三善晃(みよし あきら、1933-)

 三善作品が合唱人の宝であることは言うまでもないし、僕自身も好きな作品は自分が死
ぬまで好きだろう、という位にどっぷりと漬かっている。これほどまで優れた合唱曲を、
これほど多数になるまで作曲されると、後に続く者たちには仕事がなくなる。僕が生きて
いる間は、もう合唱の分野で三善氏を凌ぐ仕事をする作曲家を見ることはできない可能性
が大きい。ところで、賛辞は皆さんも聴き飽きたことだろう。ここではせっかくだから、
マイナスの側面、というと言い過ぎかもしれないが、僕が最近感じ始めた、称賛一辺倒に
なれない気持ちを書くこととしたい。

 とにかく、三善作品は難し過ぎないか。よほど音楽を学んだ人でないと理解できない部
分が多かろう。何故これほど絶賛されているのか、正直言って僕には不思議である。指揮
者や合唱団内で技術系において中心になる団員たちに好評なのはよく理解できるが、自己
主張の乏しい日本人だから、その周辺の団員たちの声は弱く、かき消されているのではな
いか。また、三善作品を否定的に言うと、「あいつは音楽がわかってない」と悪く思われ
る、そんな風に考えている人も多いのではないか。もしそうだとしたら、それは良くない
ことだ。僕がこの「快楽派宣言」という駄文で最も強く訴えたいのは、「皆さんもっと、
感性で曲を捉え、自分自身の言葉で語ってみませんか?そうすれば、皆さんの合唱団は、
もっと良くなるのではありませんか?」ということだ。
 それから、僕にとっての三善作品は、87年の交声詩「海」で一段落なのだ。それ以降の
作品は、さっぱりわからなくて、本当に困っている。どうやって演奏すればよいか、楽譜
を眺めていても思い浮かばないのだ。作曲技法的には新しい挑戦も指摘できるだろうし、
いずれの作品も、相変わらずの高水準。それはわかっているのだが、ついていけない。旋
律にも和声にも、かつての三善作品ほどの魅力が感じられない。特にメロディーラインに
は、どうやったらこれを、聴き手に「いい曲だ」と納得させることができるだろうと、と
まどうものが多い。自分の周囲には、三善と言えば目がハートという人ばかりだから、僕
の【「海」が、分かる作品の最後】説に賛同してくれる人は殆どいない(笑)。まあ未熟
な自分のこと、作曲者が、これだけ多数の合唱曲を残してもなお、新しい世界を求めて提
示する芸術に、単純についていけないというだけのことだとは思うが。それに僕の場合、
作曲家の初期作品の方を好む傾向も強い。もちろん、年輪を重ねて信じられない進化を遂
げた作曲家もいるが、それは少数派ではないかと感じている。これはクラシックに限った
ことではないが、芸術家が独創的であり続けることは並大抵のことではないとは、容易に
想像できる。初期作品の場合、自分が作曲家になりたいという気持ち、思いのたけをぶつ
けたために素晴らしいものに仕上がることが多いが、それを継続していくこと、支持して
くれる人たちをその後も満足させ続けること、それは大変なことだ。
 ここまでお読みになった皆さんは、「和泉範之という奴は、ホントに音楽がわかってな
い。こんな奴の言うことは、信用できない。」と失望なさったことだろう。が、とにかく
自分の思うことを正直に書くというのがこのサイトの基本方針、僕はこんな風に音楽を感
じています。

