2002年12月09日 【CD新譜】斎藤雅広 展覧会の絵〜ザ・ヴィルトゥオーゾ

○斎藤雅広 展覧会の絵〜ザ・ヴィルトゥオーゾ(ワーナー,WPCS-11463国内盤)2002年
録音場所:笠懸野文化ホール 使用ピアノ:ヤマハCF3S

 日本のピアニストでは大衆的に知られている部類になる斎藤雅広氏の、かなり意外なことに初の本格的ソロアルバムである。僕がこの人に注目してきたことは、既に何度か書いている。今や彼は、室内楽や歌曲の世界において、日本一の伴奏者の地位を確立した。演奏会広告でその名を見かけることは数え切れないほどで、国内盤CDでも、伴奏者として何度登場していることか。しかし実は、「芸大のホロヴィッツ」と呼ばれたことがあるほどの技巧派である。

 収録曲はラ・カンパネラ、展覧会の絵、スクリャービンの練習曲作品2-1、そしてワーグナー=リストの「イゾルデの愛の死」ということで、斎藤氏のホロヴィッツへの憧憬をストレートに表した選曲だ。といってもホロヴィッツ編を弾いているわけではない。かといって楽譜通りでもなく、斎藤氏が自由に手を入れている。
 なるほど、相当な力演だ。ところどころホロヴィッツばりの爆音が聞こえるのもよろしい。しかし、本来なら僕は心から感動し、貪るように繰り返し聴く筈なのに、そうはならなかった。
 僕は、自分が中学か高校の頃、FM放送で聴いた斎藤氏の演奏をおぼろげながら覚えている。確かプロコフィエフの「ピアノソナタ第7番」だった。そうだ、あの演奏とこのCDは同じだ。極めて豪快、タイプ的には正にヴィルトォーゾなのだが、どうも弾き飛ばしの傾向がある。細部において大切な音が飛んでいるのだ。どうみても指もつれ、みたいな部分もある。多くの日本のピアニストよりは遥かに上手いのは確かだが、もはやアムランのようなピアニストを知ってしまった耳からすれば、これは本物の技巧家とは言えない。斎藤氏が自由に手を入れていると述べたが、どうみても楽譜の読み違いでは?という箇所もある。また、ペダリングが雑である。スクリャービンなど、各声部を実に丹念に歌わせようとしているのはわかるが、ならばもっとペダルに気を使って欲しかった。

 というわけで全く褒めていないが、しかし僕は、やっぱり何だか嬉しくなった、共感した。日本に色んなピアニストがいるけれど、実は僕自身の指向性に一番近いのは、ほかならぬ斎藤氏だということを、このアルバムを聴いて再確認することになったからだ。楽譜にちょいと手を入れたり、時折爆音を鳴らしてみたり、独奏よりも伴奏の方が上手だったり、ホロヴィッツへの憧れが原点だったり、時にはクラシック以外にも手を伸ばしてみたり(しかもそれをクラシック風にアレンジしたり)。これからも応援しよ。彼がどこかで「クラシックは難しくないというのが風潮だけど、クラシックはとても難しい。難しいからこそ、その世界への導入が大変で、大切」といった趣旨のことを述べていた。僕もアマチュアの一愛好家として、そんな彼の精神を見習っていきたい。



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