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銀光に舞えよ不死鳥

    序章    白銀   

       
 

「レヴァンティン、カートリッジロード!」
Explosionエクスプロズィオーン.”
(まるで、悲鳴だな  
 頼もしい筈の戦友、彼女が握るレヴァンティンの返答でさえ、今のシグナムにはそう聞こえていた。
 炸裂音と共に、カートリッジが煙を上げて排出される。
 常ならば心を奮わせるはずであるその音色も、今のシグナムには耳障りなきしみ音だとしか感じられなかった。
 レヴァンティンの刀身に組み込まれたカートリッジシステムが駆動し、多大な魔力が駆けめぐっていく。
「紫電  
 雑念を斬り捨て、シグナムは己が技の名前を口にする。
 膨大な魔力を圧縮封印した弾体をロードし、炸裂した魔力をもって瞬間的に膨大な魔力を得るカートリッジシステム。発生した魔力をそのまま刀身に注ぎ込むことによって、レヴァンティンはその名の通り炎の魔剣と化す。
 放つのは、かつてフェイトが手にしていたバルディッシュですら難なく叩き斬ってみせた、シグナムが誇る奥義の一つ。
  一閃!」
 だが。
(駄目だ、これでは足りない)
 シグナムは剣を振り下ろしながら、絶望していた。
 苦し紛れに放った紫電一閃では、結局牽制にすらなりはしない。カートリッジロードに必要なほんの一瞬。その隙が、敵の態勢を万全にしてしまう。
 『敵』  そう、シグナムの前にいるのは模擬戦の相手でもなければ、叩き伏せるべき獲物でもない。血を流し肉を切り裂いて命を削りあう、敵。それは白銀に光る瞳を持ち、白銀の双剣を握る女性。強力なベルカの騎士であるシグナムさえ圧倒する、剣士。
 いま、シグナムは死闘のさなかにあった。
(いくら必殺の一撃でも、当たらねば意味はない  っ)
 歯噛みする。
 レヴァンティンが切り裂いたのは何もない空間だった。
「ちいっ」
 背筋の一点が総毛立つ。
 シグナムの敵である剣士が放つ気配が、視覚以上の確かさでその存在を告げる。
 それが天空の高みから一本の矢となって、シグナムを貫くべく舞い落ちてくると。
 殺気には己の居場所を隠そうとする意志など微塵も感じられない。弱い人間ならそれだけで死を悟り、意識を切ってしまうだろう。だがシグナムはその程度でどうにかなるような騎士ではない。
 戦闘者としての本能が、降りかかってくる殺気から身を守るべく反応する。
 だが、レヴァンティンを振り切ってしまったこの態勢では、剣での防御などできはしない。シグナムはとっさに左手で鞘を握り、横転するように身をひねりながら襲いかかってくる攻撃を受け止めた。
 耳をつんざくのは、背筋が凍るような破砕音。
 ただの一撃で、シグナムの身を護るべき魔力障壁はあっさりと砕け散っていた。鞘で防御していなければ、シグナムの体はまっぷたつにされていたかもしれない。非殺傷設定の魔力攻撃ではない、本気の物理破壊。それは容赦なくシグナムを叩き殺すための一撃だ。
「ツヴァイハンダー!? いつの間にっ  
 いつの間にか一本の巨大な剣に変形していたそれは、圧倒的な破壊力でシグナムの防御を浸食していた。
 長大な柄を持つ、長柄武器ポールアームにも似た両手剣。全長は二メートルにも達するだろう。かなりの長さを持つ柄と鍔のその先に、さらに長い刀身の根本が続き、十字型の突起が存在するその先にようやく刃が現れるという独特の形状は、この世界でも実在した剣の形によく似ている。
 むろんそれはこけおどしでも何でもなく、絶大なる威力を持っていた。
 かつてフェイト・テスタロッサが振るった、バルディッシュアサルト・ハーケンフォームによる強烈きわまりない一撃。それをやすやすと食い止めてみせたレヴァンティンの鞘が、今は限界を訴えるようにぎしぎしと呻く。防御障壁が無ければ、砕けていたのはこの鞘だっただろう。
 数日前、ヴィータとザフィーラもこの形態の前に防御壁を破られ、倒れている。
 盾の守護獣という銘を持つザフィーラの防御壁でさえあっさり打ち破った技だ。シグナムでは防御しきれないのは明白だった。