 ところで合唱の話に行く前に、三善作品を指揮しよう、或いは合唱曲でピアノパートを
演奏しようという人は、合唱以外の三善作品に接することが重要ではないかと思う。器楽
作品も、実にいい。特に管弦楽曲は素晴らしい。ピアノ曲も、自分には弾ける筈がないこ
とはわかっているのに楽譜を仕入れてきて、それっぽい音が鳴ると狂喜したり。鑑賞のた
めの参考盤を挙げておこう。たくさん接することによって、何となく「三善らしさ」が体
感できるようになるだろう。僕も以前は、特にFM放送で三善作品がオンエアされる場合
は、どんなジャンルでも必ずエアチェックして聴くようにしてきた。手許にあるピアノの
CDを2枚と、声楽関係で歌曲のCD2枚を紹介しておきたい。
○シェーヌ、アン・ヴェール、ピアノソナタ/小賀野久美(PHILIPS,32CD-3024)84年
 ピアノ独奏のための代表作を3つ。冴えた演奏が心地よい。録音状態がもう少しよけれ
 ば、もっと楽しめただろう。ピアノという楽器の音はもっと美しい筈だ。当音源はベル
 ギーのマイナーレーベルから発売されたりもしている。
○「音の森」より、「海の日記帳」より、こんな時に、カイエソノール、唱歌の四季/
 ピアノ:田中瑤子、三善晃(FONTEC,EFCD3201)86年
 独奏曲は田中瑤子、連弾の「カイエソノール」と2台ピアノの「唱歌の四季」には作曲
 者が加わる。合唱版が有名な「唱歌の四季」だが、特に終曲など、合唱版とかなり異な
 る部分もある。「海の日記帳」には作曲者独奏による全曲盤もあった。
○歌曲集1:超える影に、沿海三部作、抒情小曲集、子供のうた(VICTOR,VICC171)94年
○歌曲集2:4つの秋の歌、白く、聖三稜玻璃、高原断章(VICTOR,VICC5051)71年
 歌手はいずれもソプラノの瀬山詠子氏、ピアノは前者が作曲者、後者が三浦洋一氏。

 さて合唱曲だが、まず、既に百曲を超えている作品の一覧を知るのに、必見のサイトが
あるから紹介しておきたい。法政アリオンコールのホームページの中に、三善晃氏の合唱
曲一覧があり、それだけでなく、CD一覧や演奏会情報も網羅されている。このような、
真に役立つ情報サイトというのは、なかなか無いので、作成者に賛辞を送りたい。
http://village.infoweb.ne.jp/~fwjb0528/index.htm

 では以下は例によって僕の雑言。僕が自分で触れたことのある作品(知らない曲も幾つ
かあるので)を年代順に挙げて、音源や実演体験などについて述べていきたい。なお、今
さら言うまでもないが、三善演奏においては、田中信昭、栗山文昭、田中瑤子という三人
の演奏家の貢献に言及しないわけにはいかない。改めて敬意を表したい。

■オンディーヌ(女声、59)
 NHKのラジオドラマ。かなり古い物だが、数年前にもFMで放送されていて、僕も個
人鑑賞のためにエアチェックした記憶がある。CDの形で発売されたこともあるが、手許
には持っていない。田中瑤子氏が初めて弾いた三善作品というのがこれで、オーケストラ
の中でチェレスタ担当だったそうだ。

■トルス2(混声、61)
 混声合唱とピアノだけでなくエレクトーンが演奏に必要という編成にも関わらず、今で
も時折演奏される。三善独特の音楽の切れ味は、既にここで完成されているように思う。
かなり難しい曲ではないが、濃厚ファンならチェックしておきたい。僕も東混の実演に接
したことがある。萩原朔太郎ファンなら特に注目。

■三つの抒情(女声、62)
 ピアノ伴奏付き女声合唱曲としては、疑いなく決定的な名曲。こんな曲があるもんだか
ら、僕は60年代の作品だけで三善晃という人の業績は不滅と考えている。この曲のピアノ
パートを触ることは、僕にとっては無上の幸福。ただし第2曲はピアノだけでは余り面白
くない。第1曲を弾いていたら、ピアノファンに、ラヴェル「マメールロワ」とそっくり
の楽想が終わりの方にあると指摘された。うん、確かにウリ二つ。第3曲「ふるさとの夜
に寄す」ほどの合唱名曲は、音楽全体としてもピアノだけをとっても、今後も生まれるこ
とがないかもしれない。
 CDだけでなくコンクールや演奏会の実演も随分と耳にしてきたが、鑑賞経験の中では
何と言っても、合唱団「彩」の定演における田中瑤子氏の最期のステージを忘れることが
できない。僕はカザルスホールの客席で、瑤子さんもこの曲を自在に弾くことは出来なく
なったなという感想を抱かざるを得なかった(この時は既に、彼女の体調が非常に悪かっ
たのに、僕はそれほど悪いとは全く知らなかったのだ、ああ!)。それでもなお、第1曲
や第3曲の前奏では、涙を流すしかなかった。あの音の感触は、今でも僕の頭に残る。今
後、自分がピアノを弾く時は常に、この記憶を頼りにしていきたいと思っている。あの夜
の合唱団員は幸せだ。でも僕だったら、舞台で歌うことなど出来なかっただろう、ピアノ
の音だけで絶句して、声が出なかっただろう。
 録音では複数音源があるが、僕が聴いた中では、LP時代の音源で結局CDにはならな
かった、田中信昭指揮東混の旧録音が一番いいものだった。こういう文章を書いていてこ
う言うのは何だが、邦人合唱曲の録音で、その音だけを聴いて曲に感動する、というケー
スは非常に少ないものだ。しかし僕が「三つの抒情」を好きになったのは、多分、この録
音を聴いたせいではないかと、おぼろげながら記憶している。その記憶があるので、以下
に挙げるものは参考盤程度、という位置付け。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VICG-40204)86年
○福永陽一郎指揮中国短大、ピアノ:三浦洋一(東芝,CZ28-9087)
 ピアニストの技巧不足が気になる。カップリングのこともあって手放していない。
○栗山文昭指揮女声アンサンブルJuri、ピアノ:浅井道子(NAR,NAR2005)2001年ライブ
 浜離宮朝日ホールでのライブ。ピアノの音が実に美しくとれているのが嬉しい音源。
○松下耕指揮国立音楽大学女声合唱団アンジェリカ、ピアノ:浅井道子(MFM010141)
 2004年、府中の森どりーむホールでのライブ録音。こちらは逆に、音の悪さで損をして
 いる音源。
○清水昭指揮甍、ピアノ:小森瑞香(プライヴェート盤,EBCD-0056)2000年ライブ
 福永陽一郎氏による男声合唱編曲版を、清水昭氏が改訂した版を使用。男声合唱だとど
 うなるか、音で聴きたい人はこれを。第39回演奏会のライブ録音。

