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銀光に舞えよ不死鳥

     最終章 / エピローグ  

       
 

 

「たあっ     せやっ!」
「はっ! おおっ!」


 高町家の朝は早い。
 道場では朝早くから木刀の打ち合わされる音が響いている。それは毎日のように繰り返される光景で、今日もそれは変わらなかった。
 ただ、この日はちょっとだけ事情が違う。
 眼鏡を外した美由希と木刀を打ち合っているのは、彼女の師である恭也ではなかった。
 ひときわ甲高い音と共に、二人の剣士ははじかれたように距離を取る。
「やるね、シグナムさん!」
 二刀を構えたまま、美由希は笑う。
「そちらもな。ますます、太刀筋が鋭くなった」
 剣を下段から上段の構えに移行させながら、シグナムも微笑を浮かべた。
白銀ズィルバー事件』以降、こうやってシグナムは何度も高町家に足を運ぶようになっていた。
 さすがに毎日というわけではないが、多いときは週に一度以上、こうやって高町家の道場か、神社の境内で手合わせをする。そのときの相手は多くが美由希だったが、たまには恭也とも剣を交える。そんな交流を、シグナムは楽しんでいた。
 御神流の剣士は、間違いなく強力きわまりない。御神流を最強と評するものもいるようだが、それも過言ではないと剣を交えるシグナムは思う。そんな剣士達との手合わせは、シグナムにとってこれ以上ない鍛錬となっている。
 そして、それは高町兄妹も同様だ。
 日本に伝わる剣術に似ていながら、それ以上のものを持つシグナムの剣。
 多くの実戦を経た彼女と手合わせすることは、高町兄妹の修行にとって、今やなくてはならないものになりつつある。
 最近は、その手合わせにフェイトも時折混じるようになっていた。
 クロノなどは、半ば本気で教導部隊に御神流の剣士を招くことが出来ないか検討までしていたくらいだ。さすがに、それは恭也が辞退したのだが。

   ◇   ◇   ◇

 

「お疲れ様、シグナムさん。これ、かーさんからの差し入れ」
 まだ少しばかり息の荒い美由希が差し出してきたドリンクと菓子を、シグナムは軽く礼を言いながら受け取った。
 これも、最近のシグナムにとってはちょっとした楽しみだ。
 はやてが用意してくれる食事はもちろん文句なく美味なのだが、プロのパティシエである高町桃子が作るスイーツは、間違いなくはやてのそれを数段しのぐ。
 美由希によると、彼女が作る食事も同様のレベルで、それを知ったはやては、ときどき桃子に料理のこつを聞いてみたいと漏らしたりしている。
 今日のスイーツはシンプルなシュークリームだった。
 シンプルであるが故に、ごまかしがきかないとも言える。
 むろん、桃子のつくったそれは今日もパーフェクトといっていい出来だった。

「そういえば、そろそろ研ぎに出さないといけないんだっけ……」
 シグナムの隣で休憩していた美由希が、ふと思い出したように自分の小太刀を手に取った。
 口に懐紙をくわえた美由希は、鞘から刃を抜いて、その刃先をじっと見つめる。
「うーん……やっぱり出しておいた方がいいか」
 小太刀を戻した美由希は、不満そうに漏らした。
 少し離れて見る分にはほとんど問題がないようにも見えるが、美由希にとってはじゅうぶん不満のある状態らしい。
「美由希、ちょっとその小太刀を見せてもらえないだろうか」
 ふだんはあまり他人の武器に興味など持たないたちだが、それはちょっとした気まぐれ以上のものだった。
 美由希に倣って、刃に息を吹きかけないよう懐紙を口にし、小太刀をじっと観察する。
 無銘の剣だと美由希は謙遜したが、充分な名刀だとシグナムには思えた。
 芸術品となりうる装飾用の剣ではない。実戦に用いるそれは、飾り気のない質実剛健そのもの。だが、だからこそその剣にはその剣なりの美がある。そう、シグナムは感じた。
「ありがとう、良い物を見せてもらった」
 礼を言いながら、シグナムは小太刀を美由希に返す。
「そ、それほどのものでもないと思うんだけど……えと、そうだ、その……」
 小太刀を受け取った美由希は、何かをちょっと口ごもった。
「……ん。なんだ?」
「もし、よかったら、シグナムさんのレヴァンティンも、ちょっと見せてもらえない……かな?」
 美由希の視線は、シグナムの胸元に揺れる待機状態のレヴァンティンに向けられていた。
 シグナムはあずかり知らぬことだったが、実は美由希は刃物オタクだったりする。
 きっと、ずいぶん前から気になっていたに違いない。
「だ、そうだ。レヴァンティン、いいか?」
“Ja.”
 返事に不快そうな響きはなかった。
 それを確認したシグナムは、レヴァンティンをシュベルトフォルムに展開させ、美由希に手渡した。