 鞘にはまだ目に見えるダメージが有るわけではない。だが無傷というわけでもないだろう。このままただ受け続ければ、いずれ外殻ごと破壊される。
  くっ!」
 握り直したレヴァンティンを、シグナムは振るう。
 未だその刀身には炎が残っていた。これだけの魔力が有れば充分相手の刃を叩き折れるはずだ。ツヴァイハンダーフォルムを取った相手はひどく鈍重になる。この一撃を回避することはできまい。
 しかし  
  取った!?)
 柄を伝わる手応えに、シグナムは一瞬困惑すら覚えた。
 この強敵がこうもあっさり隙を許すとは。だが、確かに彼女の紫電一閃は両手剣ツヴァイハンダーを確かに捉えている。その刃は、間違いなくその長大な刀身を真ん中から切断しようとしていた。
  真ん中、から!?」
 シグナムがあげたのは狼狽の声。
Zweischwertformツヴァイシュベルトフォルム
 玲瓏な女性の声が、シグナムの狼狽を肯定する。
 巨大な両手剣はあっさりとまっぷたつになった。
 元々が二つの剣を繋げたようなその外観と相まって、まるで剣が二本になったかのようにさえ見える  いや、それは確かに二本の剣となっていた。
 刃身の根元、刃の無かったその部分が二つに分かれて柄となり、かつて柄だった部分が瞬時にもう一つの刃へと変わる。さらには刀身と同時に長い鍔も引き込まれ、そのフォルムはひどくシンプルな物へと変化する。今や剣士が握るのはふた振りの剣。白銀の輝きを放つ、ほんのわずかに反った片刃の剣  双剣ツヴァイシュベルト。それはそのデバイスの持つ基本形態だ。レヴァンティンが食い込んだのは、両手剣に変形するさいに二つの剣が接続する、そのつなぎ目でしかない。当然、ダメージなど有りはしないだろう。
 たまたまその場所に当たったというわけでは、決してない。相手の剣士がそのように仕向けたのだ。
 誘い込まれたのだと、シグナムは今更のように悟る。
 最初から双剣で飛びかかられたのであれば、シグナムは防御もそこそこに跳びすさって間合いを取り直していただろう。双剣形態ならば多少かすってもダメージは限られる。今のシグナムが近距離戦をいやがっているからこそ、かすめただけでも大きな被害を与えられる大威力形態による突撃で飛び込んできたのだ。
 互いの胸倉すらつかみ合えそうなその距離は、剣での斬り合いより殴り合いの方がふさわしいとさえ思える。シグナムの持つレヴァンティンには、明らかに不利な距離だった。
もともとシグナムは近距離戦闘から中距離戦闘までを得意にする。格闘の技術スキルも持っていないわけではないが、これほどの至近戦ではとれる戦術の幅も限られてしまうゆえ、あまり好ましい距離だとは言えなかった。
「レヴァンティン!」
(無様な)
 シグナムは愛剣の名を叫びながら、自分を嗤う。
  悲鳴を上げているのは他でもない、私自身ではないか)
Panzergeistパンツァーガイスト.”
 レヴァンティンは主の命に従って防御魔法を再発動する。
 強力なツヴァイハンダーフォルムによる攻撃であればともかく、双剣による通常斬撃程度なら凌げるだろう。そうすれば、ほとんどダメージ無しに再びシグナムの間合いを取り戻すことが出来る。
(取り戻して、どうする)
 シグナムは思わず自問していた。
 速度では明らかに圧倒されている。距離を取ることが出来ても、そのまま逃げ出すことは難しいだろう。
(逃げ出す、か)
 かつてフェイトと戦ったときには、その選択肢を口にすることにためらいはしなかった。
 だが、今のシグナムにとってそれは禁忌に近い言葉に思えた。
 故に、迷う。
 だが、シグナムの迷いなど知ったことではないとでも言うように、刃は鋭く一直線の軌道を描いてシグナムの胸元へと飛び込んでくる。
「ちっ!」
 シグナムはレヴァンティンを巡らせ、その軌道を遮ろうとする。
 だが。
「く  っ」
 刃は、まるでレヴァンティンなど無かったかのようにまっすぐな軌道を維持したまま、シグナムの肩先を掠めていた。
 魔力障壁と干渉した白銀の刃は、激しい火花を周囲に散らす。
(また、これかっ!)
 これで何度目になるかわからない。