 さて、以前は上のように書いたが、新時代のスタンダードになりそうな音源を聴くこと
ができた。2種類あるが、僕の好みはどちらかというと前者。
○メロディーは愛/松下耕指揮Brilliant Harmony、ピアノ:浅井道子(プライヴェート盤)
 2002年5月の定演ライヴ。川口リリアにおける合唱とピアノの美しい響きを捉えた録音
 も魅力だが、何と言っても、演奏が素晴らしい。この旋律の歌いあげ方を、僕はことの
 ほか気に入っている。
○栗山文昭指揮栗友会女声、ピアノ:浅井道子(NAR,NARD-5005)2004年
 こちらも優れた演奏。「栗山文昭の芸術3」と銘打たれた、三善アルバム。


■嫁ぐ娘に(混声、62)
 こちらは無伴奏混声という編成での決定的名曲。しかし僕は、「嫁ぐ」名曲論には異論
がある。名曲だと語り継がれているのは、歌い手の感動が大きいからであって、その感動
を聴き手に伝えるのは至難なのではないか。現に手許にあるCD3種(田中信昭、浅井敬
壹、若杉弘各氏指揮盤)いずれを聴いても、いい曲だとは全く思えない。だいたい、どん
な和声で鳴っているのか、聴いてもさっぱりわからない。楽譜を見て初めて、その素晴ら
しさはわかるのだが。演奏会やコンクールでも幾つかの演奏に接してきたが、自分もこの
曲を歌いたいと思えるような演奏には、お目にかかったことがない。しかしただ唯一、こ
の演奏の延長に「嫁ぐ」の理想型があるのではないかと想像される演奏を録音で聴いた。
それは東京大学柏葉会の東京六大学混声合唱連盟81年演奏会におけるライブ録音のLP。
個人技に頼るのは合唱としてはどうかという声もありそうだが、突出した歌手がいるトッ
プソプラノの声の美しさ、歌い回しの巧みさは、学生合唱団とは信じられないほどで、こ
れでこそ聴き手に訴えられるのではないかと思われた。それから21世紀に発売された音源
で静岡大学混声合唱団の98年ライヴも、相当に質が高い。学生合唱団特有の熱さが、こう
いう作品に合っているのかもしれない。
 ということで一応、一般発売CDを掲げるが、理想音源が待たれる。5番目に掲げた栗
山文昭盤が、目下のところ、理想に近づいている。
○田中信昭指揮東混(VICTOR,VICG-60152)63年
○若杉弘指揮日本合唱協会(コロムビア,COCO78296)67年
○浅井敬壹指揮日本アカデミー合唱団(東芝,CZ28-9075)
○辻正行指揮静岡大学混声合唱団(GIOVANNI,GVCS10501)98年ライヴ
○栗山文昭指揮宇都宮室内合唱団ジンガメル、コーロ・カロス(NAR,NARD-5005)2004年