「わ……レヴァンティンって意外に重くないんだね」
 無骨なカートリッジシステムが組み込んであるために、美由希はもう少し重いと予想していたのだろう。
 だが、実際には見た目ほどの重量を感じないはずだ。
 魔法によって重量を軽減されているのもあるのだが、レヴァンティンを構築した先人の技術によるものもあるのだろう。バランスの良さが、レヴァンティンの取り回しを絶妙なものにさせている。
「ためしに振るってみても構わないぞ」
「え、いいの?」
「ああ。むしろ、私が見てみたいくらいだ」
 シグナムの言葉に、美由希は照れながら道場の中央に移動し、レヴァンティンの柄をしっかりと握りなおした。
 まずは青眼に構え、そのまま縦に一閃。
 空気が切り裂かれる心地よい音色が、シグナムの耳にもはっきりと届く。
 もちろん、彼女の流派は小太刀が主なものであり、レヴァンティンのような刃渡りのある太刀はあまり使わないはずだ。しかし、片刃の長剣を振るう美由希の姿は、それなりにさまになっている。
 ふと、シグナムはあることを思い出した。
 それは、ほんの微かな疑惑。
 気にはなっていたが、特に問いただす必要もあるまいと放置していた些細な疑問だ。
 だが、今の状況ならすぐに結果が出るだろう。
 興味は、思わず口に出てしまう。
「レヴァンティン」
“Jawohl.”
 シグナムの言葉に、レヴァンティンが応えた。
    え?」
 魔力展開。
 美由希の足元に、魔法陣が形成される。
 それは、白銀の、ベルカ式魔法陣。
    やはり、な」
 それは、レヴァンティンの魔力を励起させただけの行為だ。
 にもかかわらず、握る美由希の魔力も連鎖して高まりを見せた。
 つまり    
「……えと、いつから、気が付いてたの?」
「いや、確証があったわけではないがな……ユーノとクロノがおかしいおかしいと何度も言っていたのだ。歴代の白銀しろがね所有者の中でも、美由希と恭也のそれは少し強力すぎると。もとより魔導師であった所有者でも、かのデバイスをあそこまで使いこなしていたものはなかなかいなかったそうだ」
 リンカーコア改変を受けたにしても、二人が使いこなした魔力は異常と言って良かった。恭也に至っては、支配を受けた直後から多種の魔法を使いこなしている。
 だが、事件後意識を取り戻した二人は魔法を使わなかった。
 ゆえに、時空管理局は二人を魔導師として認定することはなかったのだが    
「あはは……まあ、隠していたわけでもないんだけど」
 美由希はレヴァンティンを握ったまま、少し目を閉じた。
 ジャージとシャツだけだったその姿が、瞬く間に新たな衣装に覆われる。
 純白の正装。
 それは白銀しろがねに支配されていたときのそれとほとんど同じ、美由希の騎士甲冑。足元に展開された魔法陣がひときわ輝き、駆動する。
 美由希の身体が、ふわりと浮いた。
 わずか数センチほどの、飛翔。
 だがそれはどんな体術による跳躍でも、糸を使ったトリックでもない。
 純粋な、魔力による飛翔だ。
「恭ちゃんとも話をしたんだけど、私たちは、御神の剣士なんだ。ベルカの騎士じゃない」
 彼女が目を開けると、魔法陣と騎士甲冑は幻のように消え去った。
 美由希の足も、しっかりと道場の床を踏んでいる。
「魔法が邪道だなんて思ってるわけじゃないけど……でも、必要のない時は使わないでおこうって、そう二人で決めたんだ」
 美由希は笑う。
「そう、か」
 シグナムはただそれだけ答えて、美由希からレヴァンティンを受け取る。
「そうだな……我々はベルカの騎士。美由希は御神の剣士。信じて歩む道が違っているのは、当然だな」
「うん……まあ、そうだね」
 美由希は、少しだけうつむいた。
 それは、二人の歩む道がいずれ遠くなっていく事を示しているからだ。
 こうやって剣を交える機会も、少なくなるかもしれない。
「だが    
 シグナムは、鞘に収めたレヴァンティンを美由希へと向けた。
「私たちは、友だ。剣を交えた、またとない友」
    うん、そうだね」
 美由希も、鞘に収めたままの小太刀をシグナムへと向ける。
 二つの刃先が、軽く触れあう。
    はああっ!」
    たああっ!」
 そして、再び剣戟の音が道場に響く。