 シグナムの防御を、まるで無い物のようにすり抜けてくる攻撃。そのいくつかは、魔力障壁すら打ち貫いて、彼女の身体に傷を残している。
 防御を抜けるよう攻撃を放つのは、もちろん当然のことだ。
 だが、今シグナムを襲っている刃は、それとは微妙にわけが違う。
 彼女とて一流の剣士だ。攻め手だけではなく、防御の技にもそれなりの自負がある。たとえ速度で圧倒されようとも、防御に徹すれば抜かれない、その自信があった。
 だというのに、目の前の剣士はそれをこともなげに抜けてくる。
 防御魔法とはやてから授けられた騎士甲冑の二つがなければ、今頃は血まみれになって倒れていただろう。
 更に右から円弧を描いて飛んで来た斬撃は、かろうじて篭手の肘で弾いた。
 それでも、完全に防げたとは言い難い。本来であれば肘で止めているつもりだった一手だ。弾いただけでは相手の連撃が止まらない。
 それでもとっさに弾けただけ良かった方だ。シグナムの本能が反応しきれていなければ、刃は篭手スレスレの軌道を描いてシグナムの首元まで届いていただろう。防御障壁と騎士甲冑があるかぎりそのまま首を斬り落とされるようなことはないが、何度もくらい続けていればそれもわからなくなる。
 この距離は、シグナムにとって不利だった。
 遠ければ、連撃回数も少なくなる。防御を抜けてくる攻撃もそれだけ少なくなるだろう。反撃をする間もあるだろう。だが、今はただ連撃を凌ぐ以外の行動が取れない。うかつに反撃をしてしまえば、その隙につけいられる。今相手にしているのはそれほどの敵だ。
 今は、耐えるしかない。
 削られた防御障壁が飛び散らせる火花を視界に捉えながら、シグナムはぎりと奥歯を咬んだ。
 わかっていたはずだった。
 この戦闘においては、防御など容易に崩されることなど。
 完全な防御に徹しても、あっさりと無いはずの隙間を抜けられる。そんなことは充分に承知していたつもりだった。けれど、結果として今彼女はその状態に陥っている。
(わかっているつもりになっていただけだったのか、私は)
 己の無様を、シグナムは叱咤した。
 そうしている間にも、無数の斬撃がシグナムに襲いかかり、その防御を削っていく。障壁にも、甲冑にも、既に無数の綻びが見え始めている。致命的ではないし、いつでも修復は可能だが、その修復に必要な数秒ほどの時間でさえ今のシグナムには与えられていない。
 もう何度打ち込まれたのだろうか。これでは、先にシグナムの方が限界に達してしまう。多少強引にでも、強打を放って間合いを放つしかない。
 そう。強力な一撃こそが必要だ。半端な攻撃は、逆につけいらせる隙を作ってしまうだけ。この距離でも充分な威力を持つ、最強の斬撃をもって切り払う。今のシグナムに残された選択肢はそれだけだ。
 シグナムは覚悟を決めた。
 レヴァンティンを鞘に収め、防御力を高めたそれで横薙ぎの一撃を防ぐ。レヴァンティン収納によって通常より強固になった鞘をもって、シグナムは全力でその斬撃をはじき返した。
 だが、それでも敵は揺るがない。
 もとより、シグナムとてそれで相手を揺るがせるなどと考えてはいない。
 片方の刃が宙に泳いでも、残るもう一刀がある。不十分な体勢のために威力は充分ではなくなるだろうが、それでも攻撃が途切れることは無い。むしろ今の全力防御でシグナムの防御にこそ隙が出来る。全く間をおかずに、鋭い突きが、眉間へ向けて伸びてくる。狙うべきは、その一撃。
「うおおおおおっ!」
 レヴァンティンの柄から離した手を、突き上げる。
 防御のためでもなく、攻撃のためでもなく、ただ一つの目的を果たすため。
 シグナムの目前で、視界の全てを埋め尽くすほどの火花が散った。
 眼前の防御障壁が、鋭い刃に抉られていく。止めきれなかった衝撃がシグナムの眉間に小さな傷を刻む。
 持って数秒。障壁を抜ければ、刃は間違いなくシグナムの頭蓋を貫くだろう。
 だが、その数秒を待つ必要はない。
「取った!」
 シグナムの手は、しっかりと目標を捉えていた。
 白銀の刃を。
 本来なら素手で握りしめられる物ではない。手のひらに小さな、しかし分厚い障壁を作っているからこそ出来る芸当だ。それでも障壁どうしの干渉で抜けてきた熱量に手のひらが灼けている。障壁で防護しているはずなのに、刃はゆっくり肉に食い込んでくる。
