團伊玖磨(だん いくま、1924-2001)
中国・蘇州旅行中に突然お亡くなりになった團氏。彼は合唱人なら知らぬ者とて無い、
偉大な作曲家だった。あの「ぞうさん」の作曲家だから、国民皆、團作品を歌ったことが
あるわけだ。エッセイ「パイプのけむり」を愛読した方も多いことだろう。
作曲家としては複数ある本格的な交響曲がよく知られているし、「夕鶴」を代表とする
オペラ作家としての業績も忘れることができない。しかし僕はあろうことか、代表作「夕
鶴」をきちんと全曲聴いたことがない。これは今後の課題。「ひかりごけ」の舞台にのっ
たことがある合唱人に聞くと、團氏の偉大さを再認識したということだから、やはりこの
分野こそ注目なのだろう。最近作「建」が、その保守性ゆえ大きな批判を浴びたことも記
憶に新しい。
「ひかりごけ」には、低価格(税込2500円)で買えるCDがある。
○現田茂夫指揮神奈川フィル、二期会(ALM RECORDS,ALCD9035/6国内盤)2002年ライブ
低価格のせいか、解説に台本が付いていないのは非常に残念。2002年1月26日、すみだ
トリフォニーにおけるライブ録音。全曲で105分ほど。幕は2つだが、第1幕に9つ、
第2幕に6つのトラックが付されている。原作は武田泰淳で、何しろテーマが、第二次
世界大戦中を時代背景とする人肉喰い、という衝撃的なものなので、心を抉られない筈
がない。全編無調を貫いている。裁判の場面となる第2幕は、音楽の緊張感が高く、聴
き応えがある。合唱の関わりだが、第2幕で裁判の傍聴人という役回りで、混声合唱が
登場、なかなかに効果的だ。
さて合唱曲の方は、ご存知「筑後川」を筆頭に、伸びやかに声を出せる、気持ちのよい
作品がたくさんある。これも断然、聴くより歌うべし、と言えるだろう。
なお團氏の合唱曲のピアノパートは、見事にどれも似ている。ピアノだけを弾いても、
ちっとも面白くないが、合唱に合わせるのは楽しい。ピアノもガンガン鳴らせる。しかし
「河口」の伴奏、僕も中学以来、数え切れないほど弾いたなぁ。
合唱曲の演奏回数の多さでは、歌曲の女声合唱用編曲「花の街」ということになるだろ
うか。初めて聴いた時は前奏が新鮮と思った。CDも複数あるようだが、手許にあるのは
これ。
○宍戸悟郎指揮札幌大谷短期大学輪声会、ピアノ:海江田尚子(VICTOR,VICG-60157)89年
「女声合唱愛唱曲集」というタイトルのアルバム。
さて、合唱曲の一般発売音源は、現在では少ない。
○筑後川、海上の道/本間四郎指揮久留米音協合唱団、ピアノ:中島政祐(筑後川)、
畑井多恵子(海上)
岬の墓/森正指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VDR-5080)67,81年
この「筑後川」は、技術的には特筆すべきものはないが、生き生きと歌っているのが伝
わるところが良い。こういうCDは、なかなか無いものだ。「海上の道」は團作品でも
通好み。かつては頻繁に演奏され名曲の声が高い「岬の墓」だけは67年と古い録音でノ
イズは気になるが、声の勢いは伝わるし、ピアノが瑤子さんだ。なおビクターの再発売
音源VICG-40197では、選曲は同じだが、「岬の墓」だけを新音源に差し替え(未聴)。
辻正行指揮クロスロード・アカデミー・コーア、ピアノ:黒尾友美子。
○岬の墓、二つの碑銘、筑後川/福永陽一郎指揮日本アカデミー合唱団、
ピアノ:三浦洋一(東芝,CZ28-9073)
とにかく声が豊かで、大らかに歌い上げる、という感触が心地よい。細部を気にしなけ
れば十分に鑑賞水準。三浦氏のピアノもこのように骨太の作品には向いている。但し、
録音状態が良くない。これでもっとサウンドがよければ推薦盤にできるのに。湯山「コ
タンの歌」と併録。
この他の注目音源では、「筑後川」の管弦楽伴奏版が東芝のセット物に入っていた。
現在でもたまに演奏される合唱曲としては、上述の東芝盤に収録されている無伴奏混声
のための「二つの碑銘」が最も古い。その2曲の中でも「七里浜」を歌った経験のある方
はそれなりにおられるだろう。名曲「筑後川」は68年。「筑後川」と言えば、2台ピアノ
伴奏版(高嶋みどり編)も実演でとりあげられることがあるようだ。特に重要な作品とし
て、宮沢賢治の詩による「原體剣舞連(はらたいけんばいれん)」(1975)をあげておきた
い。すぐ終わってしまうが、ピアノと打楽器の原始的感触のある鮮烈な音響が聴きどころ
の混声合唱曲。僕は東混の実演を聴いたことがあるが、とびっきりのサウンドで録音され
ると嬉しい。混声合唱組曲「大阿蘇」「北の大地」あたりも、一時期はコンクールの自由
曲として流行していた。同じ系統の「玄海」が特に力作で、録音があってもよさそうなも
のだ。管楽器のオブリガード付きの「木曽路」「紀州路」については、未聴。最近の「川
のほとりで」など、出版作は少なくない。女声合唱曲では「燕の歌」や「巴里小曲集」な
どが出版されているが未聴。後者は2台ピアノが必要だから、是非一度は聴いてみたい。
こうしてみると、演奏会などでとりあげられる割には録音された曲の種類が少ない。
(トップページへ) (快楽派宣言!「邦人編」の頭へ)