■小さな目(混声、63)
 子供の詩による無伴奏混声合唱曲で、今でも、人数がそれほどいない合唱団でも演奏で
きる手頃なレパということなのか、しょっちゅう演奏される。しかしこれも、僕としては
「嫁ぐ」同様の問題点(聴いててもよくわからん)があるように感じる。
○田中信昭指揮東混(VICTOR,VICG-60152)71年
○浅井敬壹指揮日本アカデミー合唱団(東芝,CZ28-9075)
 東芝盤は2000年現在、入手することができないが、とりあえずは東混盤で十分。

■三つの時刻(男声、63)
 ピアノ伴奏付き男声合唱曲。初期作品だが、80年代に入って復活、出版された。各曲は
短くとも充実した小品。僕は、その復活の舞台を生で見たことがある。
○高須道夫指揮クールジョワイエ、ピアノ:高橋寛樹(BRAINS,BOCD5301)93年
 三善の男声合唱曲だけを集めた当盤は、まさに貴重音源。

■小鳥の旅(女声、63)
 ごく小さく単純なピアノ伴奏付き女声合唱曲だが、僕にとってこれは、その日の気分に
よっては一番好きな三善作品かもしれない。大言壮語とは無縁ながら、ひそやかな叙情が
心に沁みる。ピアノパートは、詩をもって弾くのは意外に大変。「光のとおりみち」(80
年)の項も参照のこと。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VICG-40204)86年
 これも「三つの抒情」同様、同じ演奏メンバーの旧音源LPがあった。

■麦藁帽子(女声、63)
 「小鳥の旅」同様、頻繁に歌われるピアノ付き小曲。「光のとおりみち」(80年)の項も
参照のこと。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VICG-40204)86年
 同じ演奏メンバーの旧音源LPがあるのは「小鳥の旅」などと同様。
○高須道夫指揮女声合唱団SKOLION、ピアノ:桑野郁子(GIOVANNI,GVCS30702)07年ライヴ

 ・・・そういえば僕は、「麦藁帽子」と「月夜三唱」の間に生まれている。音楽は、自
分が生まれた時代を感慨を伴って推し量らせる。

■月夜三唱(女声、65)
 輝かしい三善の60年代を象徴する作品なのではないかと思っているのだが、どういうわ
けか曲の存在も忘れられがち。しかしこのモダンな音響、特にピアノのかっこよさは出色
だと思う。あの東混の名演を記録したLPが復活すればよいのに。
 21世紀に録音された、一般発売音源。
○松下耕指揮国立音楽大学女声合唱団アンジェリカ、ピアノ:浅井道子(MFM010141)
 2004年、府中の森どりーむホールでのライヴ録音。この合唱団なら、もっと上手く出来
 たのではないだろうか。
○高須道夫指揮女声合唱団SKOLION、ピアノ:桑野郁子(GIOVANNI,GVCS30702)07年ライヴ
 こちらもライヴ。林光のソング集の初演音源などとカップリング。三善は「えびがはね
 たよ」と「麦藁帽子」も聴ける。

 セット物がある。
○宍戸悟郎指揮札幌大谷フラウエンコール、ピアノ:海江田尚子
 「実践合唱名曲大系」に収録。

■子供の季節(混声、65)
 「小さな目」の系譜になる、無伴奏混声合唱曲。ただこちらの方が感触が難しくて、そ
のせいか演奏機会も比較してぐっと少ない。かつては若杉弘指揮のLPがあった。より新
しい好音源を待つ曲の一つと言えるだろう。

■四季に(混声、66)
 無伴奏混声のための超難曲。かなり昔のことだが、この曲の楽譜ほど、一体どんな音が
なるんだろうという好奇心を駆り立てるものは自分にとって無かった。ある日、民音の音
楽資料室だったと思うが、東混のLPを聴くことができた。しかし正直言って、わけのわ
からない難曲という印象しか残らず。最近になって東混の実演に接する機会もあったが、
やはり曲の理解には至らなかった。上記LP音源は、「レクイエム」などと共にCD化さ
れている。
○田中信昭指揮東混(VICTOR,VZCC-1007)70年