 躊躇の間はない。
 もとより、必要ない。
 捉えた刀身をぐいと引き寄せながら、シグナムは左手に握った鞘を全力で突いた。
  がっ!」
 間近にあってシグナムを睨み付けていた敵の瞳が、大きく広がった。
 この戦闘では初めて聞く、シグナムのものではないうめき声。その手にもはっきりと重い手応えが返ってくる。シグナムが捉えた刃から手応えが抜ける。
 敵の喉元ちかくにレヴァンティンの柄が食い込んでいた。単なる柄尻での一撃だ。障壁を破れるほどの攻撃ではない。ダメージなど微々たる物だろう。虚を突き、ただ相手を怯ませた程度の一撃でしかない。
 もとよりそんな事までは期待していない。
 わずかなその隙で、充分。
 もはや敵の手から離れた刃を投げ捨て、彼女は己の剣へと素早く手を伸ばした。
「レヴァンティン!」
Jawohlヤヴォール!”
 主たる騎士の雄叫びに、鞘に収めたレヴァンティンも力強く答える。
 シグナムは鮮血まみれの手で、ためらいもせずレヴァンティンの柄を握りしめた。
 焼けただれた手のひらが、切り裂かれた指が痛みを訴える。だが、シグナムの騎士として鍛え上げられた精神はそれを押し殺す。今必要なのは、己の意志に従う肉体のみ。苦痛など必要ないと。
 閃光のごとき抜刀。
 シグナムがレヴァンティンを抜くと同時に、レヴァンティンはカートリッジをロードする。細かい指示を出す必要など、シグナムには無かった。
 紫電一閃。
 この距離、このタイミングで放てる技はやはりこの一撃のみ。
 完全に虚を突かれ体勢を崩してしまっている状態では、どのような体術の持ち主でも、この一撃をかわしきることはできまい。彼女が知る限り最速の機動力を持つあのフェイト・テスタロッサにも回避されない自信が、シグナムにはあった。
 もちろんシグナムの体勢も完全ではないがゆえに、この一撃だけで勝負が決まることはない。だが、勝負の流れを変えるには充分な打撃になる。
   筈だった。
 鼻先がぶつかりそうなほど近くにあって、シグナムを睨み付けていた銀色の瞳。その色が、一瞬変化した  少なくともシグナムにはそう見えた。
 必殺の威力を持ったレヴァンティンが、炎の弧を描く。
 完全な状況だった。回避などあり得ない。回避するような動作も、シグナムには見えなかった。
 だが、シグナムの手に手応えは無い。
「馬鹿なっ!?」
 敵の姿は、数メートルほど離れた場所にあった。
 レヴァンティンを振り抜くその瞬間まで、シグナムは瞬き一つせず正面を見据えていた。だというのに、彼女は回避の動作を捉えることが出来なかった。
 ただ必殺の斬撃をかわされた。その事実だけしかシグナムには認識出来ない。
 斬ろうとしたのが残像や幻像のたぐいだったわけでもない。その程度のペテンに誤魔化されるほど、彼女は未熟な騎士ではない。
 確かに、斬ったはずだ。
 なのに、かわされた。
 シグナムは何が起こったか認識しながらも、理解する事を一瞬拒んでしまった。
 とまどいは、致命的な隙を生む。
 残った双剣の片割れが、大きく引かれる。その切っ先はシグナムの胸元を正確に指し、空いた方の手はカタパルト台のように大きく前に突き出されている。
 シリンダーの開閉音と共に、敵の手にあった白銀の剣からカートリッジが吐き出される。
Glanzangriffグランツアングリフ.”
 感情を感じさせない声が、攻撃の一手を宣言した。
 白い輝きが、白銀の剣を覆った。
 螺旋を描いたそれは、収束して刀身へと吸い込まれてゆく。
 なんの色味もない、ぞっとするほどに白い光が周辺から色さえ奪っていくような錯覚に、シグナムは襲われていた。
「くっ!」
 あわててシグナムは体勢を立て直す。
 敵の姿がぶれた。
 シグナムには消えたようにしか見えない機動。ほとんど本能的に、シグナムは防御の姿勢を取ろうとした。
 激しい衝撃が、閃光と共にシグナムを襲う。
 収束された光が、怒濤のようにはじき出され、シグナムの防御盾を貫く。
「な  っ!」
 耐えたのは、わずかにコンマ数秒程度の時間。
 激しい衝撃に、シグナムの意識はあっけなく吹き飛ばされていた。