 季節は、もうすぐ春。
 よく晴れた海鳴市の空を、二羽の鳥が踊るように翔け抜けていった。



 

(Fin)


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あ と が き

 

 

 

 

と、いうわけで。
『銀光に舞えよ不死鳥』これにて完結です。

たぶん自己最高の文章量で、大変ではありましたが、いままでで一番書いていて楽しかった作品だと思います。

この作品を書くきっかけになったのは、御神流とシグナムの対戦SSを読んでみたい、というありがちな興味でした。
しかし、あまりなのは関係のサイトを知らなかった私はそんなSSを見つけきれず、がっかりしながら愚痴っていました。
そんなおり、とらハシリーズを私にプッシュしてくれた某氏による
「無いんならちょーさんが書けばいいじゃない。俺も読みたい」
という一言がきっかけになりました。

それまで執筆中だったコミケ用の作品(筆が進まず、かなり苦戦中でした……)を一度中断し、プロットを立てたのはいいのですが、気が付くと微妙に違う話になっているような気も……けれど、これはこれで有りだろう、という判断を下したあと、そのままものすごい勢いで執筆が進んでいくことになったのです。
結局、コミケには本来の作品が間に合わず、ジャンル違いのこの作品が新刊として置かれることになってしまったのですが……まあ、それはまた別の話。たぶん。

というわけなので、この作品を書いた原動力の一部は間違いなくその某氏に読んでもらって、楽しんでもらいたいという欲求(笑)から来ています。
この場を借りて、その某氏に感謝を。

 

ただ、この作品ですが、最初はネットで公開する予定はありませんでした。
同人誌として発表する以上のことは考えておらず、そのため体裁もほぼ文庫サイズで収録することを前提にして整えていました。

しかし、途中でwebでも公開することにしたため、web版はちょっと文字が詰め込み気味の印象があったかもしれません。
紙媒体で読む分にはちょうど良いくらいだと思うのですが、やはりwebでは横書きになってしまうこともあり、そのまま持ってくるのはいろいろ難しいと感じます。

読者の皆様には少し読みにくい作品になってしまったかもしれません。
それでもおつきあいしてくださった皆様、ありがとうございました。

そして、いわば完全版である文庫版を購入してくださった皆様も、本当にありがとうございました。

 

さて。

実は、この作品のプロットを立てる前に、シグナムさんが主人公を勤めるまったく別の話を、脳内プロットだけ立てていました。その話そのものはお蔵入りというか、もとから他人に見せるような物ではない与太話でしたが(笑)、一つだけこの作品に受け継がれたものがあります。
『白銀』は、実はそのプロットから拝借してきたのです。
とはいえ、受け継いだのは銀色の魔力光を放つユニゾンデバイスベースのアームドデバイスであるという設定くらいで、形状もランスから小太刀になりましたし、名前も変わっています。

強力なデバイスであるという設定も一応そのままです。ただ、この話は一応高町美由希とシグナムが主人公ですので、性能は多少控えめになってしまいましたが。

 


実に長いおつきあいでしたが、とりあえずこの話はいったんここでおしまいです。

次作、次次作はすでに動き出していますけれど、いずれ……いやいや(笑)

 


ともあれ、まだまだバリバリ書いていきますので、これからもよろしくお願い致します。

それでは。

 

   
       
       

公開開始 2006/9/16