が干上がったか、火山ガス(HCl・SOXを含む)が直接岩
石表面と反応することで、塩類(硫酸マグネシウムが主体)が集積した
※火星隕石(Nakhla)中にHalite相(火星表層の蒸発岩に由来?)が見いだ
された(Bridges
& Grady (1999) Meteorit.Planet.Sci., 34, 407)
・イオ(木星の衛星):火山活動によりイオトーラス(イオの公転軌道を取り囲む荷電粒子帯)
に塩素が放出されていることが確認されている
c.塩素を含む主な鉱物
塩素はハロゲン化鉱物を構成するほか、リン酸塩鉱物・ケイ酸塩鉱物等の副成分としても存在する
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名称 |
化学式 |
主な所在 |
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ハロゲン化鉱物 (Halide Minerals) |
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岩塩(Halite) |
NaCl |
蒸発岩、隕石、台所 |
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カリ岩塩(Sylvine) |
KCl |
蒸発岩 |
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カーナル石(Carnallite) |
KCl・MgCl2・6H2O |
蒸発岩 |
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塩化アンモン石(Sal ammoniac) |
NH4Cl |
火山噴気孔、自然発火した炭層 |
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角銀鉱(Cerargyrite) |
AgCl |
銀鉱床酸化帯 |
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アタカマ鉱(Atacamite) |
Cu2(OH)3Cl |
銅鉱床酸化帯 |
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ローレンサイト(Lawrencite) |
(Fe,Ni)Cl2 |
隕石 |
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リン酸塩鉱物 (Phosphate Minerals) |
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リン灰石(Apatite) |
Ca5[(F,OH,Cl)(PO4)3] |
火成岩、堆積岩、変成岩、隕石、骨 |
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緑鉛鉱(Pyromorphite) |
Pb5[Cl(PO4)3] |
鉛鉱床酸化帯 |
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ケイ酸塩鉱物 (Silicate Minerals) |
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方ソーダ石(Sodalite) |
Na4Al3Si3O12Cl |
火成岩、隕石 |
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スカポライト(Scapolite) |
Na4Al3Si9O24Cl |
変成岩(斜長石+熱水)、隕石 |
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アンナイト(Annite) |
KFe3AlSi3O10(OH,F,Cl)2 |
変成岩、火成岩(黒雲母の端成分) |
3.塩素の工業的利用
a.
無機化学工業(塩素の工業的製法とそれに伴う同位体比変動)
・塩化ナトリウム(NaCl)
工業塩:塩素工業およびソーダ工業(水酸化ナトリウム等)の主原料
日本は需要約600万トン/年を全量輸入(海塩、岩塩等)
食塩:現在は需要の2/3をイオン交換膜法で国内生産
残りは岩塩等を輸入、ごく一部は伝統的な塩田による国内生産
・塩素(Cl2):塩素工業のもっとも重要な中間原料
単体のままで水道水の殺菌、パルプの漂白などに使用される
主に塩化ナトリウムの電解により製造される
・塩化水素(HCl):代表的な強酸として各種無機塩の製造、金属洗浄、溶媒などに用いられる
有機塩素化合物の合成原料として塩素と並んで重要