「……く……ぅ」
 暗闇の中で、シグナムは呻いた。
 回復した視界の中でちらちらと輝いているのは、遙かな時間と空間を越えてたどり着いた、彼方にある星々の吹き上げる炎。
 だが、見える空は狭い。
 一文字に切り裂かれた裂け目から、辛うじて覗いているだけだ。
「……ここは」
 意識が飛んだのは、ほんの数秒だけだったらしい。
 シグナムを撃った光の余波に灼かれたのだろう周辺の瓦礫が、まだぶすぶすと唸っている。
 半ばほど埋まっていた瓦礫の山からのろのろと身を起こしながら、シグナムは小さく呻いた。激痛に顔を歪める。騎士甲冑は砕かれ、灼かれ、ずたずたになっている。その下にある身体もやけどと出血でひどいありさまだ。痛みの様子からすれば、肋骨も数本まとめて折れているだろう。
「まだ……私は生きているのか」
 ダメージは浅くない。だが、それでもまだシグナムは生きていた。
 狭い空を覗かせる裂け目は、シグナムを撃ったエネルギーの余波による物か。鉄筋コンクリートの壁を何枚もシグナムごとぶち抜いていてなおその威力。
 防御も出来ずに食らっていたならば、戦闘不能になるどころ消し飛んでいたかもしれない。その威力はレヴァンティンの紫電一閃すら凌いでいる。
 勝てなかった。一対一だったというのに、ベルカの騎士たる自分がなすすべもなく敗北した。
 その事実が、彼女を打ちのめす。
 即席の吹き抜けから差し込んできた冷たい光に、シグナムはふと顔を上げる。満月が、狭い空に割り込んできていた。
 白銀の、月が。
 その月を背に、小さな影が浮かんでいる。
 それは白銀に輝く剣を手にした女性。たった今シグナムをたたき落とした『敵』。
 身長も、体格も、そして剣士として生きてきた年月すらシグナムには及ばない。
 だが、そんな彼女が振るう技にシグナムは圧倒された。本来ならば交えるはずもなかった剣を交えた結果、敗北した。
「小太刀二刀」
 一度手放した左の一刀が飛来し、かざしたその手へと収まる。
「御神流  射抜いぬき
 シグナムを撃墜した技の名が、小さく呟かれる。
 小太刀二刀を用いた遠距離からの突撃技。超高速かつ無数に変化する突撃に『神速』を併用することで、相手は防御も反撃も回避もならないまま、ただ無為に貫かれる的となる。
 恐るべき技を若くして使いこなしてみせた剣士は、銀色の瞳でじっと彼女を見下ろしている。



 高町美由希。それがシグナムを撃ち落としてみせた若き剣士の名。


銀光に舞えよ不死鳥  序章    白銀    


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序章 あとがき

魔法少女リリカルなのはA's小説。はじめました。
主人公はシグナムさんです。決して美由希ではありません。いや、そりゃ俺美由希スキーですが、これはあくまでシグナムさんが主人公のお話です。
いきなり原作キャラの美由希がシグナムより強いという展開で始まりましたが……あ、いきなり回れ右しないでくださいね……話の設定上こうなっているだけなのでご安心ください。
徹底的にバトル寄りの熱いお話になる予定です。


短期集中連載という形を取ることになりますので、どうかごひいきのほどよろしくお願いしたく存じます。

RF/noをお待ちの方には申し訳ないのですが、もう更にしばらくお待ちください。



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 公開開始 2006/5/28