青島広志(あおしま ひろし、1955-)

 僕は、この人が過小評価されているんじゃないかと、心配している。作品の内容から、
必要以上に軽く見られているのではないかと。でも実際には、彼は東京芸大卒の作曲家の
中でも、特に声楽曲を作る能力に恵まれた一人と言って差し支えないのではなかろうか。
オペラの喜びを知っているのも重要だ。ただの物まねでオリジナリティがないという意見
もありえようが、先人たちの作曲技法をいとも簡単にとりいれ、自分流に調理し、決して
不自然ではなく提示する器用さは、やはり驚嘆すべきものだ。真面目な合唱人からは批判
の的になっているかもしれない、初期の「マザーグースの歌」、特に最初に出版された5
曲は、僕としては合唱の名曲の一つに数えているのだが。ノンビブラートの合唱声でも、
オペラティックな声でも歌えて、難しいこと考えず楽しめるの、他に探すのは難しい。
 それから、彼が自作のピアノ伴奏をするのを、僕は数回見ている。指の回りはピアノの
専門家には遠く及ばないが、音楽的には、やはりたいしたものだ。青島氏に限ったことで
はなく、合唱の伴奏程度の技巧で済むピアノパートなら、ピアニストよりも作曲家に伴奏
させるべし。

 作品はオリジナル、編曲とも非常に多く、全体像はよくわかっていないのだが、手許に
ある音源に触れておく。まずはオリジナル曲から。
○栗山文昭指揮コーロ・カロス、ピアノ:作曲者(VICTOR,VICG-40182)89年
 前述の「マザーグースの歌」。ピアノ独奏の小序曲を除いて14曲(ただし「ゆくゆくあ
 あるいて」を3回演奏しているので、それを1曲と数えれば12曲)。演奏は、ちょっと
 マジメ気味ではあるが、ブラヴォー!混声版の決定盤としてよいだろう。楽譜を見ただ
 けではどんな音が鳴るのか想像しにくい「十にんのニグロのこども」や「おかあさまが
 わたしを」が入っているのが大きい。残念なのは、収録曲が「マザーグース」だけで、
 40分弱で終わってしまうこと。それと、音がマイクに近すぎること。なお僕は、「マザ
 ーグース」の楽譜については混声、女声、男声版をそれぞれ持っている。ピアノパート
 が少しずつ異なって書いてあるからである(笑)。
○北村協一指揮盛岡コメット合唱団、花巻女声合唱団、関西学院グリーグラブ、
 ピアノ:作曲者(東芝,CZ28-9079)85年
 同じく「マザーグース」。小序曲2つを除いて13曲。上記盤との選曲の違いは、「十に
 んのニグロのこども」「おかあさまがわたしを」がない代わりに、「ねどこにいちばん
 のり」「ミルクよバターに」「バビロンまではなんマイル」が入っていること。「ソロ
 モン・グランディ」「くぎがふそくで」「ほねとかわのおんながいた」が男声合唱なの
 も特徴。こちらの演奏もなかなかよく、勢いとサウンド状態は上記盤より良いと思う。
 また、大中「五つのこどものうた」、福井文彦「動物園」「空・道・河」という、自分
 の中高時代を思い出す昔懐かしい作品がカップリングされている点でも嬉しい一枚。
○安井直人指揮OSAKA MEN'S CHORUS(GIOVANNI RECORDS,GVCS30502)2003年ライヴ
 同じく「マザーグース」から、「ばらはあかい」、「ソロモン・グランディ」、「十に
 んのニグロのこども」の3曲。男声合唱音源という価値がある。「十にん」はなかなか
 音楽的な演奏だと思う。ただ「ソロモン・グランディ」の中間部は、あとからライヴを
 こうして録音で聴くと、盛り上げるのも簡単じゃないなと感じてしまう。舞台を見てい
 るだけなら、きっと楽しいだけだったのだろうが。
○栗山文昭指揮千葉大学合唱団、ピアノ:作曲者(FONTEC,EFCD3003)87年
 混声のための「本家マザーグースの歌」。演奏はとても良いが、どうも曲の出来栄えの
 方が、僕には「マザーグース」ほど面白くない。ベートーヴェンの第九をそのまま使っ
 た引用も効果絶大とも言いにくい。
○栗山文昭指揮宇都宮大学混声合唱団、ピアノ:作曲者(FONTEC,EFCD4001)88年
 混声合唱のためのシアターピース「星からとどいた歌」。僕はこの作品を舞台で見たこ
 ことがないのだ。当盤で音だけを聴くと、音楽自体の力の点で、いま一歩かなあという
 ところ。なお演奏は非常に健闘しており素晴らしい。演奏時間は44分弱。なお、合唱団
 「弥彦」の演奏会記録を聴かせてもらったこともある。
○栗山文昭指揮合唱団OMP、ピアノ:作曲者(VICTOR,VICG-60159)89年
 Nコンの課題曲だった「トマトの夕焼けスープ」が、ビクターの日本合唱曲全集の中の
 「混声合唱愛唱曲集」というアルバムに入っている。しかし他の収録曲からみて、なぜ
 こういう題名のアルバムに収録されたのかが不思議。演奏自体はマトモ。なおこの曲は
 もともと中学の部の課題曲で、この録音のために混声四部版を作ったとのこと。
○栗山文昭指揮千葉大学合唱団、ピアノ:浅井道子、パーカッション:松倉利之
 ピアノとパーカッション付きの合唱劇「子供の十字軍」で、新実徳英氏との共作になっ
 ているのが珍しい。既に、一柳氏の名曲がついているブレヒト作、長谷川四郎訳のテキ
 ストを使って新作を問うとは勇気ある試みだが、僕には、一柳の作曲スタイルの方が、
 ずっと相応しく感じられる。演奏時間は40分強。このCDは、千葉大学の第50回定期演
 奏会の演奏記録盤である。