■五つの童画(混声、68)
 永遠に色あせることないピアノ伴奏付き混声合唱の名曲。作曲者ならではの精緻な書法
に鮮烈な抒情が同居。いまだにこの曲が邦人合唱曲のナンバーワンだと思うし、今後もこ
れを凌駕する作品は生まれないのではないかとすら思う。全5曲とも名場面の連続だが、
特に第5曲「どんぐりのコマ」の前半のアカペラ部分の言語を絶する美に接して、三善晃
という才能に平伏してしまった合唱人は数知れず。僕も振り返ってみると、自分が邦人混
声合唱曲に目を開いたきっかけの一つが、中学生の頃にテレビで見た、Nコン全国大会に
おける愛媛県立西条高校の「どんぐり」だった。その後、高校生の頃に聴いた、全国合唱
コンクールにおける合唱団OMP(現在の合唱団響)の「砂時計」と「どんぐり」も、エ
アチェックして繰り返し楽しんだものだ。
 これほどの名曲であり、かつ、演奏機会もそれなりに多かったのだが、こと一般発売音
源となると、初期のLPをCD化した東混の演奏を除き、全く現れてこなかった。21世紀
には、状況は改善されていくだろうか。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VICG-60152)73年
 初期のLPのCD化。これはこれで、今日でも存在価値を失わない。ただ美しく歌いま
 したというものではなく、激しさが録音から伝わってくる。
○栗山文昭指揮合唱団響、ピアノ:浅井道子(NAR,NARD-5005)2004年
 21世紀に入り、ようやく現れた新しい録音。長年にわたり三善音楽を追求してきた栗山
 氏と、思いを共有してきた合唱団の演奏を、重く受け止めたい。

■道(混声、男声、女声、69)
 今ひとつ人気がないし、相当な三善ファンでも曲の存在すら知らないこともあるNコン
課題曲だが、三善節が十分に味わえる珠玉の小品。セット物音源がある。
○八尋和美指揮東混、ピアノ:坂井和子
 「セット講座」第18巻のNコン課題曲集に収録。混声版。

■王孫不帰(男声、70)
 三好達治の詩による、ピアノ伴奏付き男声合唱のための超難曲。三善晃の芸術を理解す
るためには必ずおさえておかねばならない作品の一つだろう。アマチュアである法政大学
アリオンコールの委嘱作品というのも信じられない(とにかく難しい)が、最近では、高
校生がコンクールにかけてきたり(しかも、それなりに形にして)で、演奏技術の進歩の
勢いに驚かされる。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:喜田容子(VICTOR,VICG-60152)72年
 まずはこれがスタンダード音源となるだろう。
○高須道夫指揮クール・ジョワイエ、ピアノ:高橋寛樹(BRAIN,BOCD5301)93年
 合唱団の実力を曲が超えている感じ。三善の男声合唱曲だけのアルバム。
○高嶋昌ニ指揮淀川工業高等学校グリークラブ、ピアノ:加藤崇子(プライベート盤)96年
 96〜98年の定演から音源を集めたアルバム「ファイト!」に、「王孫」の第1曲が含ま
 れる。この合唱団の人数や質を維持するための努力がどんなに大変なことだろう。頑張
 れ、と心から声援を送りたい合唱団だ。しかし「王孫」の直後に、殆ど間がなく次の明
 るい曲につながる編集は、さすがにまずいかも。なお当盤には、三善作品がもう一つ、
 「三つの抒情」男声版の第2、3曲が含まれている。参考音源としてはピアニストが音
 をはずし過ぎかも。こちらを演奏するのは、OB合唱団にあたるメンズ・ウィード。

■レクイエム(混声、71)
 三善晃の創作活動の一つの頂点で位置付けられる合唱付き管弦楽曲で、戦争三部作(あ
とは「詩篇」「響紋」)のひとつ。まだ「レクイエム」しか無かった頃、これを初めてF
M放送で聴いた時には大ショックを受けた記憶がある。なんでまたこんなに恐ろしい音楽
を書かねばならないのか、本当に怖い。それから時間も随分と経って僕自身の音楽趣味も
軟派化しつつあり、今やこの「レクイエム」を聴きたくなることは無い。しかしまあ、自
分が三善マニアになれるかどうかの分水嶺として、一度はこの三部作に触れておきたい。
○外山雄三指揮日本プロ合唱団連合、日フィル他(VICTOR,VZCC-1007)77年ライヴ
 これぞ決定盤と言える音源が、ようやく2007年に初CD化された。変化嘆詠、四季に、
 ピアノソナタ(演奏は田原富子)をカップリングした、推薦盤。
○沼尻竜典指揮東京フィル,東混、東京大学柏葉会(CAMERATA,CMCD-99036/8)2004年ライヴ
 東混にアマチュアの学生合唱団が加わっているが、その健闘ぶりは大いに讃えられる。
 ただし、上記の決定盤を凌ぐのは難しい。
○尾高忠明指揮N響、東混(VICTOR,VDC1049)85年ライブ
 これは三部作を一挙演奏したライブの録音。僕はこれを、実際に東京文化会館の客席で
 聴いていた。が、合唱団の人数が少なすぎて、拡声器を使っていたので、本番でも不満
 を覚えたし、CDでも一緒。これだけオケに絶叫されると合唱が存在感を訴えるのは大
 変だが、これでは不十分だ。