工業的には水素と塩素の直接反応あるいは塩化ナトリウムと硫酸の反応で得られる
・塩化カリウム (KCl):肥料、カリウム塩の原料
・塩素酸ナトリウム(NaClO3):マッチ、花火、除草剤、漂白剤などの原料
・次亜塩素酸ナトリウム(NaClO):漂白剤・殺菌剤(ブリーチ、カビ○ラー)
・過塩素酸アンモニウム(NH4ClO4):スペースシャトルブースター固体燃料(酸化剤)
b.有機化学工業
・フロン(以下のものが特定フロン、HCFCなどの代替フロンが開発中)
CFC11:ウレタン等の発泡剤、エアゾル噴射剤、冷媒(主に大型冷凍機)、半導体等洗浄
CFC12:発泡剤、冷媒(主にエアコン・冷蔵庫)、エアゾル噴射剤
CFC113:半導体等洗浄、発泡剤
CFC114:発泡剤、エアゾル噴射剤
CFC113:冷媒
・有機塩素系溶剤(有機塩素系溶剤の工業的合成法)
ジクロロメタン:溶媒(油脂・塗料・化学合成など)、洗浄剤、冷媒
四塩化炭素:不燃性溶剤、化学原料(フロン・塩素化ゴム・ホスゲンなど)
トリクロロエチレン: 洗浄剤(機械など)、溶剤、抽出剤、フロン原料
テトラクロロエチレン:溶剤、洗浄剤(ドライクリーニング・金属など)、フロン原料
1,1-ジクロロエタン:洗浄剤、溶剤、化学原料(塩化ビニル・エチレンジアミンなど)
1,1,1-トリクロロエタン:洗浄剤(機械・電子部品・ドライクリーニング)、接着剤
・塩素系農薬(おおよその化学構造ごとに示す)
ヘキサクロロベンゼン(HCB):殺菌剤・有機合成原料、化審法第一種特定化学物質
(パラジクロロベンゼン:衣類用防虫剤)
ペンタクロロフェノール(PCP):防腐剤(木材等)・除草剤・殺菌剤
ニトロフェン:除草剤
シマジン(CAT):除草剤、水質環境基準健康項目、トリアジン系
DDT:殺虫剤・シロアリ駆除剤、化審法第一種特定化学物質
メトキシクロル:殺虫剤
ジコホル:(ケルセン):殺ダニ剤
アルドリン、エンドリン:殺虫剤、化審法第一種特定化学物質
クロルデン、ディルドリン、ヘプタクロル:殺虫剤・シロアリ駆除剤、化審法第一種特定化学物質
エンドスルファン:殺虫剤
2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T) 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D):除草剤(枯葉剤)
アラクロール:除草剤
ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH,BHC):殺虫剤・木材防腐剤・シロアリ駆除剤
マイレックス、トキサフェン:殺虫剤
1,3-ジクロロプロぺン:土壌薫蒸剤、水質環境基準健康項目
1,2-ジブロモ-3-クロロプロパン(DBCP):殺線虫剤
・PCB(日本では1972年生産・使用禁止)
熱媒体、プラスチック添加剤、電気絶縁体(変圧器など)、感圧複写紙
・塩素系プラスチック(軟質ポリ塩化ビニルは、ポリ塩化ビニルに可塑剤を添加したもの)
軟質ポリ塩化ビニル:フィルム(ビニルハウス・雨具・壁紙他)、電線被覆、
合成皮革、履き物、玩具、消しゴム、食品サンプルなど
硬質ポリ塩化ビニル:建築資材(水道管、天井・屋根材、とい他)、食品包装
(卵・果物パック、しょうゆ容器他)、レコードなど
ポリ塩化ビニリデン(主に塩化ビニルとの共重合体):食品包装用ラップ、防虫ネット
a.
フロン(CFC12等)
・用途 エアコン・冷蔵庫の冷媒、ウレタンの発泡剤、エアゾル噴射剤、半導体洗浄など
・作用 オゾン層破壊(成層圏)、温室効果
・事例 南極(・北極)上空のオゾンホール、紫外線による皮膚ガンリスク増大
b.トリハロメタン(クロロホルム等)
・用途 非意図生成物:水道原水の塩素消毒で生成、(有機溶剤、麻酔剤)
・作用 肝障害、発ガン性
・事例 水道水利用者の発ガンリスク増大
c.有機塩素系溶剤(トリクロロエチレン、四塩化炭素等)
・用途 金属部品・半導体等の洗浄、ドライクリーニングなど
・作用 神経系障害(麻酔作用)、肝。腎臓障害、(発ガン性)、(オゾン層破壊)
・事例 不法投棄廃棄物等による土壌・地下水汚染、井戸水飲用者の発ガンリスク増大
d.塩素系農薬(DDT・HCH等)
・用途 農業害虫・病原体媒介生物などの駆除
・作用 神経系障害、肝・腎臓障害、皮膚障害、造血器障害、(内分泌系攪乱)
・事例 鳥類・は虫類などの生殖障害
e.PCB
・用途 絶縁体、感圧紙、熱媒体など
・作用 皮膚障害(クロロアクネ等)、消化器障害、肝障害、発ガン性?、内分泌系攪乱?
・事例 カネミ油症(現在では微量に含まれていたダイオキシン類が主原因とされる)
f.ダイオキシン類(PCDD・PCDF・コプラナーPCB)
・用途 非意図生成物:廃棄物焼却、農薬の製造過程、パルプの塩素漂白などで微量副生
・作用 クロロアクネ、消耗症候群(急性毒性)、発ガン性、生殖毒性(催奇形性・内分泌攪乱?)