 手許にCDがあるオリジナル曲は以上である。この他、児童合唱のためのミュージカル
「11匹のネコ」を店頭でみかけた気がするが未聴。また、男声合唱曲「ギルガメシュ叙事
詩」がCDで出ているが、実演でいい思い出がないため(退屈しちゃって)、CDに手が
伸びていない。他にもオリジナル作品が大量にあり、出版作も多い。僕が実演で聴いたこ
とがあるのは、まず「タイタニック号の沈没」の混声版を、湘南市民コールと松原混声合
唱団の86年の合同演奏会で。長い曲だったが、終わりの方の盛り上がりはなかなか。それ
から自分がコンクールに夢中だったころ、無伴奏混声の「受胎告知」が課題曲で、歌った
り指揮したりしたことがある。

 また、僕は不勉強で彼のオペラに触れたことがないのだが、「黄金の国」あたりは素晴
らしいのだそうだ。

 続いて編曲作品に。この分野、青島氏の才能全開という趣きで、もっと評価されてよい
と思っている。クラシック音楽の有名な旋律をそのまま引用して組み合わせる、彼がよく
使う手法もバッチリ楽しめる。これも量が膨大で、まず手許にある音源から。
○栗山文昭指揮女声合唱団彩の会、コーロ・カロス、千葉大学合唱団、平松混声
 合唱団、都立日野高等学校合唱部、ピアノ:作曲者(FONTEC,EFCD3076)86年ライブ
 日本歌曲を題材にした「戻ってきた歌」というシリーズから23曲を収録。上記5つの合
 唱団で分担し、合同合唱もある。実力ある団体揃いで演奏レヴェルは十分。僕には日野
 高校の若々しい声が眩しい。カロスや彩の会が、今よりも声のビブラートが目立つのが
 興味深い。「みかんの花咲く丘」では、マスカーニのオペラ「カヴァレリアルスティカ
 ーナ」から「オレンジの花は香り」を上手く引用している。選曲では、橋本国彦の先鋭
 的な歌曲「斑猫」を合唱曲にしたとは恐れ入る(話逸れるが、橋本の歌曲のいくつかは
 びっくりするくらい進んでいる)。なかなか楽しめるアルバムだが、全部続けて聴くの
 には適さないかも。
○モナリザの微笑み/合唱隊(DENON,COCO-6225)90年
○走れコウタロー/合唱隊(DENON,COCO-9733)90年
 以上2枚は、60年代ポップスの編曲集で、前者が17曲、後者が16曲。とても面白い編曲
 が出来上がっている。演奏する合唱隊は声楽を専門に勉強した20代の男女8名の小アン
 サンブルで、どちらかといえばオペラティックな声を武器にするが、青島作品はこうい
 う声も受け入れる。ピアノ伴奏では作曲者が弾き、器楽アンサンブル伴奏の場合は作曲
 者指揮。なお前者盤のメンバーには、今やビッグネームになった澤畑恵美氏がいる。楽
 譜も出版されているが、前者盤の「黒ネコのタンゴ」「恋の季節」などの未出版曲(残
 念)がいい。
○平松剛一指揮平松混声合唱団(FONTEC,FPCD2266)
 どれくらい量があるのかは知らないが、青島氏には歌謡曲の編曲物もあるようだ。この
 分野で、実演で結構感動したのは、千葉大学合唱団の定演のアンコールで聴いた細川た
 かしの演歌「北酒場」。編曲としては素直なものだったが、演奏が良かったのかもしれ
 ない。さてこの盤ではチャゲ&飛鳥の「SAY YES」が聴ける。素直な編曲で、平松混声
 合唱団は日本語の歌の上手さでは当代最高だから、意外とイケる。店頭では買えず、平
 混に直接申し込んで買えるアルバム「平松混声合唱団 合唱曲選集2」に収録。

 音源は以上だが、この他にも編曲はたくさんあり、出版作も多い。イタリア歌曲の編曲
などもあるが、僕が注目しているのは、「泰西名歌集」としてまとめられた楽譜に含まれ
ているムソルグスキー「のみの歌」の混声合唱編曲版。これが鮮やかに演奏される様を見
たいと願い続けているのだけど、今のところ機会に恵まれない。また、編曲物で僕がこと
のほか気に入っているのは「ファンタジーワールド」。ディズニーランド好きなら見逃し
てはならない。
 なお、2001年初頭時点の状況で情報を付言しておくと、「マザーグースの歌」と一部の
編曲楽譜が、出版社を買えて続々と出版し直されつつある。


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