 その後、新垣隆氏による2台ピアノリダクション版が出版され、ライヴ音源も発売され
た。この曲を偏愛する人は必聴だ。
○山田和樹指揮東混、東京大学柏葉会合唱団OBOG有志(FONTEC,EFCD4118)2007年ライヴ
 終曲の最後の一音が7分50秒あたりで消えた後、拍手は8分50秒あたりから始まる。音
 が消えた後、一分ほどの沈黙が記録されたのは、貴重だ。カップリングは「海」と「唱
 歌の四季」。

■四つの秋の歌(女声、71)
 歌曲の名曲の合唱編。全曲のCDは僕がもってないだけで以前あった気もする。「林の
中」だけは録音も発売されており、確かに単独演奏するに足る佳曲ではあると思う。
○田中信昭指揮東混、ピアノ:田中瑤子(VICTOR, (VICTOR,VICG-40204)86年
○栗山文昭指揮女声アンサンブルJuri、ピアノ:浅井道子(NAR,NAR2005)2001年ライブ
 Juri盤は演奏会ライブのアンコール。

 ついでにここで、「林の中」のオリジナルの歌曲版のCDを一つ挙げておきたい。なぜ
なら、ここでピアノを弾いている斎藤雅広氏こそ、合唱には全く進出していないし、その
可能性も無いだろうが、日本最高の伴奏者だから。ニュアンスに富んだピアノを楽しみた
い。
○日本のうた〜さくら横丁/雨谷麻世(sop)、斎藤雅広(p)/(ライブノーツ,WWCC-7355)99年

■オデコのこいつ(童声72)
 このあたりまでの三善作品は、どれも特別の輝きを放っていた。これまた戦争をテーマ
にした、何とも恐るべき児童合唱曲で、この分野でここまでの音楽表現を要求する曲は、
ちょっと見当たらないし、今後も出てこないのではないだろうか。また、日本人の中の戦
争の記憶が遠ざかる一方の状況下では、演奏機会も減っていくだろう。
 CDでは一般に入手しやすい好音源がある。
○田中信昭指揮東京荒川少年少女合唱隊、ピアノ:田中瑤子(VICTOR,VICS-61011)74年
 「狐のうた」、「唱歌の四季」とカップリングしており、邦人合唱曲の音源ライブラリ
 ーを揃える上で、基本アイテムとなるだろう。総録音時間が約40分なのが短かすぎ。
○田中信昭指揮ひばり児童合唱団、ピアノ:田中瑤子(KING,KICG3006)
 現在は廃盤になっているのが残念だが、こちらも好演だった。間宮「マンモスの墓」、
 南「チコタン」というカップリングも魅力。

 セット物の存在にも触れておく。
○田中信昭指揮多治見児童合唱団、ピアノ:北住淳
 「セットジュニア」第3巻に収録。
 なお、この音源は2008年にライセンス発売で一般入手が可能になった。
○同音源(GIOVANNI,GVCS10811)97年
 マザーグースの三つの歌、朝の羽ばたき、わらべうた、狐のうたをカップリング。

 組曲の頂点となる「ゆめ」には、80年全国合唱コンクールでの安積女子高の圧倒的名演
があり、合唱コンクール名演集のCDに収録されている(ブレーン、BOCD5001)。こういう
のを聴くと、合唱界は、それ以来何も進歩していないように感じる。その後もコンクール
でよく耳にする作品だが、いい賞をもらっている演奏でも全く音楽になってないことがあ
る。同高校は田中瑤子氏をピアニストに迎えて、後年でも自由曲でとりあげている。両演
奏を聴ける、安積女子高校の全国合唱コンクールでの歩みを記録した2枚組アルバムもブ
レーン社から発売されている。



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