・事例 カネミ油症、セベソ(イタリア)の化学プラント爆発事故
g.塩素系プラスチック(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン)
・用途 水道管、食品包装用ラップ、消しゴムなど
・作用 焼却により塩化水素ガス・ダイオキシン発生
ダイオキシン発生に対する寄与については諸説あるが、塩分を含む生ゴミの焼却
でもダイオキシンは発生する
ただし廃棄プラスチックのエネルギーリサイクルを困難にしていることも事実
a.浸透圧の調整
生命の誕生した海洋において塩化物イオンが主要なイオン種であったことから、生物も体内に海水に近い濃度の塩化物イオンを保持している
海洋生物の体液は0.19〜0.21%、陸上動物では0.12%程度の塩化物イオンを含むが、飽和に近い塩溶液中で生育する好塩性細菌の細胞内液中の塩化物イオン濃度は10%以上に達する
また、体内のpH調整などにも重要な役割を果たしている(例:胃液はpH1〜2の塩酸を含む)
b.無機塩素化合物の関与する生体反応
・ミエロペルオキシターゼ
多形核白血球に含まれるヘム酵素の一種で
Cl-+H2O2+H+→HClO+H2Oの反応を触媒
上記反応で生成する次亜塩素酸が異物(細菌等)の攻撃に用いられる
・過塩素酸塩の電子受容体としての利用
ある種の細菌群はClO4-を最終電子受容体(すなわち酸化剤、通常の生物では酸素)として炭化水素を資化することができる(Coates
et al. (1998) Nature, 396, 730)
c.有機塩素化合物の生合成
・海洋生物などによるクロロメタン(CH3Cl)の生成
藻類や木材腐朽菌では、s-アデノシルメチオニンがメチル供与体となりクロロメタンが合成される(Rhew et
al. (2000) Nature 403, 292)
一方腐植と三価の鉄イオン、塩化物イオンから非生物的にクロロメタンが合成されるという報告もある(Keppler
et al. (2000) Nature 403, 298)
・森林土壌などからのトリハロメタン類の発生
菌類のクロロペルオキシダーゼにより生成した次亜塩素酸等が腐植と反応してトリハロメチル基が生成、それが加水分解することでトリクロロメタン(クロロホルム)・ジクロロブロモメタン・1,1,1-トリクロロエタン(メチルクロロホルム)が発生する(Hoekstra
et al. (1998) Environ. Sci. Technol., 32, 3724)
クロロペルオキシダーゼ活性:X-+H2O2+H+→HXO+H2O
(X:Cl or Br)
海藻の場合は腐植の代わりにケト酸との反応でジブロモクロロメタン、トリブロモメタンなどが生じる
・塩素を含む抗生物質
放線菌(Streptomices)がクロラムフェニコール(クロロマイセチン)、クロルテトラサイクリン(オーレオマイシン)などの抗生物質を産生するほか、菌類・藻類は多様な有機塩素化合物を(おそらく生体防御のため)生合成する
トリハロメタンと同様に、ハロペルオキシダーゼにより生じた次亜塩素酸が非酵素的に反応して有機塩素化合物が合成されるものとされる
d.合成有機塩素化合物の生分解(Fetzner
et al. (1998) Appl. Microbiol. Biotechnol.,50,633などによる)
有機塩素化合物は、共代謝(通常の代謝の副反応として起こるが生体には特に利益はない)、解毒作用、炭素源・エネルギー源(有機塩素呼吸など:後述)としての利用などの代謝作用を受けるが、おそらく後者ほどより進化した形態の代謝であろう
・酸素添加反応による分解(トリクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロ安息香酸など)
いくつかの酸素添加酵素(メタンモノオキシゲナーゼ、トルエン2,3-ジオキシゲナーゼ、アンモニアモノオキシゲナーゼなど)は基質特異性が広く、本来の基質ではない有機塩素化合物に酸素原子を挿入する反応を触媒し、その結果不安定なエポキシド・ハロヒドリンなどが生じて自動的に分解反応が起こる
一般には、該当する酵素を持つメタン酸化細菌、芳香族資化性細菌、アンモニア酸化細菌などの好気性細菌の共代謝による反応である
なお、動物の体内でも主に肝臓中で化学物質の解毒作用を担う酵素P-450によって同様の反応が触媒されるが、有機塩素化合物より生じる活性な中間体が周囲の生体分子と結合することでかえって毒性が発現される場合がある
・嫌気的脱塩素反応(テトラクロロエチレン、四塩化炭素、PCBなど)
ある種の嫌気性菌(メタン生成菌、硫酸還元菌の一部)は様々な有機塩素化合物中の塩素原子を水素原子に置換する反応を行う
単なる共代謝である場合と、有機塩素化合物を最終電子受容体として利用する「有機塩素呼吸」の場合がある(Maymo-Gatell
et al. (1997) Science,276,1568)
有機塩素化合物とその脱塩素生成物の酸化還元対の電位はかなり高く、そのために電子伝達系からの電子が漏れている(電子伝達に関与する補酵素などが有機塩素化合物によって酸化される)状態が共代謝であるといえる
その後、そのプロセスを積極的にエネルギー獲得手段として利用するに至ったものが有機塩素呼吸であると考えられる
解毒に関与する酵素P-450も嫌気条件下ではこの反応を触媒する
・脱塩化水素反応(γ-HCHなど)
塩素原子と炭素原子を2つ隔てた水素原子が塩化水素として脱離し、炭素=炭素二重結合が残る反応
・加水分解的脱塩素反応(クロロカルボン酸、1,2-ジクロロエタンなど)
デハロゲナーゼにより触媒される塩素原子が水酸基に置換される反応
・チオール基との置換反応による脱塩素反応(ジクロロメタンなど)
ある種のメチロトローフ(メタノールなどのC1化合物を資化する微生物)はグルタチオンによる塩素の求核置換反応によりジクロロメタンからホルムアルデヒドを生成し、これを資化することができる
動物の体内でも解毒作用として同様のグルタチオンによる包合体生成反応が起こるが、1,2-ジクロロエタンからは発ガン性の生成物(化学兵器のイペリットに構造が類似)を生じる
e.その他塩素に関連する生体反応
・ハロロドプシン
好塩性細菌の膜タンパク質であるハロロドプシンに光が当たると、塩化物イオンが細胞内に輸送されて膜電位が生じる
膜電位は化学エネルギー(ATP)に変換されることから、一種の(原始的な)光合成反応といえる
・アミラーゼ
動物のα-アミラーゼ(デンプン、グリコーゲンを分解する酵素)は塩化物イオンの存在下で活性を示す
・光合成
緑色植物の光合成(酸素発生)には塩化物イオンが必須とされる
・無機塩素化合物の毒性
塩素ガス:酸化作用が強く、粘膜を刺激 第一次世界大戦などで毒ガスとして使用された
塩化水素:強酸性のため皮膚・粘膜を刺激、多量では肺水腫
ホスゲン(COCl2):肺で塩化水素が生じることで肺水腫を起こす 毒ガスとしての使用例あり
塩素酸塩:植物の窒素源である硝酸塩と構造が類似するため競争関係にあり,除草剤として用いられる
・有機塩素化合物の毒性
様々な毒性発現機構、症状が知られている(4章、5-d章などを参照のこと)
6.塩素の分析法
a.重量法:AgClとして沈殿させ秤量
b.容量法:モール法(K2CrO4を指示薬としてAgNO3で滴定)など
c.吸光光度法:チオチアン酸水銀法(Cl-により遊離したSCN-がFe3+と発色)など
d.イオン電極法:AgCl+Ag2Sを感応膜とするイオン選択性電極を用いる
e.イオンクロマトグラフィー:陰イオン交換樹脂カラムを用いたHPLCで分析
f.中性子放射化分析:37Clの中性子照射により生じる38Clからのγ線を測定
g.同位体希釈法:37Clスパイクを加え、表面電離型質量分析計を用いてAgClより生じるCl-を測定
h.EPMA:表面研磨試料に電子線を当て、発生する特異X線を測定
i.SIMS:表面研磨試料にCs+等を当て、発生する35Cl+または35Cl-を質量分析計で測定
7.参考資料
・理科年表(丸善)
・理化学辞典(岩波書店)
・Web
Elements (http://www.shef.ac.uk/~chem/web-elements/)
・地学事典(平凡社)
・10889の化学商品 (化学工業日報社)
・新版 溶剤ポケットブック(オーム社)
・環境科学辞典(東京化学同人)
・生化学辞典(東京化学同人)
・分析化学便覧(丸善)
・地質調査所標準岩石データベース
(http://www.aist.go.jp/RIODB/geostand/welcomej.html)